◇第6話

 オークジェネラルがいるのは廃村一番の大きな建物の中だった。恐らく村の中で一番の権力者が住んでいたのだろう。もしくは村へ訪れた人達を饗すための建物だった可能性もあるか。


 どちらでもいい、俺にはどうでもいい話だ。

 中にはオークジェネラルがいる。それと微かな魔力反応が見られるが……感覚的に死んだばかりの人間と考えていいだろう。数としては八体……なるほど、商人はアーサナに嘘を教えていたか。


 少しばかりキナ臭くなってきたが……。




「……待っている余裕も無いか」


 アーサナは強いが明確な弱点がある。

 それは魔法に対して極端な長所を持つ代償として運動面では極端な短所を持つ。特にオークジェネラルは魔法面での耐性を持つような存在だ。躱す余裕がアーサナにあるかと聞かれれば難しいと答えざるを得ないだろう。


 つまり、戦うのは俺の方が良いんだ。

 キナ臭い部分はアーサナに任せてしまえばどうにでもなるだろう。だったら……アーサナと二人で進むよりは俺が先にオークジェネラルを倒してしまった方が早く済む。最悪は後から来たアーサナを守りながら戦えば良いわけだし……気にする方が面倒な事になるか。


 幾つかの装備を作り出して空間にしまう。

 準備としては上々、魔力回復ポーションを飲み干してから柄に手をかけて静かに進む。風魔法で音を消したうえで闇魔法で気配を消している。これで探知出来るのはアーサナのように人から数段上にいるような人外だけだ。


 いや、その点で言えばオークジェネラルは人ならざるものだから人外か。……ただ、あまり言いたくは無いけど二回だけ倒した事があるんだよ。そのうえで言わせてもらうがオークジェネラルは別に強くない。


「さて、顔も見えないが死んでもらうぞ」

「ナッ……!」


 なるほど、オークのメスが二体もいるのか。

 どちらもオークジェネラルの苗床となっているようだが本当に珍しいな。オークのメスなんて千体に一体程度でしか現れないはずだ。偶然とはいえ二体も現れたのなら……総数の割にオークナイトが多いのも納得出来る。


「フン……キカヌワ」

「人語を話すか。豚の分際で」

「ヒトゴトキガサワグナ」


 やはり、アサルトライフルは効かないか。

 まぁ、コロニーを作ったオークジェネラル相手に効くとは最初から思っていない。倒せればいい程度の願望で撃っただけだ。それに一番は奥にいるオークのメスを殺す事が目的だったからな。


「ブルゥッ! シネッ!」

「レイザーシールド」


 これは俺が作り出した新型武器だ。

 地面に当てれば全ての攻撃を抑える光の盾を展開させる白い玉、展開した後の防御性能は例え戦車が放つ弾丸だろうと軽く抑え込んでくれる……だろう。まぁ、オークジェネラルの突撃程度なら軽く耐え切ってくれるから問題は無い。


延縄ハエナワ

「グルゥッ! キカヌワッ!」

「知っている」


 糸魔法で雁字搦めにしたが無駄か。

 でも、その数秒間の視線の流れが俺には欲しかった。二秒もあれば居合の構えは取れるし、間合いに関してはオークジェネラルが勝手に入ってきてくれる。そこから放つのは……俺が新しく得ようとしている境地だ。


「抜刀・剛の型」


 剛剣と刀の型を混ぜ込んだ一撃。

 この一撃を終えれば少し大きめの隙を晒す事になるが外れない状態なら問題は無い。代償を払う代わりに威力に関しては折り紙付きだろう。少なくとも今まで戦ったオークジェネラル相手なら簡単に胴体を真っ二つにしていた……というのに!


「チッ……!」

「サガルカ! ニンゲンフゼイガッ!」


 刃が腹の半分までで止まってしまった。

 咄嗟に刀を消して大きく後ろへ飛んだおかげで反撃に関しては受けずに済んだ。とはいえ、今の一撃で殺し切れないとは……とんだ誤算だな。馬鹿にしていたつもりは無いが俺の想定していたよりは弱くなかったらしい。


 それでも二度目なんてありはしない。

 怒りから愚直に進んでくれたおかげで糸魔法と罠にかかってくれた。だというのに、余裕そうな表情を見せているのは簡単に切れると考えての事だろう。でも、二度も同じ手を使う程の脳ミソは持ち合わせていない。


 先程は単純な拘束としての糸を使った。

 今回は蜘蛛のように粘着力のある糸を中に混ぜ込んでいる。ただ力任せに引っ張ったところで切れたりはしない。切るには少しばかりコツのいる糸を使ってやったんだ。


「足を止めたな、豚が」

「ク、ソガッ!」

「居合……チッ!」


 土の壁で前を阻まれてしまった。

 このまま振ったところで……いや、待て。この土魔法は誰が使ったんだ。俺の魔力網の中に魔法を扱える存在はいなかったはず……違うな、そこら辺を解決する存在が確かにいた。見落としていた訳では無かったというのに、いや、最悪は気が付かなければ良かったのに……俺は本当に甘いな。


