[第四十九話、ゴーストなんて信じてません]


薄暗い病室。床には割れた薬瓶が散乱し、壁にはかすかな血痕が残っている。俺は息を整えながら、目の前の大男を見つめていた奴の片手には巨大なパイプが握られている、男は口から唾液を垂らし続けなんとも汚い..


「コロス」

 

男が挑発するように笑った。


「コロスとか言ったらダメルー!」 



「行くぞ、ホッパー」


ホッパーはその言葉に応えるように、前足を力強く地面につけて構えた。

 

男は大量の唾を吐きながらパイプを振り上げ襲いかかってくる。



俺はその圧力を感じ取り、瞬時に身を屈めた。パイプは俺の頭上をかすめ、床に激しく叩きつけられ部屋の埃が舞い上がる。


「シネ!!」


男が笑いながら、次の一撃を狙ってくる。


俺はその隙を逃さず、素早く横に机に飛び乗り、そのまま前方へダイブする。机の上から宙返りを決め、空中で体をひねりながら再度男の背後に回り込む。


おぉぉ..我ながら成長したな俺 


「おい、こっちだ!」


そう叫びながら、目の前の敵に挑発する。


男が声に反応し振り向く瞬間を狙い


『スチールスマッシュ!!』



俺の拳が男の頬に直撃し、その衝撃は凄まじかった。まるで爆風が巻き起こるように吹き飛ばされ、病室の壁に激しく叩きつけられる。ガラスが割れる音とともに、周囲の薬瓶が崩れ落ち、部屋全体が振動する。



「ユウマカッコいいルー!」


「ユウマってこんな強いん?ウチの知ってるユウマはもっと鈍臭いはずやのに..」



まじか.. 俺こんなに戦えるようになってる



アイツの周囲には、崩れた石灰が舞い上がり、薄い煙が漂っている。息を整えながら、男は頭をかすかに振り、立ち上がる



それだけで死ぬわけないっすよねー


「あんな攻撃くらってまだ動けるんかいなあのゴリラ!?」


「コロス..コロス...」


「次はホパが行くルー!」



ホッパーは華麗にジャンプし、空中で一回転。ホッパーキックを放つ。男は驚き、パイプで防ごうとするが、蹴りの力は想像以上だ。鋭い一撃が大男の胸に命中し、後ろに吹き飛ばされてしまう。


「もっと攻めるルー!」


ホッパーはすぐに着地し、相手が立ち上がる前に次の攻撃に移る。一瞬の隙を見逃さず、再び男に飛びかかる。


ホッパーパンチ!ホッパーキックを何度も浴びせ迫力ある衝撃音が響き渡る。


「うぅっ…!」


男はたまらずに後退り、壁に背中をぶつける


「ホッパー、行くぞ!今がチャンスだ!」


ホッパーは頷き、すぐ隣に並ぶ。二人は互いに目を合わせ、無言の了解を交わす。


「ホッパーが引きつけてくれ!俺が攻撃する!」


俺の指示に、ホッパーは前へ一歩踏み出し、体を低く構えた。


「ルー!」


男に向かって突進する。ホッパーのスピードに合わせ、俺も後に続く。男はその動きに目を向け、驚愕の表情を浮かべるが、すでに二人の連携は整っていた。


全身の力を込めて。


「俺らのパンチを喰らえー!」

「ホパ達のパンチを喰らえー!」 


二人のパンチが男に命中する。


「うおおっ!」という男の叫び声が病室内に響き渡りる。

 

俺達の拳が男の顔面を捉え、男は一気に吹き飛ばされる。強烈な衝撃音が病室の一部が崩れるほどの威力だった。


「やった、決まった!」


俺とホッパーはお互いに目を合わせ、喜びの表情を浮かべる。連携攻撃は見事に成功し、男は戦意を失い、その場に倒れ込む。



「今の最高によかったルー!」


「流石は俺達だー!」


嬉しさのあまりホッパーをぎゅーっと抱きしめ頬にチュッチュとキスをしてイチャイチャしていると


「だいぶ嬉しそうやな」


「仲いいアルね」


「お見苦しいところを見せました..」


「ユウマもホッパーもお疲れさん!うちとリエルで怪我したところ治したるわ」


そうフェイ先輩が言うと俺達に手をかざし回復魔法を唱え傷を治療してくれている。


ふと俺はフェイ先輩が何故俺とジュリア先輩のことを知ってるのか気になり問いかけた。 


「あの、先輩はどうしてジュリア先輩となにかあったこと知ってるんですか?」


「なにかあったとは?うちなんも知らへんよ」


「へ?それってどういう意味っすか?だってここに来る前にジュリアのことバラすって言ってたからてっきり知ってるかと..」


「あんなん口からでまかせやん(笑)そら凛とアンタが花火見れへんかったのは知ってるしそれにジュリアが絡んでるのも知ってるけど内容までは知ってるわけないやん、さては人に言えへんぐらいのことがあったんやなこれは」


