27、たまには地道なダンジョン探索を


「はい。というわけで、今日は『よろず屋』じゃなくて探索配信です」


 :待ってた

 :きちゃー

 :よろず屋さんが副業持っていた件。あれは何? 陰陽師?

 :けしからん衣装にチェンジプリーズ!

 :えー、いつものバーテンダーみたいな衣装も好き。メガネとかかけてほしい。

 :メガネフェチおるやん

 :フェチじゃないし! 癖だし!


 けしからん衣装とは? と思ったら、もうひとつのジョブの方か。

 メガネの方はダンジョンで見つけたアイテムにあった気がするので、このコメントをくれた人がいる時にでも身につけてあげよう。


 基本、外皮アバターはアイテムなどを装備しないと外見を変えられない。ダンジョンで得たものか、運営の店で課金するかなんだけど……なぜか高級ブランド品並みに高い。そしてリアルマネーがかかる。俺はダンジョン無課金勢だから、そっちにお金は使わないようにしている。


 そういえば、装備品なら異世界人に依頼するって手もあるか。

 先日の海竜戦で一緒だった、ムサシ氏とアヤメさんのバトルニンジャっぽい装備は、異世界人に依頼したとか言ってたし……。


 今日は俺一人での単独探索&単独配信だ。

 ぼんやり薄明るい洞窟の中を歩きながら、どこに魔獣がいるのかを感覚で探っている。

 いつもならクズ魔石を使って呼び寄せたりするんだけど、今回それを使うのは悪手だ。このあたりに出てくる魔獣は、下手すればアイテム類を取り込んで強化されてしまう。

 倒せないこともないけど、ただひたすら時間がかかって面倒なことになる。そうならないよう地道に探っていく。


 :ジョブチェン! ジョブチェン!

 :白陰陽師になるには、ポメちゃんの協力が必須???

 :あれ? よろず屋さん、ポメ太郎ちゃんは連れて来なかったの?


「はい。ポメ太郎は店でお昼寝中です。そしてお察しのとおり、あのジョブはポメ太郎がいないと発動しません」


 :ララちゃん連れてくればええやん

 :植木鉢がないとダメなんじゃないの?

 :ちょっとだけ植木鉢から出てきてたから、体調良ければいけるんじゃね?

 :間違えるなよ。植木鉢の魔物じゃなくて、ララちゃんはマンドラゴラだぞ。

 :なるほど。よろず屋さんが植木鉢を持ち歩いていれば……

 :植木鉢を持ってダンジョン探索するイケメンバーテンダーwww シュールwww


 そういえば、ララちゃんを連れてくるという発想はなかったな。

 今度、一緒に来るか聞いてみよう。


「ララちゃんは、まだ生まれたばかりなので成長に期待です。それと……あのジョブはコスパが悪いので探索向きではないのですよ。ちなみにですが、けしからん衣装のデザインはデフォです」


 俺は露出の趣味はないというアピールを、配信でしっかりとしておかねば。


 :コスパ? あのジョブは何かを対価にしているのかしら?

 :最初の白いほうは、和装で美しかった。露出少なめだったけど

 :和装は露出少ないからこそ、よき……

 :今日はどこの探索? 深層?


「そうですね。対価といいますか、一定時間ごとに、よろず屋の倉庫から大魔石が消えていく感じです」


 :は?

 :ものによるけど、数十万から数百万円単位の大魔石が??? 

 :さ、さすがによろず屋さんでも、きょ、極大魔石はもってないでしょ(震え声)

 :ひぇ……


 俺はクズ魔石と呼ばれる、売っても子どものお小遣い稼ぎ程度の魔石を加工して収入を得ている。

 人からもらうこともあるけど、主に自分が魔獣を倒した時、うっかり魔石を砕いてしまったのを利用できないか試行錯誤したのが始まりなんだよな。

 魔石はクズから小、中、大、極大まであって、コメントでもあるけど数千万にもなると国が動くってメイリが言ってた。そしてマイホームを買っていた。


「このジョブを得てから、魔石は売らずに倉庫へ置くようにしてます。ということで、今日は大魔石集めという地味な配信です」


 :よろず屋さん、さらっととんでもないこと言ってるぞ

 :え、マジで深層なの?

 :よく見てみろ。風景は洞窟っぽいから深層ではない……はず。

 :よろず屋さんなら何をしてもおかしくないみたいな、謎の信頼感あるよな。

 :おいおい!

 :おいおいおいおい!!

 :なんで今日にかぎって【剣聖ソード・マスター】を連れて来ないんだ!

 :うわあああああ


 コメントの流れが早い。

 大部分が心配のコメントだけど、ちらほらアンチっぽいのも混じっているなぁ。

 ふと、メールボックスに新着のお知らせが入っていることに気づく。

 昨日運営に送った返事が届いていた。調査員を派遣するとか入っていたから、後で返信しておこう。

 ポメ太郎の飲酒量については、同じく調査員が診てくれるとのこと。よかったよかった。


「あ、そうそう一応お知らせしますね。他の枠でまかり通ったことかもしれませんが、この枠では私がルールブックとなります。他人に不快感を与えるようなコメントをする人は、よからぬ事が起きることを覚悟してくださいね」


 :人に銃口を向けるのは、撃たれる覚悟の以下略

 :そこは略さず言えよw

 :小さな子どもでも「自分がされたら嫌なことを人にしない」って知ってるだろうに……

 :子どもなら教育できるけど、大人は厄介だよなぁ

 :良い子でいたら、よろず屋さんがほめてくれると聞いて!


 俺の配信は(色々な意味で)治安が良い方だったけど、海竜戦から厄介な奴らが増えてきたように思う。

 とりあえず心配してくれる人達には「よしよし、いい子いい子」と褒めたら、コメントの流れが爆速になった。冗談のつもりだったんだけど……。


 :よろず屋さんは、もっと自覚したほうがいいよ?

 :そういうとこやぞ!

 :えへえへ、ほめ、ホメられ、ホメラレアン……

 :ポメラニアンみたいになってる奴おるやん

 :不覚にも拙者、ときめいてしまったでござる……

 :ゴザル武士もおるやん


 そんな事を言っていたら、大魔石を持っているっぽい魔獣が出てきた。

 俺の歩いている場所は深層ではなく中層だ。

 光苔や光るキノコがたくさん生えている薄明るい洞窟で、かなり湿度が高い。

 そして出てくるのは……。


 :うわっ!? でかくね!?

 :すごく、おおきいです

 :こんな大きなスライム見たことがないんですけど!?

 :え? ここ、深層じゃないの?


 深層ではないですよ。中層ですよ。

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