始まりの地、途中の道。


——ガツン、ガツン!


飛空艇の操縦桿に足を乗せる、ペンのキャップを口に咥えて取り外す、それを下敷きにしてリストに一本線を引く。


私の態度の悪さは、当初の予定の数百倍早く仕事が終わったことに対する苛立ちを表している、思惑通りなんてものは夢物語だった。


この悪魔の、生き汚なさの前では。


「お褒めに預かり光栄の至りだぜ」


勝手に人の喉を震わせ音を放つ不届者、そういう契約が故に咎めることが出来ない、その都度取り返してやる必要がある。


「しかし相当手助けしてやったからな、これで命の借りはかなり返せたはずだ」


心の底で舌打ちをする。


現在ズィードゥークは自在に出てこられる、つまり恩の押し売りが可能なのだ。


彼の持つ運命を見る力、悪魔としての肉体スペックの高さ、そこに私の魔術師としての技能が合わされば不可能な殺人などありはしない。


私が不機嫌な理由がまさにそこにある。


わざわざ勝てる勝負を前に、彼の策謀に乗っかるのが嫌だからと、次果たして機会があるかどうかも分からない暗殺を失敗する訳にもいかない。


死ぬか勝つかの二択問題、選ぶ余地のない選択肢を延々と突きつけられる。


それが嫌なら私はたかだか意地と名誉とプライドがために、己が執着を焼き捨てるしかない、そんな愚かな行為を容認するしかない。


——実に哀れだ。


当然帰結として、このリストは黒線に染められた。


「お次はどうするんだ、えぇ?邪魔者はあらかた片付いたってことだよなそのリスト、てことは夢の成就が近いってことか?」


悪辣に笑う悪魔、私は用済みになったリストを灰も残さぬ魔の炎で焼き払い、彼の問いに答える。


「体制、風習、慣習、そのような人の意識に巣食う氷の王国を、新たな形に削り出すためには、まず土台から溶かす必要がありました」


ズボンのベルトに刺した黒い杖、クラリスから調達した偽の獲物を抜き取って、手に馴染ませるようにクルクルと取り回す。


「国旗にも等しい一大勢力、時代の先頭をやや譲っているとはいえ、いまだ個として絶対の力を持つ魔術師達、それが束ねる『保守派』という一派


これまでのアサシネイトは、あくまで外の協力者を排除するためのもの


より直接的な利益を得るのは、このキャリー=マイルズではなく『推進派』重鎮の方々だ、今なお闘争を続けている権力戦争者達だ」


言い切ると共にパシッと杖を握り込む。


「だから私は戻るのだ」


機体が雲の海を抜け、晴れた青空に躍り出る、そこはかつて懐かしの、馴染み深きあの場所の、私が磔にされた戒めのあの地だった。


……魔術学院。


真の敵は、私が直接打倒するほかない。


隠れているばかりでは、奴らに手は届かぬだろう。


「お前達が蓋をしたあの棺には、私のhatredのひと欠片たりとも封じられてはいなかった」


覚悟を決める、歴史を変えるのはこの私だと——。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

首吊り台のキャリー=マイルズ ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン @tamrni

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画