そうニヤリと笑い俺が真実を話すのを待っている。

 

「ななな、ななにもないっすよ!」


「多分聞いても答えへんやろうからこの話しを追求するんは辞めとくわ..」

 

「ありがとうございます。」


するとフェイ先輩はニヤけていた顔から少し真剣な顔になると


「ジュリアのこと悪く思わんといてあげてな、あの子の事擁護するわけやないけど人より好きの依存が強いというかなんというか..ユウマもジュリアの過去は知ってるやろ?」


「少しだけ教えてくれました」


「人に嫌われやすいどうしよもない奴やねん」


笑いながらジュリア先輩のことを庇うフェイ先輩にこの人は2年生の中でも周りを良くみて、自分よりも他人を優先する人なんだなと思った。


「先輩ってどうしてこの学校に来たんですか?」


「うち?そりゃあ魔法の才能があったからやけど、そやなー話すと長くなるから簡潔に話すけど、元々うちの家系は魔法使いが存在せえへんかったんよ料理人やったり武道を極めたりとかそんな家系やったのに突然うちだけが魔法の才能に目覚めてもうてな、それはもう親戚中から避難の嵐やで特にオカンがな...オトンの子供じゃなくて違う子孕んだとか言われまくってたみたいやで....実際はしっかりオトンのつまらん性格引き継いでるそっくりの娘やから不倫相手の子ではないってわかったけどな(笑)」


この人も俺と同じだ...

俺も髪色がこんなんだから父は母を疑い、母は疑われるのが嫌で”出来る兄”だけを可愛がり俺は見向きもされなかったな 


「なんか俺と先輩って似てますね」


ドキン...ドキン...


(こ、こいつ//いきなり何言い出すねん!うちとユウマが似てる!?どこがやねん!うちはこんな人泣かせちゃう!)


「に、似てへんわ!」


「振られたー!」


「降ってもないし!そもそもユウマの事なんか...」


フェイ先輩が何かを言い出そうとしたとき、突然上の階から助けを呼ぶ声が聞こえた。


「レイラが髪の毛に飲み込まれるピィ!!ユウマー!フェイー!助けてピィ!!!」


「この声はフレイア!?」


「3階からやな!みんな行くで!!」




俺たちはダッシュで階段を駆け上がり、3階に到着した。息を切らしながらも足を止めず、真っ直ぐに伸びる廊下を進む。廊下の終わりには、何かが待ち構えているかのような異様な雰囲気が漂っていた。


「みんな気をつけろ」と俺は声をかけ、足音を消すように進む。


廊下の先には、ゆらりと動く影が見えた。


「なんだあれ…?」


ホッパーも警戒心を高め、身構えながら進む。すると、足元に違和感を感じた。ふと床を見ると、そこには何かが絡みついていた。


「何かが足に絡まったルー..これ髪の毛ルー?」


ボサボサの髪が、廊下の床一面に広がり。壁に沿ってまるで生き物のように這い回り、おぞましい量の髪が壁や床を覆い尽くしている。


「これってまさか...」


「噂話しはホンマやったんや...」 


廊下の奥で一人の少女が立っていた。長い黒髪に覆われ、彼女の顔は見えない。


少女は静かに立ち尽くしているだけ、なのに髪がこちらに向かって伸び、まるで廊下全体が彼女に支配されているかのようだ。


「まずい、みんな、警戒しろ!」


俺たちは後退りし、いつでも戦闘に入れるように構えた。しかし、少女は一言も発せず、ただ髪だけが不気味に蠢いている。


「君、もしかしてミラちゃん?」


フェイ先輩の問いかけに指先がピクっと動くするとゆっくりと顔あげ彼女の顔が少しずつ露わになっていく。


その顔を見た俺達は言葉を失った..


