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*
受験戦線に復帰する、とアネゴは勇ましく宣言した。結婚のことなどおくびにも出さないけれど、唇の端は一日中上がりっぱなしだ。全身から幸せオーラが噴き出ている。ほのかに
一方こちら側──
雪ちゃんとは受験が終わるまで逢わないことにした。
アネゴたちに
頭がからっぽの、真っ白な光に包まれた時間。せせこましい精神を蹴り出して、若いカラダ同士が目的を遂げようとした。
街路樹の影は移動して、いつの間にか陽射しの下に居た。我に返って躰を離したとき、汗にまみれた二人のシャツは水を浴びたように濡れていた。下着が透けて見えた。
そら恐ろしい──ボクらは同じことを思った。
この時期に、愛欲の沼に引きずり込まれる……
受験が済むまで逢わないことにしよう――雪ちゃんの提案に、ボクは抵抗なく頷いた。
残り半年。がんばれ。こんな縛りがある方が、すっぱりあきらめがつく。
その代わり、春がやって来たら、めちゃくちゃ抱きしめてやる!
──そして春は巡って来た。
これまでの春の中で、ひときわの輝きを放つ春が。
仲間たちは希望した大学に合格した。
辰則は早くも上京し、入学式前から野球部の練習に参加している。
アネゴは地元大の医学部看護学科に進む。ラブラブの舞島さんとは遠距離にならずに済む。
ボクと雪ちゃんは京都へ行く。学校は違うけど遠くない距離だ。
卒業式の前日、隣市の駅で雪ちゃんと待ち合わせた。先に所用を済ませた彼女がボクを待つ。
逢わない約束は本日をもって終了。顔を見るのはひと月ぶりだ。
澄んだ青空が拡がる。マクドの建物が見える。
あの前で乱闘したなんてウソみたいだ。
駅の出口。雪ちゃんは丸柱の前に立っていた。
淡いモスピンクのブレザーにダークネイビーのスカート。ちょっと大人っぽい。
「雪ちゃん!」ボクは手を挙げる。
近づくと、彼女は逆光の中でうつむいた。「太っちゃった」
「脳にブドウ糖あげたしね。でも、おかげで合格できたんだし」
「失望されるかも」そっと顔を上げる。
去年の冬、ボクが告白した時の雪ちゃんが、ふっくらとそこに居た。顎はやさしいプチ二重だ。
「帰って来たんだ。雪ちゃん、おかえり」
「うん。ただいま」
「オレ、剣道部は一年で辞めたけど、練習がきついとかじゃないんだ。合わない先輩が居て」
「うん」
「大学へ行ったら、総合格闘技の道場へ通う」
「ええー! 武闘派って似合わない」
「人は変われるんだ。強くないと
「……ありがとう。光治くん、大好き」
雪ちゃんのやわらかな躰が、むにゅっとボクを抱きしめた。
おしまい
雪ちゃんの、変~身っ! 安西一夜 @nohninbashi
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