第3話 アースライトウォー

 宇宙にニコがやってくる数時間前、地球の軌道上で待機していた宇宙巡洋艦「バルドラ」に、その同型の艦である「バンザ」が到着した。それに搭乗していたのは、「バルドラ」の新たな艦長であり地球で行われる作戦の新たなる指揮官「カヤマ少尉」だった。

「待っていたよカヤマ少尉」

 ジャグ艦長、もといジャグ大佐は「バルドラ」の司令室にやってきたカヤマ少尉に笑顔で握手をした。

「お久しぶりですジャグ大佐。貴方の後継としてこの艦の艦長を務めさせていただけるなんて、光栄であります」

 カヤマ少尉は穏やかな笑みを浮かべ、力強い握手で答えた。

「バンザに積んである04の予備装備、通信機、あと食料に…日用品なども、お渡しします」

「ありがとう少尉、私達もまだ『生命体』だからな、凍えもするし暑がりもする。寝もするし飯も食うし糞もする。面倒な体のままだが、自由である事が一番の利点だ」

 ジャグは艦長席のコップを取り、ストローを咥えた。

「日用品はスペースを取るが、我々の心を豊かにしてくれる。できれば食事も『楽しむ為』に取りたいものだ…」

 カヤマは頷き、ジャグの目の前に立った。

「失礼ですがジャグ大佐、質問を一つよろしいでしょうか?」

「ウム、言いたまえ」

「なぜ、私の様な輸送隊の士官が、国家の主戦力である『ナンバーズ』の一部の指揮を任される事になったのですか?」

「それは…」

 ジャグが説明をしようとした瞬間、警戒のアラームが艦内に響き渡った。

「艦長!敵艦です!10時の方向に敵艦1!」

「何だと!?」

 ジャグがモニターを見ると、オレンジ色の細長い戦艦がこちらに迫ってきていた。それほど近くまで接近はしていなかったが、主砲の射程距離に入るのは時間の問題だった。

「あれは、装甲巡洋艦『ドゥーム』…宇宙連合軍か!こんな所にまで来ていたとは…」

 ジャグは手元のマイクを艦内放送に繋げた。

「各員!第一戦闘配備!No.05は出撃準備にかかれ!カヤマ少尉、バンザに搭載されている『量産型ナンバーズ』は?」

「No.103が三機、そしてNo.104が一機です」

「よろしい、それらも出撃させてくれ。そしてただ今をもって、この艦全ての指揮系統をカヤマ少尉に一任する!」

 カヤマは驚き固まってしまったが、すぐに気を取り直し艦長席に座った。

「…了解しましたジャグ先生。貴方の指導が無駄ではなかった事を、今お見せしましょう!」

「ああ、君なら出来るさ…」

『艦長、オレは準備オーケーだ!味方機は何体だ?』

 発射口のカメラに親指を立てた05が写し出された。カヤマは手元のパネルで「バンザ護衛部隊全出撃」と打ち込み、椅子に深くもたれかかった。

「汎用機の101が三機と索敵機の104が一機だ。中距離での援護をさせるから、君は前線で敵を打ちのめしてくれ!」

『了解艦長!あんたの指揮、頼りにするぜ!  No.05、行くぜ!』





 宇宙の秩序と統制を正すために、いくつかの宇宙へ進出している星が合同で結成された武装隊「宇宙連合軍」。彼らは文明がまだ十分に発達していない星を周り、その星の人々が隕石や宇宙人の侵略で死滅してしまわないよう警備して回っていた。そんな時に、彼らは宇宙の4分の1を侵略した「ウィリデ帝国」の戦艦と出会ってしまった。