ミラの目は異常なまでに大きく、白目が広がっており、黒い瞳孔はまるで虚無を映しているようだった。その瞳は焦点が合わず、しかし同時にこちらを見つめているような冷たさを持っていた。


口元も、皮膚が引き攣れたように歪んでいて、笑っているのか苦しんでいるのか判別できない。唇は干からび、まるで乾いた土のようにひび割れている。


髪が完全に顔から滑り落ちた瞬間、その全貌が明らかになった。頬は痩せこけ、目の周りには深い影が落ちている。肌は血の気を失ったような青白さで、生気が一切感じられない。だが、何より恐ろしいのはその表情だ。絶望と苦痛が入り混じったまま、凍りついたように固定された顔――まるで死ぬ瞬間の恐怖がそのまま顔に刻み込まれているかのようだった。


「フレイア!レイラ!」


コイツの怖さで忘れていたがコイツの隣に壁に張り付けにされているレイラとフレイアが見える俺は必死に呼びかけるが気を失っているのかなにも反応しない


「イッショニ…アノヨニ…」


その囁くような声は、耳元に直接響くかのように冷たかった。ミラは虚ろな目をこちらに向け、指をゆっくりと俺に向けた。まるでこの世の終わりを告げるような動作だった。


「ギャァァァァァァ!!」


突然、ミラが叫び声を上げ、その瞬間、廊下全体が震えるように揺れた。壁や床に絡みついていた大量の髪の毛が一斉に蠢き出し、まるで生き物のように俺たちに向かって襲いかかってきた。


「来るぞ!」


髪の毛が一瞬で視界を埋め尽くす。俺たちは反射的に身を翻し、全速力で後退しようとするが、髪はあまりにも速い。フェイ先輩が俺の腕を引っ張りながら次の部屋に向けて走り出す。


「こっちやユウマ!」


俺たちは隣の部屋の扉に向かって体当たりした。ドアは朽ちかけていて、二人が同時にぶつかると、そのままバラバラに崩れ落ちた。破れた扉の隙間から飛び込むようにして、俺たちはなんとか髪の毛の猛威から逃げ込んだ。


「危なかった…」


「リエルもホッパーも無事やな!?」


「大丈夫ルー」


「ぼくちんも」   


ホッパー達も息を荒げながら、部屋の中に転がり込む。背後からは、まだ無数の髪がドアの外で蠢き、まるで獲物を探しているかのようにうごめいていた。



「ニゲテモムダ…」


その低い声は、どこか楽しげな響きを持ちながらも、不気味な笑いが混じっていた。俺たちは息を詰め、ドアの方を見つめた。すりガラス越しに、ゆっくりと近づく彼女の影がぼんやりと浮かび上がる。髪の毛が絡みつき、波打つように揺れているのが見える。


ガラスにぴたりと顔を押し付けるように、ミラはさらに顔を近づけてくる。その異様な姿が、ガラス越しにぼやけて歪み、不気味さを一層増幅させていた。息ができないほどの恐怖が、部屋全体を支配していく。


「笑ってやがる…」


俺は低く呟くが、体が硬直して動かない。目の前のドアが、もうすぐ突破されるのはわかっていた。だが、どうすることもできなかった。


その時――


ガチャリ。


まるで普通の日常の一幕のように、ミラは何の抵抗もなくドアノブを回した。ドアはゆっくりと開き、ギィ…という錆びついた音を立てながら、彼女の体が暗い部屋の中に滑り込んできた。


ドアがゆっくりと開き、ミラの姿が完全に部屋の中に現れた瞬間だった。


「今だ!」


俺はすかさず突進し、フェイ先輩も俺に合わせて動いた。先輩の手に握られた棍が唸りを上げ、俺たちは息を合わせてミラに先制攻撃を仕掛ける。


「はぁぁっ!」


棍を高く振り上げ、一気に叩きつけようとした。その瞬間、俺も拳を握りしめて同時に突っ込む。


だが――


「「!?」」


俺たちが放った攻撃は、ミラに届くことはなかった。見えない力が壁のように俺たちの前に立ちはだかり、次の瞬間、強烈な衝撃が体全体に走った。


「くっ…!」


「きゃ!」 


まるで風に吹き飛ばされるかのように、俺たちは後ろへと弾き飛ばされた。床に叩きつけられ、息が一瞬止まる。フェイも同様に壁に激しくぶつかり、棍は手から滑り落ちた。


「な、なんだ…今のは…?」


ミラはその場から一歩も動かず、ただこちらを冷たく見下ろしていた。


「タスケテ…イッショニ…」


ミラは再び冷たく指をさした。すると、床に散らばっていた髪の毛がまるで生き物のように蠢き始め、一斉に襲いかかってきた。髪は太く、絡み合いながら何本も集まって一本の巨大な触手のようになり、鋭く突き出すように動いてくる。