「ウゥゥゥア……」


 神官のような薄く白い衣を身に纏った存在。

 だというのに、その肌は青紫色で明確に死んでいるのだと理解出来てしまう。そうだ、この子は殺されてしまった冒険者の一人なのだろう。なるほど、魔法を使える存在だったのか……運動面が苦手そうな存在を残したという事は……。




「クソ野郎が……!」


 それなら他の七名も同じ状態のはずだ。

 殺されたまま放置された遺体は屍人と呼ばれるゾンビへと変化してしまう。特にオークジェネラルのような魔物に殺されたとなれば無念から簡単にゾンビになる。魂も囚われたままになってしまうからさぞや苦しいだろう。このまま……!




「くっ……! ハァハァハァ……!」


 駄目だ! 殺せない! 刀を振るいきれない!

 分かっていた……これだけが怖かったんだ。転生してから何度も機会を与えられたが俺には人を殺せなかった。今だって……本当は喉奥から溢れ出しそうな感情をどうにか我慢している。少しでも気を抜けば……チッ!


「フンッ!」

「ガッ……!」

「アマイナ、コゾウ」


 体が宙に浮いたが下がる事はできた。

 風魔法で無理やり下がりはしたが……やはり直撃は免れられないか。蹴り上げられただけとはいえ……やはり、ダメージは小さくは無い。意識はしっかりとしているし、戦闘も継続させられるが……九対一はさすがに難しいか。


「ウゥ……アアァァァッ!」

「……チッ!」









「アクトよ、随分と酷い状態になっているのぅ」


 その声と共に目の前に白い壁が現れた。

 その壁に阻まれて突撃してきたオークジェネラルは弾かれ、屍人達も後退を始める。予想通りというべきか、屍人の数は八体だった。これなら片方をアーサナに任せればどうとでもなる。


「まぁ、良い。さっさと殺してしまえば」

「ま、待て! 待ってくれ!」

「な……! アクト! グッ……!」


 魔法の矛先が屍人を含めていただけ。

 それを見て咄嗟にアーサナの手を抑えてしまった。そう、抑えてしまったんだ。魔法を扱おうとする者にやってはいけない一番の行動を取ってしまった。広大な魔力を利用しての魔法はイメージ一つで効力が大きく変化する。そのイメージや過程に違いがあれば……それは不発に終わってしまう。


「アーサナ……アーサナ……あ、ああ……!」

「だ、大丈夫じゃ……この程度なら問題等無い!」


 嘘なのは……分かっている。

 オークジェネラルに蹴り上げられてしまったんだ。近接戦が極端に苦手なアーサナにとっては軽いダメージでは済まないだろう。ここでするべき事はなんだ。彼女に戦いを任せる事、彼女と共に戦う事……そのどちらでも無い。


「人形操作!」


 オークナイトを依代として向かわせる。

 コイツに関してはオークとは比べ物にならない程の強さを誇るはずだ。最悪は最初に作ったオーク達も向かわせてやればいい。逃げ道さえ間違えなければ銃弾なんて幾らでもある。


「お前達は縛られていろ!」


 やはり……屍人に攻撃はできていない。

 それでも逃げるだけならオークジェネラルさえ抑えればいいだけだ。屍人と足なんて高が知れているし、問題はアーサナを回復させれば全て終わる話だからな。


「ごめん、アーサナ! 下がるぞ!」


 少し乱雑にアーサナを背負って入口へ走る。

 不思議と軽く感じたアーサナからは消え入りそうな呼吸音だけが聞こえてきた。やはり、彼女は辛いのを我慢していたのだろう。転生してから訓練に時間を割いていたとはいえ、それは何かに特化したものだ。


 毒の耐性なんて……後回しだったからな。

 屍人という存在は俺がどうにか出来ないだけでアーサナが魔法を使えば一瞬で狩れる相手だ。今だって俺が邪魔さえしなければオークジェネラル以外は軽く倒せていた。……そう、全て俺が邪魔をしてしまったせいで……!


「ごめん……! ごめん! ごめん!」

「アク、ト……」

「絶対に助けるから! 少しだけ我慢してくれ!」


 下手な人心は味方の邪魔をする。

 知っていた、分かっていたはずなのに……俺は変われずに大切に思えてきていた存在を傷付けてしまった。俺の考えと違っていたというワガママのためにアーサナの行動を否定してしまったんだ。


「俺は……君の使徒失格だ……!」


 オークナイトの人形が今、死んだ。

 本当ならばこの人形だってアーサナの目的のために使える手駒だったのに……無駄にその依代を殺してしまった。今からアーサナが殺したオークナイトやオークの人形を向かわせる……でも、時間稼ぎにしかならないだろう。

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破滅主義者の宗教国家建国日記〜貴方も一緒にこの最高最悪な駄女神を信仰してみませんか?〜 張田ハリル@伏線を撒きたいだけのオッサン @huury

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