俺の幼馴染はとにかくおかしい

タカ 536号機

第1話 何故、大橋 めぐるはモテないのか


「なんで私ってモテないのかな、優?」


 とある朝の登校中、幼馴染のめぐるはいつものように唐突に心底不思議そうな顔でそんなことを俺こと西尾にしお ゆうに尋ねてきた。


「だってまず私って容姿がとびっきりいいんだよ。パッチリとしたお目目に、サラッと肩まで伸びた美しい髪。そして、思わず守りたくなる華奢な体。その上、こんなにも親しみやすくフレンドリーな性格。圧倒的な主人公すぎてモテないのが最早不自然でしょ?」

「あー、うん」


 確かにめぐるの容姿は優れてる。いや、あまり認めたくはないが優れすぎているくらいだ。しかし、この幼馴染にはとにかく問題がある。それは本人の言動から分かる通り若干ナルシスト気質で、自分を主人公だと思い込み人の話を全く聞かない点だ。まぁ、他にもオタク気質だったりする点もあるが、これは若干俺のせいな所があるので見逃してやることにしよう。

 とにかく、めぐるがモテないのには明確な理由があるのだが本人は気づいていない。

 多分、これから先も気がつくことはないだろう。

 何故なら、それが大橋 めぐるといつ奴だからだ。だから、最早この言動自体はいつも通りなのでいいのだが問題は...。


「と、いうわけで今日はどうしたら私がモテるようになるから話し合うよー。主人公たるものモテなきゃね」

「嫌だよ」


 俺を巻き込むなということである。


「私考えてみたの。私としては結構フレンドリーに人と接してるつもりなんだけど、もしかしたら皆私の容姿が良すぎるあまり近づけてないんじゃって」

「はぁ」

「まず、現状私は優が寝てる部屋に勝手にあがり込むくらいフレンドリーなわけなんだけど」

「全然フレンドリーじゃねえよ。ただの不法侵入だよ」


 前提がまずおかしいな、うん。


「さらにフレンドリーに。例えば、道ゆく人の背後に忍び寄って肩を組んでみるとか」

「ただの不審者!」

「話しかけたことない女子グループに「いえーい」って乗り込んでみたり」

「空気を冷やすだけだ。ある意味、夏にはピッタリかもだけど」

「定期的に元◯玉を作って世界中の人と会話してみたり」

「◯気玉なんだと思ってるんだよ。そして、その元気◯どうするんだよ」

「海にポイ」

「地球爆発。ポイ捨てダメ絶対」

「ってな感じでフレンドリー作戦色々考えてみたけどどう?」

「そもそもフレンドリーさが足りないからモテないわけではないと思うから、根本から見直した方がいい」


 自身満々のめぐるに俺は若干冷や汗をかきながらそう伝える。


「うーん、そっか。じゃあ、もう少し優雅さを演出してみるとかどう?」

「確かに、優雅というかおしとやかになるのはいいと思うけど。どうやるんだ? あまり想像つかないんだけど」

「ふっふっふ、それは私にお任せあれ。まず、これからは矢の雨を颯爽と避けながら登校するの」

「早速無理だ」

「そして、私に向かって手を振る群衆に向かってスカートの裾を持ち上げ一言「愚民の皆様、どうもご機嫌麗しゅう」」

「どこの嫌味な貴族だ」

「みんなもきっと私の優雅すぎる仕草と美しすぎるドレスにメロメロだね」

「常時、ドレス着てる奴は優雅通りこして異常者だよ。というか、そんな奴の隣に普通の格好した俺がいたら違和感でしかないから、やめてくれ」

「なんで? いいじゃん、優も執事の格好したら」

「学校はコスプレ会場じゃねぇっ」

「むぅ、これもダメか」


 しぶしぶといった様子で引き下がるめぐる。いや、これくらいは口にする前にダメだと気づいてくれ。



「あとは庇うとか?」

「どういうことだ?」

「いや、そのままんまの意味だよ。ほらアニメとかでもよくあるじゃん他のキャラを庇って死ぬ奴。鬼◯の煉◯さんとか女性ファンから大人気じゃん。あんな感じ」

「いや、それは分かるけど誰をどうやって庇うんだよ」

「いい質問だね。というわけで、優命狙われてたりしない?」

「するわけないだろ」

「えー、なんかないの。実は隠してたけど元マフィ◯で追われてたりとか」

「ない」

「人の名前を書くとその人を殺せるノートをたまたま拾ってたりとか」

「デスノー◯!?」

「呪いの王の指を食べちゃったりとか」

「呪術◯戦!?」

「果てにはその体を調理して生姜焼きにしたり」

「むしろチェンソーマ◯!? というか、めぐるは俺をなんだと思ってるわけ? 俺はジャン◯の主人公でもなんでもないんだけど」

「優は優だよ。誰でもない。代わりなんていない。もともと特別でオンリーワンなオリジナルキャラクターだよ」

「それはありがとうだけど、さっきまで思いっきりパクリキャラじゃなかった?」

「うーん、これは実現が難しそうか。そうなると困ったな」


 俺の言葉を完全無視し、少し黙り込むめぐる。頼むからこのままなにも思いつかず黙り込んでいて欲しい。朝からあまり体力を使いたくない。


「そうだ、病弱キャラとかどう? 病弱ってだけで読者からも沢山同情して貰えるし、それが美少女ともなれば尚更。人気投票一位も間違いなしだね」

「読者ってなに!? いよいよ、お前は誰にモテようとしてるわけ?」

「大丈夫、ごほっ。こうやって、たまに咳き込んで体弱いからアピールすればいいだけだからごほっ。簡単ごほっ」

「今更無理だよ」

「ごめんね、優いつも歩くのが遅い私に合わせてくれてごほっ」

「続けるの!?」

「ごほっ、これは血!?」

「うん、ただの虫さされな」

「それもこんなに体中、ごほっ。ごめん、私もう長くないかも」

「夏だからな、蚊がいっぱいだ」

「優、私最後にいつもみたいに優に奢って貰ってビッグマックが食べたかったな、ごほっ」

「とても病弱キャラのセリフじゃねぇ!」 

「あなたもしかして大橋 めぐるさんのご友人ですか? 我々としても手を尽くしたのですが残念ながら...」

「死んだの!?」

「でも、彼女は最後まで本当に最後まで戦っていました。立派な最期だったと思いますよ」

「最期まで人にビッグマックねだってただけでしたよね?」

「でも、彼女はあなたの中できっと生きてます。あなたが彼女のことを忘れない限り」


 とそこまで言うと彼女は空を見上げ俺の肩をそっとたたいた。


「ってな感じでどうかな?」

「駄目だよ。今までで1番ダメだよ。最後のに至ってはなんの茶番だよ」

「うーん、そっか。となると、いよいよ困ったな」

「というかさ、今更なんだけど1つ気づいたこと言っていいか?」

「なに?」

「美少女でモテるって主人公というよりヒロインじゃないか? 大抵のラブコメって容姿が冴えなくてあまりモテない男が主人公のイメージなんだけど」

「...」


 俺の言葉を受け、めぐるは今日1番の沈黙。


「解散! 愚民は帰るがいいよ」

「おい」


 そして、そう言うとスキップでその場を去っていくのだった。




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