「来るぞ!」


俺は叫びながら、身体を低く構えた。次の瞬間、太い髪の束が一気に振り下ろされ、俺を狙ってきた。


俺は咄嗟に横へ飛び込んだ。先輩は素早く棍を使い、髪の毛をはじきながら回避する。俺も彼女に合わせて素早く宙返りし、床に転がるように身を翻す。


しかし、その瞬間だった。髪の毛の束が再び鋭く床を叩きつけ、まるで重機のように床を突き破った。大きな音を立てて床に穴が開き、その衝撃で俺たちはバランスを崩した。


「うわっ!」


俺と先輩は足元が崩れるのを感じた。気づけば、床が一瞬で崩れ落ち、下の階が見えるほどの大きな穴が開いていた。


「フェイ先輩、気をつけ――!」


だが、声が届く前に俺たちはその穴に引き込まれるように落ちていった。


 


ユウマたちが床の穴から落ちていくのを追いかけようとしたホッパーとリエル


「ユウマー!フェイー!大丈夫ルー!?」


土煙でなにも見えないが必死に呼びかけるホッパー  


「ミラ相手にぼくちん達でやるしかないアルね…」


リエルは地面を強く蹴り、一気に前に飛び出す。ミラの髪の毛がまるで生き物のように蠢きながら再び襲いかかるが、リエルは俊敏な動きでそれをすべてかわし、次々に髪の攻撃を光の魔法ではじき返していく。


「ナイスルー!」


その一瞬の隙をついて、ホッパーは一気にミラに接近し、鋭い拳を繰り出す。しかし、ミラの髪の毛は再び反応し、ホッパーの拳を目の前で受け止めるように絡みつく。一瞬、動きを封じられたが、すぐに力強くその束を引きちぎった。


「まだまだルー!」



「いてて..あれ?俺生きてる?」


穴から落ちたはずなのに少し痛む程度で身体には殆どキズがない..


俺は不思議に思っていると床の感覚がなんだか柔らかい例えるなら布団のような..


「もしかしてこの下ってリネン室?でもなんだかおかしいな..周りが真っ暗でそれにさっきからひらひらと耳に布が当たるし顔に柔らかくムニムニした物体が乗ってる気がする..」


「い、いや♡」


「!?、この声はフェイ先輩!?どこです!?」


「ここや!」


「すみません、俺なんにも見えなくてそれになんか顔に乗っかってる気もーー」


「だから乗ってるのはうち!あんまり動かんといて!!」


なんだと...?俺の上にフェイ先輩が?どういうことだ?もしかして穴に落ちたとき俺が先に落ちてそれに続くようにフェイ先輩が落ちたから..ということは俺の目の前に見えない物体の正体はフェイ先輩のお尻!?


山積みになったシーツや掛布のお陰で俺達は下にほぼ落ちることはなかったようだ


ということは俺の解釈が正しければフェイ先輩は今上半身だけは3階にいて下半身は下の階にいてるということになるのか..


埃や煙を吸ったのだろうゲホゲホと咳込みをするとフェイ先輩は再び大きな声で話しだした


「ひぃ!!ミラが!こっちにゆっくり歩いてきてる!ホッパー!リエル!はよなんとかしてー!」


「いま戦ってるけど!結構強くて..ルー..!」


「ホッパー!離せ離せアル!」


なんにも見えないがホッパーとリエルが捕まってしまったのは聞き取れた


この状況は非常にまずい..


「せ、先輩」


「なんや!?」


「なにか魔法とか使えないんですか!?」


「使えるけど..うちの光魔法はあんまり強ない」


どうしようどうしよう..


絶体絶命の状況なんとかしないと....っあ


「先輩!」


「なな、なんや!?なんか解決策見つかったん?早しやなドンドンミラが近づいてくる!」


「契約しましょう!」


「こんなときに何言うてんねん!それにユウマもうジュリアと契約してるやないかい!」


「出来るかもしれません!これしか方法はないです!ヤるしかないです!ヤりましょう!」


「わわわ、わかった!でも優しくシてな..うち初めてやから...」


俺は集中して契約の呪文を唱える、この危機的状況を脱出するために....


[おまけ]


ズドーン!床が抜ける音がする


「やっぱりなにかいるな.. うわーん!我お化けとか無理なのにぃぃ」


「しっかりするコン、ただ不良の生徒が暴れてるだけコン」


「そうですわ、ではわたくしが魔王様の気持ちを安らげるために最高の歌をプレゼントして..」


「いや、それは大丈夫だ不良の生徒と分かればなんにも怖くないわ!グハハハ!」


「「なんでやねん..」」


次回![第五十話、Eれるなら優しくね]                                       

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フツメンofウィザード うらめしのヨ〆 @UramesinoYome

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