青春の見えない声

sui

青春の見えない声



夏、快晴。

外は眩く光に満ちて、時に勇ましい掛け声も聞こえる。

蝉はジージーミンミンと喧しく、風が吹くだけマシであるとは言え当然のように暑い。

シャツに浮いた汗はなかなか乾かない。


校舎内。

外とは打って変わって無人のそこは静まり返っていた。


日陰は空気が湿って涼しさすら感じられる。



べランダの隅、室外機の裏側にドロリと溶けた一冊のノートがあった。

数日前の大雨が原因だろうか、それとも随分と前からそこに落ちているのだろうか。

開けば何らかの文字が見える。当然それは縒れ滲んでいたが、それ以上に悪筆だった。


「誰も、誰も見てはくれない」


「ここにいると知りもしない」


「声を出した所で届く訳もない」


「動けと言う、言うばかり。ただの義務でしかない」


「やれと求められる、求めるばかり。ただの奉仕でしかない」


「これで、息が出来るとどうして思うんだ」


「透明だ、真っ白だ、幽霊だ、機械だ。あってもなくても変わりはしない。何でもいいしどれでもいい」


「ここに俺はいると言うのに!」


最後の一ページは破られている。



笑い声の響く外。明るい未来。

神聖なる学び舎。

誰がこのノートを見つけただろう。

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