「ええい!まさかここにまでウィリデの毒牙が!」

「艦長!識別データ合わせます!あの戦艦はウィリデ帝国の巡洋艦『バルドラ』、そして片方は同型の『バンザ』です!」

「な、なに!?バルドラだと!?ならあれに搭載されているのは…!」

 その時、レーダーに敵の影を捉えたマップが表示された。

|               

|     522▶️○       

|      

| 463▶️○   435▶️○

|     

|   341▶️○

|  00:40▶️▲  

「艦長!バルドラとバンザから兵器が!捕らえたのは4つ。1つは物凄い速さで迫ってきます!敵視認可能距離まであと40秒!」

「ま、間違いない…あれは『ナンバーズ』!ええい!奴らにこの星をやられてたまるか!戦闘員、出撃し敵を迎撃しろ!」

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CONTACT         

   ○   ∴     -------

          .      ○

------ 

              ∴

     ○            CONTACT

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 05の瞳に敵発見のアラートが現れた。

「サーチ4、敵の機影を感知した。識別と数を教えろ」

「了解、レーダーON…」

 05の指示により、バルドラの前に待機した104は頭のヘッドギアからバイザーを伸ばし、索敵を開始した。

───────────────────────

索敵範囲内感知数 6


敵記録内識別

宇宙連合軍汎用戦闘服「ベルドリギル」


主兵装  コマンドライフル ヒートナイフ


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 転送されたデータに05は吹き出した。

「なんだぁ?この時代遅れのヤツらは!死にたいみてぇだな!」

 05は腰部のミニアームで背中に取り付けていたライフルを装備し、一気に加速した。

『101達は中距離での援護を、05をアシストしろ!』

「「「了解」」」

 101達は同時に返事すると、一気に散開し、マシンガンでの威嚇射撃を始めた。

「さぁてと、ドンパチやるとするか!」

 05は背面のいたるところに付いているブースターを一気に吹かし、流星の様な速さで敵に向かった。

『なっ、たった一機で近寄ってくるのか?まさか、

ナンバーズ!』

 ベルドリギルという赤色のピッチリした宇宙服を着た戦闘員が、ライフルの照準を合わせようとした。しかし左右上下、無造作に動き回る05を捉える事が出来ない。

「早く撃たねぇとやっちまうぞ?」

『くっ!くそったれ!』

 それでもライフルを撃とうとした時、05が目にも止まらぬ速さで近付き、顔に0距離でライフルを撃ち込んだ。頭を撃ち抜かれた戦闘員は無気力に宇宙を漂いはじめた。

「へっ!チョロいもんだぜ!」

『てめぇよくもナンザスを!』

 赤く光る刀身のナイフを05に刺そうと迫ってきた戦闘員を、05はキックでナイフを弾き飛ばし、トドメにライフルを連射した。

『ぐあぁぁぁぁ!!』

 戦闘服の動力エンジンに何発も当たり、そのまま爆発四散した。

「どうだ?オレは誰にも負けねぇんだよ!」

 後方射撃をしていた101達も着実に敵を倒し、残るは戦艦だけとなった。

『05!敵の弾幕をかいくぐり、敵艦を潰せ!』

「よし!オレがきっちり決めてやるぜ!」

 05は戦艦に向かった。ドゥームの船員達はこちらに向かってくる死神を前に震えている。

『て、敵機接近!来る!来るぅぅ!』

『撃ち落とせ!なんとしても撃ち落とすんだ!』

 ドゥームの艦砲射撃が迫り来る中、05は最小限の動きで躱し、背中に取り付けてあった試作武器『ドラゴラⅢ』をミニアームで手に取り、狙いを定めた。

「せっかくやられに来てくれたんだ、コイツを試してみるか!」

───────────────────────

           │

    ○      │    LOCK ON

           │

───────────□───────────

           │

           │       ○

       ○   │

───────────────────────

「食らえ!」

 05が引き金を引くと、閃光と共に一筋の光が戦艦を貫いた。そして爆発と共にドゥームは消えてなくなった。

「ヒュー!こりゃすげぇ、今までの電磁砲とは火力とチャージ時間が全くの別物!」

『05、戦況はどうなった?』

「ああ、敵は粉微塵、味方の損傷も軽微だ。完璧な作戦展開だったな」

 05は武器を背中に取り付けなおし、地球に向かってVサインをした。





「そうか、皆ご苦労。帰艦してくれ」

 カヤマは力が抜けるように椅子にもたれた。

「流石だなカヤマ君、少し勉強してきたのかね?」

「はい、自分の命を委ねる者達ですから…それに友人がナンバーズ関連の関係者になったので助言も貰えたんです」

「ハヤマ制作部長か!君と同じ部隊だった、あの頃とは変わらんだろうな…」

 ジャグはポケットから端末を取り出し、一枚の写真を表示させた。カヤマが覗き込むと、そこには食堂のような所で楽しそうに食事をしている若い男女がいた。

「な、なんて懐かしい写真を…!演習艦に乗っている時の、十年前のものじゃないですか!」

「私のお守りだよ。君たちほど、付き合いのある生徒はいないからね」

 ジャグは端末をしまうと、カヤマを立たせ目の前の青い星を見つめた。

「君の指揮官の腕は確かだ。だからこそ、私の後継にふさわしいのだよカヤマ少尉。私は別のナンバーズ部隊の艦に就く、君はこの艦でナンバーズを知り、後世まで平和の為に戦ってくれ。私の願いはそれだけだ」

「ジャグ先生…」

 カヤマはピシッと敬礼をすると、手を差し出した。

「この任務、必ずや成功させることを誓います大佐。次に会う時は、昔の様にまた『クモゥリ』を食べましょう」

「もう芋のペーストはこりごりだよ」

 ジャグはその手を力強く握り、にこやかに笑った。そしてバンザに乗り、祖国であり母星である「ウィリデ帝国」に帰っていった。

「艦長!04の信号をキャッチ!セーフキャンプを設置したようです!」

 カヤマは椅子に座り、軍帽を深く被った。

「帰艦命令を出せ。予備の通信機、新装備を渡した後、作戦を再開させる!」

「了解!」

 そしてカヤマは、帰艦した04が連れてきたらしい現地の青年との会話を試みるのであった…。

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みらいせいふく ヘルメス @HERUMES

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