28、地味な無双で魔石を集めまくる



 大きな大きなスライムが現れた!

 決してキングホニャララとか、グラトニームニャムニャとかではない!


 :本当に深層じゃないの!? デカすぎない!?

 :よろず屋さんがR指定な展開になったらどうしよう…

 :おちつけ。もちつけ。

 :ぺったんぺったん

 :もちついたようで何よりですwww


 心配しているようで楽しんでいるコメント欄を横目で見ながら、一戸建ての家が三つくらい入るような大きさのスライムを見上げる。


 小さなスライムには、小さな魔石がある。

 大きなスライムには、大きな魔石がある。

 

 魔法が使えたら、スライムのスライミーな部分を焼いたりして核を取り出すことができる。

 こればっかりはメイリにも頼れないんだよなぁ。スライムと剣は相性悪すぎるのだ。

 それに現状、おめでたいことに妊娠している奥さんに付きっきりだと思われ。メイリも過保護だが、俺も実験とはいえフルパワーで守り石を作る程度には心配している。

 お礼の筑前煮の他に、きんぴらごぼうが付いていた。しかも、タケノコのきんぴらとカボチャのきんぴら……これは初めてのやつ! テンションが上がりまくりだ!

 さらに山菜のおこわをたんまりいただいたので、しばらくは味噌汁だけを作って生きていけると涙したのは、いい思い出だ。(直近)


「さて、用意するのはクズ魔石……もちろん、よろず屋で加工した特製のクズ魔石です」


 :特製のクズ魔石、とは。

 :考えるな。感じろ。よろず屋さんだぞ。

 :うわっ、めっちゃ高い。ジャンプが高い。

 :よろず屋さんだから……

 :えっ、腕をズボって!? ズボって入れてるよ!? 溶けちゃうよ!?

 :よろず屋さん以下略

 :神技を見た……


 驚かれることをやったわけじゃない。

 スライムの体の中には核と呼ばれるものがあって、それは常に体内を移動している。

 その移動する場所を予測し、先回りして加工したクズ魔石を突っ込むだけの簡単なお仕事だ。

 基本的にスライムは、物質を溶かす酸のような粘液を出す魔獣だ。しかしそれは敵対していると認識し、なおかつ食料として認識した時に出すものだ。

 武器を持っていない腕をズボッと入れても、数秒くらいなら敵として認識されない。さすがに同じ個体に何度もやったらダメだけど。

 これができるようになるコツは、殺意を出さずに自然体で行うことだよ。


 :無理でしょ

 :無理です。

 :魔獣を見たら敵って、俺たちはギルドの講習会で教育を受けてきたんだ。

 :ちなみに剣聖は何と言ってました?


 「なぜかドン引きされたんですよね。あっちの方が意味不明なことをやっているはずなのに……」


 :安心してください。御二方とも意味不明なことをやってますよ。

 :ああ、類は友をってやつか。

 :今日はお店、閉めてるんですか?【聖騎士】

 :噂をすれば弟子のほうがきちゃ。

 :え、聖騎士って剣聖の弟子なの?

 :自称ですが剣聖の弟子です!【聖騎士】

 :自称なんかーい

 :ここまで広まっていれば公式でええんちゃうか?


