◇第5話

「剛剣」


 魔力を込めた一撃、ただの刀の一振ではなく衝撃波すら斬撃へと変化させる攻撃だ。元の剣術はそれなりに理解しているとはいえ、異世界のスキルを混ぜ込んだ剣術は未熟だからな。それこそ、同じ剛剣であっても日本と異世界では意味が違う。


 使ってみたが……やはり、まだまだか。

 威力こそ、転がる四体を切り刻む事は出来たが斬撃が疎らな状態。アーサナが言う魔力操作が十全に行えていたのなら全ての敵に等しい斬撃を与えられただろう。というか、それだけ上手く扱えなければ剣の道は遠いままだからな。


 いや、それを測るために使ったんだ。

 昔は剣の道なんて先が知れていると思っていたのに……他の要素が加わると別だな。敵のステータスに合わせて振った一撃でさえも、こうやって四体のオークを殺せているのが良い例だ。


 まぁ……基礎があるから先が見えるのだろう。

 この程度の敵に合わせて戦ったところで技術の差を見せ付けるだけ……成長に繋がらないのなら意味が無い。もっと言うと反対側で同時に攻めているアーサナに見せ付けるには十分だろう。


「久し振りに実践練習だ。……撃ち抜け、ファイアーバレット」


 三十程度の炎の弾丸をオークに撃ち込む。

 はぁ……これでもまだアーサナに届きはしないからな。本当に俺には魔法の才能というものが無いらしい。人よりも優れられるのはチート能力を貰っている以上、当然の事だ。だが、優れているを越えられていない時点で俺の才能は高が知れている。


「さて、これ以上は先に行ったアイツが俺を待っている事だからな。さっさと、お前達には退場してもらおうか。待たせ過ぎるとまたグダグダと面倒な小言を囁かれ続けてしまう」


 それも脳内で永遠と小言が続くんだ。

 それだけなら寝るとかで対処ができるというのにタチの悪い事に、あのクソ女神は俺が他の人の対応をしている時とかに狙ってやってくる。場合によっては脳内にコラ画像とか変なものを見せてきたりとかもするから本当に手の付けようが無い。


「さっさと死にな。人形操作マリオネット・ダンシング


 人形創造によって残ったオークを操作する。

 ただ、今回の場合は捕まえて動けないようにさせるだけだ。本来の真価はもっと別のところにあるのだが見せる理由も無いだろう。動けないと分かっていれば後は刀を振るうだけでいい。


 ただ一直線上に歩いて左右にいる首を取る。

 最初からこうすれば……とは、さすがに今の俺には難しい案件だ。ここら辺は戦闘の最中に敵に楔を撃つ事で操作を可能にしている。草むらから潜んでだとか、時間をかければどうにかなる攻撃では無い。ってか、時間をかけたらアーサナに何を言われるか……はぁ。


「所詮は遊戯……でも、神には理解できないんだろうな。どこまでいってもアーサナからすれば不合理なものでしかない」


 まぁ、そこも含めて面白いけどな。

 どこか自分とは次元の違う考えを持つ存在、だというのに、男子高校生のような馬鹿さ加減と女子高校生のような狡賢さを持ち合わせている。使徒になって何度も面倒だと思う事はあっても不条理を感じる事は無かった。


 だから、俺は……今日も生きているんだ。

 あの時は人の気持ちも考えられない駄女神を通り越したクソ女神だと思ったが……存外、彼女は人よりもしっかりとした考えを持つ優しい人だよ。そんな事をアイツに言えばどんな事をされるか分かったものじゃないから言わないけど。


「さて、贄は揃ったな。アーサナの方は……まぁ、魔物の数も多いし時間がかかりそうか」


 それならさっさと先に進むとしよう。

 実際、面倒ではあるがオークジェネラルの強さがどれ程のものなのかは気になっている。どうせ、アーサナが来れば大魔法の一撃で簡単に殺してしまうからな。そうなる前に実力を測っておくのも悪くは無いだろう。


「人形創造、人形之願マリオネット・フューチャリング。……あっちに俺の仲間がいる。精々、邪魔にならないように助けてやってくれ。他は先行して周囲のオークの討伐だ。では、行け」


