第2話 大橋 めぐるは強盗を斬る、日本刀で


「大変なんだよ。助けて、優」

「大変で助けて欲しいのはお前に首を絞められてる俺の方なんだけど」


 とある日の朝、俺は何故かめぐるに首を絞められていた。側から見れば殺人現場にしか見えないが、なにも間違いではないので冥福を祈って欲しい。このままだと、普通に◯ぬ。


「あっ、ごめん。焦っててつい」

「ごほっ。あのな、焦ってて人の首を絞める奴なんて世界中探してどこにいるんだよ」

「最近、バイオハザー◯にハマってて優の生気のない顔を見てたらつい」

「誰がゾンビだっ!」

「本当ごめんね。よくよく思い返してみたらバイオって銃かナイフじゃないと倒せなかったよね。首絞めてごめん」

「謝る所は断じてそこじゃないっ。...で、大変なことってなんだ?」


 これ以上、朝から無駄な声を出させられても困るので俺は話題を切り替える。めぐるにまともな返答を期待した俺が間違っていた。


「なんと、私日曜日に友達に尾家子為おかしい商店街に誘われたんだよっ」

「なるほど」


 尾家子為おかしい商店街と言えば、ここから1時間ほどの場所にある現代には珍しい大規模な商店街だ。


「...で、それは分かったけど大変なことってなに?」

「えっ、これを聞いてまだ分からないの?」

「分からないけど」

「この大型主人公の私が友達と仲良くショッピングだよ! どう考えても強盗とかが現れて巻き込まれるパターンじゃんっ」

「パターンじゃねぇよ」


 真面目に聞いて損した。これだから、この幼馴染は...。


「というわけで、今日は日曜日に現れる対強盗対策について話し合おう」

「嫌だよ。そしてなんで、いつの間にか強盗現れるの確定してんだよ。心配しなくても来ないよ」

「いやいや、朝だから寝ぼけてるかもだけど目を覚まして、よく漫画やアニメのことを思い出して見てよ。優」

「真に目を覚ますべきは現実の話に漫画やアニメの話を持ち出すお前だろ」

「友達と過ごす平穏な休日を満喫して「こんな日々がずっと続けばいいのに」と思う主人公、そんな平穏も束の間事件が起こり当たり前の日常が一瞬で崩れ去る。なんてあるあるだよ? 最早、必然と言っても過言じゃないよ」

「だから、それは漫画やアニメだけの話だって。第一、お前が望んでるのは「平穏」じゃなくて「事件」なんだからその理論でいっても事件に巻き込まれることなんてな——」

「と言うわけで、優も納得したみたいだし本題に入ろう」

「おー」


 そうだ、忘れてた。めぐるに「会話」の2文字は存在しないんだった。...どうせ、抵抗した所でめぐるが折れることはないのでここは大人しく身を任せることとしよう。


「まず、私の構想があるんだけど聞いてくれる?」

「...どうぞ」

「平和を望み休日を満喫する私と友人の前に突如として現れる強盗」

「わー、凄い確率ダナー」

「すぐさま取り押さえようとするも、友達を人質に取られ動けなくなる私」

「いや、まずそもそも強盗に遭ったら逃げろ?」

「警察に囲まれ自暴自棄になり、私の足も一歩及ばす強盗の糾弾に倒れる友達」

「死んだの!?」

「絶望のあまりその場に突っ伏し泣きじゃくることしか出来ない私。でも、最期に託された「めぐるちゃんの友達で私良かったよ」という言葉を思い出し再び立ち上がる私!」

「あっ、友達踏み台なんだ。だから死ぬ必要があったのか」

「復讐に燃える私に対し無慈悲にも拳銃を発泡する強盗」

「まぁ、殺したのほぼお前みたいなもんだけどな」

「しかし、銃弾は私の目の前で真っ二つに裂ける。驚いた強盗が見ると私の手には日本刀がっっっ!」

「警察も大変だな」

「ってな感じで、強盗解決案としては私が日本刀を待つことだと思うんだけど、どう?」


 自信満々といった様子でそんなことを尋ねてくるめぐる。


「いや、解決どころか現場に刀持った不審者が1人増えただけだよ」

「むぅ、ちゃんと卍解ばんかいもするのに」

「そういう問題じゃねぇ」

「ここで永久に凍ってろ「大紅蓮氷輪◯」」

「うわっ、なんか負けそう」

「なっ、失礼な! 風評被害だよ。ちゃんと、原作を読んでよ。普通に強いよ。というか、日本刀の何が不満なの!? カッコいいじゃん」

「銃刀法違反」

「ぐっ、法律めお前はいつまで私を邪魔すれば気が済むのだ」

「悪役っぽいセリフだな」

「しょうがない、木刀で我慢することにするよ」

「友達と商店街行くのに木刀持っていくのは異常者以外の何者でもないが、まぁ日本刀よりはマシか」

「ただしダイヤモンドを真っ二つに出来る」

「強すぎるだろ」

「凄いでしょ。なにせ、オリハルコン製だからね」

「じゃあ、それは木刀じゃねぇっ。ただのオリハルコン刀だ」

「ぐぅ、さっきからなにがそんなに不満...はっ」

「ようやくか」


 なにかに気がついたように顔をハッとさせて俺の方を何度も見るめぐる。


「分かったと思うが、そもそも強盗対策なんて現実味のない話なんてやめてだな、もう少し実りのある話を...」

「もし仮に日曜日が劇場版だったら強盗に加えてテロリストによる商店街大爆発もあり得るね。全然、そのことを憂慮してなかったよ。ごめんね、優。そして、ありがとう。危ない所だったよ」

「危ないのはお前の頭だよ」


 劇場版ってなんだ。


「くぅ、テロリスト襲撃対策の方もなんとかしなきゃか。まぁ、でも大丈夫かな。日曜日は優もいるし」

「はっ?」


 今日一、あり得ない言葉がめぐるから聞こえた気がして俺は思わず足を止める。


「なんで、そんな驚いた顔してるの? 勿論、優も来るでしょ?」


 すると当然と言わんばかりにめぐるはそんなことを言い放った。


「行くわけないだろ。大体、お前友達と行くんじゃないのかよ」

「行くけど、私は優にも来て欲しいの。だって、友達と遊びに行くのは楽しいけどきっと優も一緒ならその何倍も楽しいはずだもん。それにちゃんと友達も「生であの漫才みれるの楽しみー」って許可してくれたし」

「あのなー、いい加減お前はそろそろ恥ずかしさと照れというものをだな...」


 なんてことないようにそんな照れくさいことを堂々と口にするめぐるに対し俺は真面目に苦言を呈する。


「だってしょうがないじゃん。優といるのが楽しいの事実なんだもん。事実は変えようがないよ」

「...」


 しかし、それ以上に照れくさい言葉で反論され俺は何も言えなくなってしまう。


「それで、ダメかな?」

「...ダメっつっても無駄なんだろ?」

「流石、私の優。分かってるぅ」

「誰がお前のだっ」


 そんなわけで今回も俺は結局めぐるに巻き込まれるのだった。



 ちなみに日曜日、めぐるが引き当てたのは強盗でもなく劇場版テロリスト大爆発でもなく一泊二日のペアリゾート旅行券だった。

「まぁ、これはこれで主人公っぽくていいか」と本人は何故か俺の方をチラチラとみながら大層満足げな様子だった。



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俺の幼馴染はとにかくおかしい タカ 536号機 @KATAIESUOKUOK

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