アウトロ~集められた終幕は・・・~
@laeverteinn
第1話 あれから・・・・
今年もこの季節がやってきたのね・・・
この暑さを和らいでくれる、優しい風が吹いている。
あれは・・・
「今日はどこにいこう?」
私は久しぶりのお出かけに、浮ついた気持ちをどうしても隠せずに
愛する人に明るい声でそう聞いたの。
彼は少し困ったような
少し悲しいような
色々な少しが入り混じった顔を私に向けていた
ここはいつも待ち合わせに使う
どこにでもあるような遮断機のあるローカル駅
多くもなく、かといって少なくもない色々な人が行き交うローカル駅
私の生まれ育った町のこの駅は、私の記憶の中でいつも同じ姿をしていた。
少し暑くなり始めた初夏の日差しは
浮ついた私の気持ちを火照らすように照り輝き、浮ついた私の気持ちを
覚ますように風が心地よく吹く、どこにでもあるような風景
彼方の周りにも
「そんな時間を過ごしてきた景色」ありませんか?
ファァーーーーーーーーーーーーーーーン
浮ついた気持ちとこれからどこに行こうかな。
浮ついた気持ちで大丈夫。今日は彼とお出かけなんだから
そんな浮ついた気持ちを吹き飛ばすように
激しくけたたましく、それでいて無機質で硬質な音が
私を現実に呼び戻す
いつの間にか電車が来ていたみたい
遮断機が下りる音も、規則正しく電車の到来を告げる遮断機のサイレンも
その時の私には聞こえていなかった
(水族館とかいいな)
(あ、でも新作の夏服もみたいなぁ)
ぐしゃ
ぐしゃ、ぐしゃ、ごり、がり、ががが、
びり
びち、びちゃ、びゅん、・・・ぴちゃ
目の前で「何か」が「電車」に飛び込んだの
その「なにか」の生から死の扉を開く音が不協和音となって
私に襲いかかった
色々な少しが入り混じった彼がいない
色々な少しが入り混じった彼は
とても優しくて
とても悲し気で
口唇(こうしん)が何かをかたどったようにも見えたけど
私にはわからなかった
だから
永遠に彼が私に何て言ったのか
わからないの
誰かわかるならおしえてください
隣にいたはずの彼がいない
混乱する私にはその時、その瞬間
よくある言葉がよぎって消えた
「なにがおきたのかわからない」
浮ついた私の瞳の端に
かれが映っていたの
かれが映ってないの
わたしのかれはどこにいったの?
その答えを知ることもなく
世界は淡々としていながら粛々と
何事もなかったと言わんばかりに時を刻み続けた
ひと一人死んでも、この世は変わらない
あなたもわたしも何十億分の一
ちっぽけと称してもまだ誇大に響く
矮小な存在でしかなかったの
ローカル新聞のローカル面の端の端
そこにかれが載っていた
淡々と「自殺か?」とだけ書かれていた
半狂乱で泣き続けては私を叩いて
「かえしてっ」
「かえしてっ」
「カエシテヨッ」
叫び続ける○○のおかあさん
真っ赤に泣き腫らした目で
そんなおかあさんをだきしめる○○のおとうさん
私はこの日を境に世界から拒絶されたの
お葬式も出れなかった
どこで眠っているのかもわからない
思い出せるのは
瞬時に肉塊となったかれの
赤いと呼ぶにはすこし薄くやわらかな
桃色に光る肉片が、
肉片が
こびりついていた
そしてスライドパネルのように
無機質にかれのかおが思い出されるの
でも
いつも
表情はわからないまま
あれから・・・
どれだけの時が経ったのでしょう
どれだけの時が経ったのですか?
かれが愛してくれた黒髪も
背中に届く程度までは伸びました
かれが愛してくれた黒髪が
白く変色してしまいました
ねえ
わたしをこまらせないで
ねぇ
わたしはいまもここにいるよ
ねえ
いつごろあえる?
ねぇ
そのときはおそろいの
ちょっとはずかしいけどおそろいの
あなたのすきだった赤色の
ふくをかいにいきませんか?
きょうもあの遮断機のあるばしょに
いってみました
今日もあえない
きのうもあえなかった
あしたはあえる?
いつならあえますか?
ひとことでいいから
こたえをきかせてください
ひとことでいいから
○○しているよ
ってささやいてよ・・・
遮断機のある駅は
今日も何事もなく時を刻んでいく
かれをおいてけぼりにして
わたしをおきざりにして
アウトロ~集められた終幕は・・・~ @laeverteinn
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