第2話 発見!何者ちゃん!

 遠野 弍誇(とおの にこ)、それがオレの名前、名前の由来は母親の「いつもニコニコしててほしい」という想いからだそうな。漢字はカッコいいヤツにしといたらしい。

 職業は学生、Y県Y市の中央高等学校に通っている。友達は普通にいるかんじ。頭も普通。

 こんなどこにでもいそうな男子高校生、だが宇宙への興味関心は人一倍強いと思っている。

 さて、いつもとなんら変わりはない金曜日、学校も終わり、帰路をトコトコ歩いていた時だ。

「…………ん?」

 横を見る、いつもと変わらない廃墟ビル。しかし、なにやら音がするような…どうせ不良がたまっているんだろうなと自己解釈で去ろうとした時。

「……………女の子の声?」

 不良の声にしては…ゲラゲラとかそんな感じではないというか…話し声?もしかして事件?

「…………むぅ」

 気になる。余計なことを気にし始めるのは父親譲りの性格だが、それでも事件とかなにかだったらシャレにならないし。

「チラ見して、ヤバそうだったら警察呼ぶか…」

 好奇心に負け、オレは立ち入り禁止の看板を横にすり抜け、中へ入っていった。


 ビルの中はあちこち崩れていて、壁とかには穴や落書きがたくさんある。テレビとかでよく見る心霊廃墟みたいに仕上がってる。

「呼んでみ…いや止めとこ」

 呼んだところで返事してくれるとは限らないし、更にヤバくなる可能性もある。オレはひたすら歩いて、階段を2つ上がった所で最初よりもはっきり声が聞こえてきた。

「この先か…?」

 音を立てないようにゆっくりと歩いていると、1つの部屋から何か明かりが漏れているのが見えた。

「…あそこか?」

 壁に張り付いて、ゆっくりと部屋を覗くと、そこには人がいた…人がいたんだが……。

「………………」

 コスプレとも言える妙な服、黄緑色の短髪、かたわらにはなんかSF映画に出てきそうなでかい銃。

(なんだ?撮影でもやってんのか…?)

 一体何者なんだあの子、日本人でも無さそう…あ、喋りだしそうだ。これでハッキリするかも。

「ΔΛΤδΣΞΗδιΨε!тчньщЭйЧЩн!」

 はっはー全然わかんねぇこれ。多分英語でもないな、なんだこれ、何語これ?

「ΖααΥΝΛΣχθξ………」

 壁にもたれていると、声が急に聞こえなくなった。恐る恐る覗いて見ると、目の前に女の子が立っていた。

「ぅおあ!?」

 思わず後退りすると、女の子はオレに向かって突進してきて、そのままオレを押し倒した。

「いった…」

 後頭部を打ち、痛がっていると女の子がオレのバッグを漁りはじめ、中からスマホを取り出した。

「あ、ちょっと!」

 オレが奪い返そうとすると、小型の拳銃みたいなものを突きだし、頭をそれで小突きながらスマホをじっと見つめた。

「じ、冗談だろ…?」

 女の子は、スマホをギュッと握りしめ、目を閉じた。そしたら急にスマホがバチバチと電気を放ち、女の子からキュルキュルと機械みたいな音がなりはじめた。しばらくするとスマホも女の子も元に戻った。

「…私の言葉、わかる?」

 オレは縦に首をふる。

「ここは日本語を使う所で…君は、いわゆる日本人。合ってる?」

 またまた縦に首をふる。

「よし!データ収集完了!メモリ持ってけばオッケーかな?あ、これ返すね」

 女の子はスマホをバッグに戻すと、立ち上がってオレに手を差し伸べてきた。

「いやー助かったよ!データ収集が一番面倒なんだけど、情報端末を誰でも常備する位には文明が進んでて良かった!」

「そ、そですか…」

 オレは手を握って立ち上がり、服の埃を払って質問した。

「君、何者?外国人…じゃないよね。人かも怪しい」

「お、鋭いね。私の名前は…翻訳すると04!君たちから見たら宇宙人かな?」

「う、宇宙…人?」

 その言葉にオレはドキッとした。もし本当なら嬉しい…でも同時に恐怖を感じた。もしかしたら誘拐されて、なにかチップとか埋め込まれたり…嫌な予想が次々と浮かんでくる。

「ああ、ごめんね!銃とか怯えるよね?そんなに怯えなくていいよ。殺す気も無いし、なんか人体実験的なのもやらないから!」

 と言って銃を下に降ろした。にこやかに言ってはいるが、正直信用ならない。

「…自分は宇宙人だ、って言われて、はいそうですかと信用は出来ない」

「うわ、めんどくさいわね?未知との遭遇に興味津々になって、そのまま連れていかれる度量は無いの?」

「ねぇよ!第一見た目地球人なのにどう信用すれば良いんだよ!」

「それもそうね…じゃあこうしましょう!」

 そういうと04はオレの手を握って、部屋の中へ連れていった。

「ちょ、なんだよ!やめてくれ!」

「いいからいいから!すぐに納得させてあげる!」

 部屋の中には謎のちっちゃい装置が置かれており、それに04が触れるとこっちに微笑みを浮かべた。

「最初は吐くと思うけど、我慢してね♥️」

「は……?」

 瞬間、目の前が真っ白になった。オレは目が眩み、顔を伏せ光を遮った。

「ちょっと、もう大丈夫だよ!目を開いて!」

 04の声が聞こえ、ゆっくりと目を開けると、目の前には数人の宇宙服の様な物を着た人達と、04が…

「っ………ウゥップ!」

 突然猛烈な吐き気に襲われ、知らない人達の目の前で嘔吐した。

「はぁ……はぁ……うっく……!」

 気分の悪さにクラクラしていると、1人の男がオレのゲロを試験管ですくい、蓋をして持っていった。

「………なんだ?」

「君の吐瀉物を検査させてもらう。星の調査に必要だからね」

 イケオジみたいなオッサンがオレに話しかける。オッサンはオレにハンカチを渡すと、服装を正し笑った。

「君達の使う言語は、04が得たデータからインプットした。しかし驚いたな…いまだ千を越える言語を使う星があるとは…」

 オレはハンカチで口を拭き、咳払いをして辺りを見回した。アニメで観たような宇宙船の司令室、こっちを物珍しそうに見てくる謎の人達、窓の外に輝く星と、テレビでよくみる地球。

「…宇宙に、いるのか?」

「そ、君はあの場所から一瞬でこの宇宙船に来た!どう?信じてくれた?私が宇宙人だって」

 04は笑いながらオレの背中をさする。そして足元では謎の機械がオレのゲロをキレイに拭き取っていた。信じたくないけど、信じるしかないのか。

「……信じるよ、ここまでしたら。で?オレをどうしたいんだ?」

「君に色々とお願いがあってね」

 オッサンは近くの椅子に指を指す。オレがそこに座ると、オッサン以外は席に座り、仕事を始めた様だった。

「まだ名乗っていなかったね、私はカヤマ。この艦の艦長をしている。良ければ名前を教えてくれないか?」

「…オレは、ニコ」

「よろしく頼む、ニコ君。早速だが私たちに、あの星に住む者達の生活の状況などを…教えてはくれまいか?」

「…わかる範囲なら」

「ありがとう、感謝するよ」

 オレはまた外に光る地球を見て、ため息をついた。

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