第6話 僕の力こぶ

 この後、お父さんとお母さんのテンションが爆上がりしてしまい、秘蔵のお酒を収納庫の奥から取り出して、ささやかなお祝の会へ突入してしまった。


 お父さんもお母さんも、また涙を流して笑いながら、グイグイとお酒を飲んでいるぞ。


 〈サト〉ちゃんは、僕に「お一つどうぞ」と言いながらお酒を注いでくれるから、飲まない訳にはいかない。

 ほんのちょっぴりお酒を飲んで薄っすら頬ほほを赤く染めた〈サト〉ちゃんは、ちょっと色っぽかったんだ。


 お父さんとお母さんへ聞こえないように、僕の耳元で「〈サト〉の身体の中をかき回したんだから、責任をとってもらいますね」とささやいてきたけど、僕に一体どんな責任があるんだよ。


 〈サト〉ちゃんお願いだから、僕に熱い身体を押し付けながら微笑まないでくれよ、ロリコンになってしまうだろう。



 〈呪い〉から解放された〈サト〉ちゃんは、コロコロと良く笑うようになって、家事のお手伝いもするようになった。

 それが嬉しいのだろう、お父さんとお母さんは目を細めてニコニコとしている、幸せ溢れる家族になっているな。


 宴会の次の日に、〈サト〉ちゃんの〈呪い〉の話をきいたところ、〈サト〉ちゃんの〈呪い〉は〈悪意の呪い〉というもので、〈呪い〉にかかった後に出会った人から文字通り〈悪意〉を向けられてしまう〈呪い〉だと言うことだ。


 〈呪い〉は確率が低いものの、移ることがあるらしくて、忌み嫌いみきらわれているとも話してくれた。


 〈サト〉ちゃんの家族が、こんな外はずれに住んでいて誰も挨拶をしてくれないのは、〈呪い〉のせいだったんだな。


 僕の中の疑問がスコーンと解決して、スッキリとしたが、〈サト〉ちゃんはずっと辛い思いをしてたんだな。

 まだ小さいのに酷ひどい話だよ。


 それと僕が〈サト〉ちゃんの〈呪い〉を解いたことは、この家だけの秘密にしておくことになった。

 ヒモを解ほどいたと言う説明ではきっと信用されないし、村に突然現れた僕は、それでなくても怪しまれているから、本当のことを言うのは止めようってことだ。


 僕は〈やっぱりな〉と思ったし、変なことだけど、怪しまれていることを少しだけ嬉しく思ったんだ。


 まるでヒーローものに出てくる、謎を背負った主人公みたいじゃないか。


 でもおかしいな。

 悪の怪人をやっつけて、ヒロインと結ばれるはずだけど、幼女の〈サト〉ちゃんしかいないのは、一体どう言うことなんだろう。

 展開的には、〈サト〉ちゃんのお姉さんがいるはずなのに、どうして美人で清楚なお姉さんがいないのだろう。


 こんなシナリオでは、人気作にはとてもなれないし、興味を失くされるだけだと思うよ。


 「どうして、〈サト〉ちゃんの〈呪い〉が解けたことを村の皆に言わないのですか」


 「あぁ、そのことか。 考えがあるんだよ。 〈呪い〉が解けるのは奇跡的なことだから、例え〈瘴気〉が見えなくても、なかなか信じてもらえないと思うんだ。 だから、奇跡を起こす人に〈呪い〉が解けたことを伝えてもらおうって考えているんだよ」


 「えっ、奇跡を起こす人が実在しているのですか」


 「そうだよ。〈聖女様〉がおられるんだ」


 ほぉー、〈聖女〉がいるのか。

 お父さんの話に、少し興奮してしまったじゃないか。

 ひょっとして、その人が僕のメインヒロインじゃないのか。


 今日の夜は、〈聖女〉と共に冒険の旅をする夢を見よう。

 もちろん、旅の途中で泊まる宿のシーンがメインに決まっている。

 お風呂のシーンも入れてみよう。

 戦闘シーンは、うーん、無くも良いよな。


 わはははっ、良い夢が見られそうだ。



 それからの日々は、変化があまり無いものだった。


 僕は畑にイモを植えたり、まきを割ったりと、身体を使った仕事を中心にこなしているから、みるみるうちに筋肉がついてムキムキになっていった。

 以前は腕立て伏せや腹筋を一生懸命にしても、少しも筋肉はつかなかったのに、今は面白いように筋肉質の身体へ変わっていくぞ。


 僕が腕を曲げて力こぶを作って、「自分ながらイケてるじゃん」とナルシストしていたら、〈サト〉ちゃんが笑いながら僕の腕に飛びついてきた。


 「ふふっ、〈サト〉は強い人が好きなんだ」


 〈サト〉ちゃん程度の体重なら、腕にぶら下げることは出来るけど、僕は強くはないんだ、逆に弱い男なんだ。

 そう言いそうになったけど、〈サト〉ちゃんが期待するような熱い目で見ているから、見栄みえをはってしまうじゃないか。


 「ははっ、僕の力こぶは固いだろう」


 「うん、すごく固いよ。 やわらかい〈サト〉とは違うね。 お兄ちゃんは、男なんだね」


 うっ、〈サト〉ちゃん、まだ小さいのにドキリとすることを言わないでくれよ。

 〈サト〉ちゃんは、僕に何を伝えようとしているんだろう、ほとんど女性と話したことがない僕は、ただれて困惑こんわくしてしまう。


 あぁ、小学生より対人スキルがとぼしい僕は、本当にヘタレなんだな。



 朝食を食べているとお母さんが、重大な発表があるって感じで話をしてきた。


 「噂になっているのだけど、もう直ぐこの村に〈聖女様〉が来られるらしいですって」


 「おぉ、思っていたより早かったな。 〈サト〉の〈呪い〉が解けたことを、村の皆へ宣言してもらえるな」


 「ふふっ、それにあなたの足に〈回復の祈り〉をかけてもらえますよ」


 「ははっ、あまり効果を期待しないでおこう。 〈回復の祈り〉でも、俺の足を直すのは厳しいと思うよ」


 おぉ、うたがっていたわけじゃないけど、本当に〈聖女〉がいるんだ、すごい。

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転移した僕にはスキルもレベルも無かったけど、恵まれた肉体が僕にはとんでもなくチートだと思えた。皆に頼られヒロインも手に入れて、夢見ていた幸福な人生を歩むんだ。 品画十帆 @6347

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