酔うと女体化する体質

麝香連理

第1話 秘密の共有

「くあぁぁぁぁ!!」

「勝平、そんな一気に飲んだら……」

「すんません。でも俺、一杯目は勢いよく喉に流し込むのが好きなんすよ。」

 ドン!と机に生ビールのジョッキを置いて、一息つく。

「それにしても、気を遣わせちゃったみたいですみません、嵐さん。」

 昨日、突然俺は振られた。中学の頃から付き合っていた彼女に。理由は飽きたから、らしい。仕事もそれなりに任されるようになり、やっと同棲について考えようと密かに思っていた矢先にこれである。

 ま、別に良いもんねーだ!

「ゴク!ゴク!プッハァァ!店員さん!生の大おかわり!」

 俺は個室の障子から顔を出して、近くを通った店員さんに空のジョッキを渡した。

「の、飲むねぇ………」

 俺の酒カスピードに若干引いてるのは同い年であり先輩の長門嵐。片手にはホワイトサワーを持っていて、チビチビと飲みながら、お通しの枝豆をつまんでいる。

「えぇ!飲みますとも!いつもより倍は飲んでやりますよ!」

「やっぱり、長年いたからこそ、離れることになって辛かったんだねぇ。」

「な!そんなんじゃないです!あんなやつ、探せばもっといい人がいますぅ!」

 俺は抗議しながらシシャモを頬張る。

「ハハッ、そうだね。今日は奢りだから、いっぱい飲んでよ。そのかわり、今日みたいなのは…ね?」

「ヒエッ………もちろんっすよ。今日のくそみたいなやらかし、二度としませんとも!」

 ちょい強面イケメンの圧に一瞬だけ酔いが覚めた。それぐらい、嵐さんは怒ると怖い。

「うん。よく言った。」

 

「あぁぁぁぁあ…………うまいんじゃ~」

「ふふ、本当に誘ってよかったよ。」

「あぁぁ…あ、いつも思ってましたけど、嵐さんは飲まないんですか?」

「え?うーん、飲めなくはないけど……」 

 嵐さんが苦笑いをしながら答える。

「じゃあ飲みましょうよ!嵐さん、最近大きい仕事振られてましたし、その疲労を失くすためにも飲んじゃいましょう!」

「……そうだね!よし、すみませーん、生……」

「二つで!」

 この時の俺は、いつも酔わない嵐さんを見てみたいのと、酔ったときにどんな風になるのか知りたいというそれだけの気持ちだった。

 それがまさかあぁなるとは………





「ッハァァァ!」

 俺が何杯目かわからない酒を飲む。

「すまん、勝平。ちょっとトイレ行ってくるよ。久し振りで飲み過ぎたみたいだ。」

 少し頭を抱えた嵐さんが足取り重く個室から出ていった。

「はぁーい…ん~じゃあ俺はその間に……」




「戻ったぞ。」

「おかえりなさ~い、さっき注文したあおさの天ぷらが美味しくって美味しくっ…………て?」

 俺が振り返ると、そこには黒髪ロングに少し膨らんだ胸、見た目は高校生ぐらいで、もしかしたら中学生かもしれない少女が、個室の障子を開けてさっきまで嵐さんが座っていたところに躊躇いもなく座る。

「え?……は、え……誰?」

「え?」

「え?」

「…………そうか、やっぱり治ってなかったか……」

「えーと?」

「俺だよ、長門嵐だ。」

「…………は?お嬢ちゃん、冗談はよくないよ。」

 すると、嵐さんが悩んだ時によくやる、目頭に親指と人差し指を置く仕草をする。

「冗談じゃない。……よし、なんか質問しろ!長門嵐についてでな!」

 えぇ……どういう……そうか!これはドッキリか!まぁ、相手は女の子だ。少しは乗ってあげないとな!

「じゃー先輩の彼女は!?」

「いない……いたこともない………」

 っ!このへこみ方、そっくりだ!……いやいや、騙されるな!こういう演技指導をされてきたんだ!

「ならば、好きな食べ物は!?」

「カレイの煮付け。」

 ノータイム!?いや、簡単だから覚えてたのか…

 ならば、絶対に地上波では言えないことを聞いてやらぁ!

