第2話
【ド~ミ~ソ~、RADIO】
「相変わらず、無駄に良いビブラートだな」
この配信を見るまで、ビブラートのヒの字も知らなかった僕だが、今やビブラートの良し悪しがわかるまでに成長した。
『改めまして、パーソナリティーのソラ。そして~?』
『アシスタントのリクです』
リクくんの声もだんだん良くなってきた。完全にノリノリだ。
『まあそんなこんなでこのドミソラジオが始まったわけだけど、ここから色々なコーナーが始まっていくよ』
『コーナー……まあ、コーナーがないと困るか』
『それはね。さて、それじゃあ始めていくよ』
「お、キタキタ……!!」
やはり、コーナーが無いとラジオとは呼べない。
今回も、アレから始まるはずだ。
「【ふつおた!】」
よっしハモった!!
毎回コレするのが好きなんだよなぁ……。特に意味は無いのだけれど、意味が無いのがいいんだ。
『という事でふつおた、戻して普通のオタクのコーナー!』
『普通のおたより、だろ』
なんだかんだ1番好きなコーナー。それがこの『ふつおた』だ。聞き始めの頃は、"戻して"という表現に慣れていなくて、「乾物かよ」と突っ込んだ記憶がある。
初めてお便りを送った時、どんな内容にすれば良いのかわからなさすぎて、支離滅裂なものを送ってしまったのだ。でも、そのおかげで僕の知名度が上がったのだ。最初の頃こそ、やらかしたと思っていたが、今では怪我の功名だと自信を持って言える。
『普通じゃないオタクが逆に見てみたい』
『あれだよ、ライブ会場で暴れたり奇声上げたりするおさ──』
【レント!】
『危ない危ない……その発言は危険すぎるっての』
「お゙? 久しぶりにキレちまいそうだよ……!!」
流石に今の発言は聞き捨てならないねぇ……。
丸太持って突撃するしか無さそうだねぇ。リクくんの家に。
そんなことよりも、いい腕してるなぁ。リクくんは。恐ろしく早い【レント!】。僕でなきゃ見逃しちゃうね。
『というか、ふつおたのコーナーなんてちゃんとあるんだな。正直驚いたぞ』
『ラジオといえばふつおたでしょ? ふつおたのコーナーがないラジオなんて……』
『ラジオなんて?』
『……まあ、いいか』
『思い付かなかったんだな。そんなの出汁のない鍋とか中身のないフライみたいなのでいいんだよ』
は? 何その返しヤッバ。今度パクらせてもらうね。
ソラさんや、他のリスナーもそのレスポンスに感心していて、僕と同じく有名リスナーであり、顔文字メーカーの怪人人面疽さんも現れた。本当にこの人の名前、エグいなぁ……。いろんな意味で。
『えー……ソラジオネーム、狂いながら歌うさん。ソラさん、リクさん、こんばんは。はい、こんばんは。いつも和気あいあいのお二人を暖かい目と耳で見ております。これからもバカ騒ぎしてください、との事です。ありがとうございます』
『ありがとうございます』
うんうん。確かに、いつも和気藹々で……。
「……いつも?」
ん? ん? ん? ん〜〜〜〜〜〜〜〜???
この体制は今日からだよなぁ? もしかしてこの方、未来人だったりするのかなぁ……?
『えーと次はね……あった。ソラジオネーム、双葉音子さん』
「お。キタキタ」
『ソラさん、リクさん、こんばんは。2人の結婚式。呼んでくれるよな? 大丈夫だ。費用は俺が全て負担する。との事です。ありがとうございまーす』
ふっふふ。ついさっき、「なんかこの2人いい感じだな」と思って、おたよりボックスにぶち込んでおいたんだYО!!
因みに、実際に費用を負担出来るほどのお金は持ってない。
……バイト始めるかぁ。
『…………』
『どったの? そんな入刀される前のウェディングケーキみたいな顔して』
……わかんない。ケーキ入刀直前のケーキの顔って何だよ。何なのかわからない。だけど、なんとなく笑えてきてしまう。
「だからソラジオは面白い。バイトを始めるのは止めた!!」
バイトを始めたら、この配信を見る時間がなくなってしまう。そうなるのなら、やらないほうが良い。
『どんな顔だ。というか、この人のおたよりはどうなってるんだ?』
『この人は怪人人面疽さんと同じで古参の名物リスナーさんだね。いつもこんなノリだよ。そして他のリスナーさんイジリにも定評があるね』
『そういうタイプの人か』
『そしてイジリを受けた人は、後日良い事が起きるとか……起きないとか』
「知らん……。何それ……。怖……」
いや実際、怪人人面疽さんをイジった翌日、宝くじが当たったっていう話は聞いたことあるけど……。
『どっちだよ。それにしても、結婚ねぇ……ソラは結婚願望はあるのか?』
『リクとならあるくらいかな』
「……」
……なんか、負けた気がするなぁ。やけコーラでもするかぁ?