「おや、コメントするなんて珍しいですね。今日は店を休んで地味な魔石集め配信ですよ」

 配信すること自体が少ないだけという噂もあるけど、基本あまり目立ちたくないなどと言っている【聖騎士パラディン】のサクヤ君がコメントをするなんて珍しい。

 珍しいジョブ持ちだと、コメントにジョブ名が入るシステムらしい。だからメイリも俺も、滅多に配信でコメントを入れることはない。


 :巨大スライムの魔石集めが地味、とは

 :よろず屋さんだからってことで納得したほうが心軽やかになるよ

 :もうやらかしていたんですね。把握しました。【聖騎士】

 :さすが聖騎士。有能がすぎる。


 解せぬ! とコメントを見てぐぬぬしながらも、スライムの魔石を集めるための下準備は続けている。

 出てくる大きなスライムに、片っ端から加工した魔石を埋め込んでいく。

 核を直接攻撃するので極大魔石が大魔石になってしまうが、背に腹はかえられぬってことで。

 国が動く単位の魔石なんて手に入れたら、面倒な事この上ないからね……。

 ちなみにメイリはスライムの核を粉砕するのがデフォのため、大魔石どころかクズ魔石も回収できないことが多い。

 それくらいスライムは(俺以外の)冒険者にとって、厄介極まりないな魔獣なのだ。


 俺が加工した魔石は、スライムが持っている魔力に反応して爆発を起こす。

 クズ魔石が爆発する威力なんてたいしたものではないが、核そのものに直接当たればパキッと割れるのだ。

 核が破壊されると本体は魔素と化し、魔石だけが残る。スライムの場合は核が魔石化するため、

 大量に倒したから、さてこれはどうやって持って帰ろうかという話になるんだけど……。


『おお、よろず屋の店主ではないか』


「グランディスさん? こんなところで会うなんて、奇遇ですね」


 現れたのはダークグレーの短髪の美丈夫、異世界人のグランディスさんだった。

 冒険者チーム『啓明』のリーダーで、彼の……彼らの奥さんは元日本人の異世界転生者だったりする。俺は一妻多夫も一夫多妻も、本人同士が納得しているのなら否定しないタイプだ。それに、異世界では女性が弱く男性のほうが多いという話を聞いたことがあるからな……。


 :当たり前のように会話をしているんだよな……

 :翻訳のジョブとか聞いたことあるけど、よろず屋さんは多才なのかジョブのおかげなのか。

 :あ、勉強すれば異世界語で会話できるようになりますよ。【聖騎士】

 :有能すぎる

 :しかも彼女かわいいし

 :爆ぜろ!


 配信を切ろうかと思ったけど、なんか「まぁいっか」みたいな気持ちなので、そのまま続行する。問題が起きたら運営()がなんとかするでしょってことで。

 そしてコハナちゃんはかわいいので、サクヤ君は何度でも爆ぜたらいいと思う。


 ひょんな事からグリフォンの家族を助けたチーム『啓明』。リーダーのグランディスさんを筆頭に、メンバー全員がグリフォンたちと共に活動することとなったらしい。

 チーム『啓明』は奥さんやグリフォンの絡みもあり、色々な意味で話題に事欠かない人たちだったりする。

 もちろん、転生者云々の部分は俺くらいしか知らないと思う。こんなことを大っぴらにしたら面倒なことになるからね。転生した彼女本人が公開しないのなら、俺はそれに従うってやつだ。


 グランディスさんは大きな魚を肩に数尾ぶら下げて、少しだけ口もとを緩ませる。

 

『ちょうど良かった。今から店に行こうと思っていた』


「お礼なんていらないですよ。海竜戦の時に『啓明』分として預かっていた素材を、ギルマス経由で渡そうと思っていたので、こちらとしてもお会いできて良かったです。その魚には興味がありますし」


『ははっ、そうだろう。ギルマスから食材か魔石にしろと言われたんだ。もちろん魔石もあるぞ』


「それは助かります」


 食材は嬉しいけど、さらに増えた荷物にどうしようかと思っていたら、グランディスさんと一緒にいるグリフォンが「ピュイー」と鳴いた。

 えっ!? グリフォンの鳴き声かわいいなっ!?


『こいつが運んでくれるそうだ。店はこれから開けられるか? 礼を渡すだけだから時間はとらないと思うが……』


「ちょうど友人が何種類かお酒を置いていったところです。他のメンバーの方々も一緒にどうですか? 魚料理でおもてなししますよ」


『ありがとう。こちらも追加の食材を持っていこう。リオは肉料理が得意なんだ。グリフォンは……』


「うちのポメ太郎が受け入れると思うので、ぜひ連れてきてください」


『ありがとう』


  :よろず屋さんのところに置いてある酒って、剣聖の私物じゃなかったっけ?

  :容赦なく開けようとするドSなよろず屋さん、すこです。

  :何も聞かなかったことにします!【聖騎士】

  :いいよいいよ。追加で持って行くから【剣聖】

  :きたーっ!!

  :酒に釣られて剣聖きちゃwww

  :さすが剣聖。太っ腹だな。


 うん。メイリならそう言ってくれると思っていたよ。

 そして肉料理に食いついたみたいだから、メイリとサクヤ君たちも参加できるようにしておくか。食べられるようなら奥さん用にお土産を……と思ったけど、ダンジョンの外はダメか。

 あ、それならメイリと奥さんは、後日我が家でもてなすことにしよう。

 ポメ太郎がいれば、そのあたり色々と融通きかせてくれそうだ。真っ白毛玉様に感謝感謝……。



 

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ダンジョン『よろず屋』営業中!〜レアジョブをゲットしたので、クズ魔石を転がすだけの簡単なお仕事してます〜 もちだもちこ @mochidako

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