 十三体のオークの遺体を依代に人形を作る。

 本音を言えば依代なんて必要無いが、有るのと無いのとでは性能に大きな差が出てしまう。特に命令の細さは依代を作った方が楽だからな。まぁ、時間をかければ依代無しでも良い人形は作れるけど……今は余裕なんて無い。


 五体はアーサナの援軍に送っておいた。

 全てを俺好みの剣士風の男に変えたし、俺の事をよく知っているアーサナなら殺しはしない。他の八体はオークジェネラルのいる家以外のオークの殲滅を任せている。これでオークジェネラルとの戦闘で問題が起こる事は無いだろう。


 さてと、さっさと先へ進むとしようか。

 雑魚を人形達が担ってくれている今のうちに倒すべき存在は倒しておかないとな。特にオークナイトは早めに倒しておいて損は無いだろう。現にアーサナを脅威と看做してか、ナイトを三体も送ってくれた。


 このまま進んだとしても俺が対応する必要があるのは二体だけ……仮にオークジェネラルと戦う事になっても余力を残した状態で戦闘へ持ち込めるだろう。それに早めに二体を倒しておかないとアーサナの負担が増える可能性もあるからな。


 どのような世界においても一人の類稀なる存在よりも量が勝ってしまう。アーサナの実力が未だに魔法ありきのものとなれば尚の事だ。どんな理由があれども彼女の使徒となった今では失ってはいけない存在と考えた方がいい。


 いや……この世界に至っては逆なのかもな。

 こうして平凡な俺がオークという量を頼りにした存在を軽くいなしている。日本にいた時の俺なら当然の事だけれど、十数人もの敵を相手になんて出来はしなかった。


「ブルゥァッ!」

「そんなに怒らないでくれよ。俺だって生き物を殺す事は忍びないんだ。それでも俺の上司が倒せと命じるのなら無視する事は出来ない」


 遊んでやれる程の余裕は持っていない。

 だから、さっさと狩って先へと進んでおかないといけないな。オークナイトが二体とオークが五体だけなら……下手に時間をかけてしまえばアーサナに追いつかれてしまう。


「悪いが雑魚には退場願おう」


 二つのアサルトライフルを創造する。

 両手で横向きに構えたままでストック部分を両肩に当てて準備は万端だ。引き金を引いて全面に立つオーク達に銃弾の雨を放ち続ける。地球にいた頃なら確実に反動で体が死ぬ方法だが今なら特に問題は無い。むしろ、この程度で体が壊れていたら魔物となんて戦えないだろう。


「すまないな。だが、本番はここからだ」


 オークを撃ち殺したと同時に銃を消す。

 新しく刀を作り出した後に片方へと距離を詰めて居合と共に左袈裟斬りに振るう。咄嗟にボロボロの鉄の盾でガードの体制を取ってきたが武器の質が違い過ぎる。それにオークナイトと俺ならステータス的にも俺の方が有利だからな。


「ブモゥッ!」


 驚きの声をあげてしまうのも理解出来る。

 何度、やっても慣れる事の無い非現実的な結果だからな。アサルトライフルを鉄の盾だけで防ぎ切れるような現実も、今のような技の鍛錬一つで全てを捩じ伏せられるような事実も……地球出身の俺には慣れられそうにない。


 とはいえ、甘えるだけにもしないが。

 どこを切れば良いか、どのように振れば良いか、間合い管理はどうするのか……全てを日本にいた時に学んできた。その学んだ事をより昇華させるために戦う必要があるんだよ。


「剛剣」


 スキルというものがあるんだ。

 それがあれば俺が諦めてしまった世界をもう一度だけ見れる気がする。この世界にある全てを利用して望みが叶えられるのなら、アーサナが口にする結果を手に入れられるのなら多少のワガママは許してやらないといけない。


「来い。一撃で沈めてやろう」

「ブルッ!」


 走って距離を詰めてくる中で刀を振る。

 技術の技の字も無いような力任せの振りだというのに簡単に首を落とせてしまった。これだって普通じゃないというのに……なら、技術もスキルも混ざってしまえばどうなってしまう。


 オーク達の遺体を空間魔法で回収しておく。

 アーサナもまだ手間取っているようだし、さっさと倒してワガママに巻き込まれないようにしてやるか。別に今日中に済ませようとしていた案件では無かったけど、済ませておいて問題が起こる事でも無いだろう。

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