「今、嵐さんが抱えている重大案件を答えよ!」

 ふっふん!どうよ?

「……ボソボソッ」

 すると、この少女は俺のそばまで近付いて、俺の耳元であることを呟く。

「な!?」

 やられた!俺にしか聞こえないようにすれば地上波でも放送できてしまう!

「もういいだろ?」

「いや!絶対ドッキリなんだろ!?ネタバラシしてくれよ!?」

「その反応…分からなくはないが、そろそろ信じてくれ。」

「じゃ、じゃあ!なんでそうなってるのか教えてくださいよ!」

「……実は

 

 俺が十九の時に初めて酒を飲んだんだ。周りが飲んでたってのもあったが、興味もあったからな。初めて飲んだ時は苦いと思ったんだが、飲むなら全部飲むべきだと思って、全部飲みきってから寝たんだ。

 そして、目覚めたら女になってたんだ。その時は原因も分からなくて、医者に行こうとしたんだが、そうしたら酒飲んだことも言わなきゃいけないのかと思って、二十歳になってから行こうと思ったんだ。

 ちなみにその時の女体化はその日の午前には戻ったし、それ以降酒は飲んでいなかったんだ。当たり前だけど。

 それで、二十歳になった時にもう一回酒を飲んだら案の定、女体化してな?いざ病院に行ってみたら、手遅れって言われちまったよ。基本は早期発見出来るから抑える薬を飲めばいいんだが、って言われて家族全員で閉口しちまったよ。


とまぁ、そんなこんなで、俺は酒を飲まないようにしていたってわけ。」

「…………本気で言ってる?」

「もちろん。」

 俺は障子から顔を出して、キョロキョロと見回す。

「どうした?」

「いや、……ハァー今日は帰りましょう。頭痛くなってきました。」

 情報が多すぎて酔いも覚めちゃったよ………

「そうだな、勝平もいつもより飲んだしな。」

 そうじゃないけど…この反応の仕方もそっくりだし、本当なんだろうか…………

「あ。」

「どうした?勝平。」

「店員さんに何か言われないですかね?最初と人が違うとか、未成年と飲んでるとか……」

「あぁー……流石にないだろ。ここファミリー層もよく来るし、いけるんじゃないか?」

 少女は自分の体格を見ながら答える。

「……そっすね。」

 そうして、俺と少女は会計に向かった。

 俺と少女が一緒にいることはなにも言われなかったが、俺と少女が折半のために財布を出したところで、レジの人にマジかこいつ…みたいな目を向けられた。

 この可能性は考えてなかった……………











「ふあぁあぁぁぁ……ちょっと痛いな。」

 夜も明けて朝。歯磨きがてら、スマホで天気の確認をしていると、嵐さんから電話がかかってきた。

「珍しいな…はい、もしもし。」

 数秒たったが返事はない。

「もしもし?聞こえてない?」

『…いや、聞こえているよ。おはよう、勝平。』

 俺はその声を聞いて、もう一度電話の相手を確認する。"長門"。画面には間違いなく、そう表示されていた。

「えっ?でも声が……」

『昨日言ったろ?酔ってるとなるって。まだ酔いが覚めてなくてね。』

 ……ドッキリじゃなかったんだ…………

『そこで、会社には勝平から伝えてくれないか?こんな声を他の人に聞かせるのは少し恥ずかしくてね。』

 いつもより、元気の無い声でそう呟いた。それだけ、女体化した姿を見せるのは嫌なんだろう。まぁ、説明がメンドイってのもあるのだろうが。

「まぁ、いいですよ。」

『それは良かった。多分午後には戻ると思うんだけど、念には念をいれようと思ってね。頼んだよ。』

「了解。」

『それと、今回のことは誰にもいうなよ?いいな?』

 一拍置いて、思い出したかのように釘を刺してきた。優先順位はそれが一番ではと思ったが、指摘しないでおいた。

「も、もちろんですよ。」

 こんなこと、言ったって信じるどころか、俺が脳外科連れてかれますって……

『忙しい朝にすまないね。それじゃあ俺はこれで。』

「はい。」

 ピッ、という音と共に通話が終わる。

 俺はもう一度、長門とかかれた画面を見つめる。

「やべーこと知っちゃったなぁ………」

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