『冷静に考えても私の事を受け止めてくれるのってリクくらいじゃない? そしたら私が結婚出来る相手はリクしかいないよ?』
『そうやってするもんでもないだろ、結婚は。でもまあ、俺も何だかんだで彼女はいないし、変に異性に近寄られても面倒だからソラと結婚しとけばそれはそれで問題はないのか……』
『でしょー? という事で、二人とも理想の結婚相手は目の前にいました』
双 葉 音 子 は し に ま し た。
「いやまだだ! 僕はまだ、リクをソラさんのお嫁さんとして認めてない!!」
明らかに脳がバグってる。何を言っているんだコイツは。もう一度ガス抜きするか?
『双葉音子さんは結婚式にご招待しますので、ご住所を何らかの形で教えてくださいね』
『いやいや、リスナーの個人情報を手に入れようとするな』
〈DMで送りますね〉
なんとか力を振り絞って、Commentを打つ。
あはは。寝取られちゃった。
「いや寝てから言うじゃんね☆」
出来の酷いボケとツッコミで、なんとか意識を保つ。
『双葉音子さんもノリノリだな。個人情報は大切にしてくれ』
「ハハッ!! 理想の結婚相手に個人情報バラされた奴が何か言ってら!」
何か元気出たわ。お礼にリクくんの家にネトル茶送るわ。
『という事で双葉音子さん、ありがとうございまーす』
「こちらもありがとうございまーす」
『とりあえず次のおたよりでコーナーは終わりにしようかな。えー、ソラジオネームはファ──』
【フェローチェ!】
「マッ◯ブーン!」
今日も来たか。変態紳士さんよぉ……。本当に変態で紳士なんだからムカつく。特に理由はないけど。
『おい、待て。ラジオネームが危険な場合があるのか』
あるんですよそれが。十分慣れてきたのかと思っていたけど、まだあまちゃんだったか。
そんなことは置いといて、今日も変態紳士さんは紳士的な文章を送ってきた。才能の無駄遣いだと思う。その才能を是非分けてくれ。
『なんだこれ……ラジオネームがヤバイのに上品なご老人が達筆な筆文字で和紙に書いてそうな内容なの色々おかしいだろ……』
『変態紳士さんは毎回こうだよ。だから、初見さんも今のリクみたいになるんだけど、段々に慣れていった結果、配信前の待機所でやってる変態紳士さんのソラジオネーム予想大会に参加するようになるんだよね』
「わかる。俺も最初の頃、頭の後ろに宇宙が広がっていたわ」
段々、リクくんには興味が湧いてきた。いつかリア凸しようかな。
因みに、僕は予想大会に参加してないぞ。まず当てられないし、当たったら変態だと思われてしまうからな。
『さて、次のコーナーに行く前にここで一曲かけようかな』
「何が流れるのか楽しみだな」
最近はこう言うので知っている曲流れないし。それは僕の知ってる曲が少ないのもあるけど。
『それでは、お聞きください。“愛しのあなたへ”』
……知らない曲だな。
直ぐ様調べてみたが、それらしいものはヒットしなかった。でも、どこか聞き覚えがあるような……。
『……は?』
どうかしたのか?
そう思ったと同時に、リクくんの歌声がヘッドホンから聞こえてくる。
あ、思い出した。これって確か……。
『待て待て! これ、俺の黒歴史じゃないか!』
『学生時代に弾き語りしてたねぇ、これ。リク作詞作曲の名曲だよ』
『なんでまだCD持ってるんだよ!』
そうだった。ソラさんの知り合いのオリジナル曲だ。知り合いってリクくんのことだったのか。
確か、前にソラさんから送られた音声データが、まだパソコンに入っていたはずだ。後で確認しよう。
もやもやが解決した一方で、他のリスナー達はその上手いとはとても言い難い歌に引き始め、リクくんは悶え始めていた。
「リクくん。彼はとてもイジり甲斐がありそうだ……!」
十六夜袮虎とドミソラジオ 双葉音子(煌星双葉) @arik0930
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。十六夜袮虎とドミソラジオの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます