第27話 報告

村の出入り口には北門、南門、東門、西門と四つの門がある。

 俺たちは東門を通って中に入る。

 東門を通ってすぐのところ、そこにキロスの家がある。

 他の家に比べて一際大きく目立っているためすぐに分かった。


 魔道具のインターホンが先の襲撃で壊れているため玄関の扉をノックする。

 すると、中から、ドタドタと物が倒れる音が聞こえる。

 キロスってばしっかりしているように見えて意外にドジなんだな。

 物音が収まりしばらくすると扉が開いた。

 

「どなたですか?」


 扉の先には、慌てていたのか息を切らしたキロスが立っていた。


『よお』

「アスト様⁉︎ 出発してからまだ五日ですよ!もうお帰りになったのですか⁉︎」


 キロスは俺たちがあまりに早く帰ってきたことに驚いている様子だ。


『緊急事態でな。急いで帰ってきたんだ。』


 俺たちの表情を見て何かをただ事ではないと思ったのか。

 

「……どうぞ入ってください。中で詳しい話を。」

 

 

 キロスは家に入るよう俺たちに促した。

 家の中は温かみのある木のインテリアで統一されていてとても安心するような空間になっている。

 俺たちは一階にあるリビングに案内された。

 リビングはとても広く、普段は村の会議でも使われているらしい。

 八人いても全然余裕だ。



「こちらにどうぞおかけください。」


 俺たちはキロスの机の対面にあるソファーに腰をかける。

 机には、キロスの持ってきた温かいコーヒーが置かれている。

 コーヒーは淹れたてで湯気が出ている。

 キロスは俺の隣に座っている二人に目をやる。

 その目は細められている。どうやら、少し警戒しているみたいだ。


「見知らぬ方達がいますがその方達は一体?」

『ああ、こいつらはラキとスカーレット。まあ、俺たちの仲間みたいなものだ。』

「おや、そうなんですか。」

 

 そう聞くと、先ほどまでの警戒していた目が和らいでいた。


『ラキは、魔道具師で、スカーレットは火龍なんだ。』

「お二人は魔道具師に火龍なんですかへぇ………ぇぇぇええええ! 火龍!」


 驚いたキロスはゴキブリのように後退りをする。火龍の名を聞いた途端キロスは顔から滝汗を流し、空いた口が塞がらなくなっていた。

 そして、後ろにいるものをスカーレットの方を指さした。


「それじゃあ、ひょっとしてさっきからスカーレットさんの背に乗っかっている後ろの小さいトカゲみたいな生き物はひょっとして……?」

 

 あ、気づいていたんだ。


「そう。火龍の赤ちゃん。」


 ばたん。

 最強生物の襲来にキロスは目を回し泡を吹いて倒れてしまった。




「先ほどはお見苦しい姿を見せました。」


 

 キロスは取り乱したのを誤魔化すように一度咳払いをして仕切り直した。



「…それで話とは一体なんですか?これを話すために急いで帰ってきたわけではないはずですが。」

『そうだな。』


 一瞬無言の時間が流れる。

 時間が経つにつれ、皆の表情は険しくなっていく。

 キロスも俺たちの様子を見て大変な状況だと理解したみたいで緊張した面持ちだ。

 コーヒーを一口で飲み、俺は沈黙を破った。


『一万を超える魔物の大軍勢がこの森に向かって侵攻してきている。』

「まさか!魔物大行軍スタンピードですか⁉︎」


 突然の凶報にキロスは大声をあげると同時に勢いよく椅子から立ち上がった。

 目は飛び出るほどひん剥かれており、額には脂汗が滲んでいる。

 その表情からもキロスがこの状況がいかに最悪かなのが伝わってくる。

 

「これは私たちだけでは、どう足掻いても太刀打ちできそうにありませんね。外部に協力を求めましょう。」

『その方がいい。一万の魔物だけでも厄介だが、それだけじゃないからな。』

「え?」

『魔物たちは操られている可能性が高い。おそらくその魔物を操っている奴は悪魔だと考えられる。』

「悪魔ですか⁉︎」


 キロスは俺からでた予想外の名前に寝耳に水といった表情だ。

 

「本当なんですか……?」

 


 キロスはとても信じられないといった様子だ。

 まあそれは当然だ。

 俺も何も知らない状態でそんな話を聞いたら普通信じられないと思うだろう。



『この情報はすべて俺が倒した悪魔から聞いた情報だから間違いはないと思う。』

「え!倒したんですか⁉︎ ……すみません。ちょっと情報が多すぎて。」


 一気に色々な情報が押し寄せて混乱しているみたいだな。

 キロスは、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 そして覚悟を決めたようにペンを取った。

 紙に何かを書き終えると自警団に指示を出し始めた。


「緊急事態だ。この書類を各族長に頼む。」

「「「「はっ!!!!」」」」


 指示を受けた四人の自警団員は封書を受け取ると、ジャイアントラビットに乗り、どこかへ行った。

 さっきの手紙に何が書いてあるかは分からないがおそらくこの森に住む他の獣人の長に渡すためのものだろう。

 悪魔の言っていたものの中で他の獣人たちの存在は真偽の不明なものだったがキロスの話でそれも正しかったことになる。

 


「この森には他にも獣人がいるんだな?」

「ご存知でしたか。アジャラの森には、我々兎人の他に獅子人、猫人、竜人、亀人の4つの獣人種族が住んでいます。5つの種族は同盟を結んでおり、非常時には互いに協力してことにあたるのです。今急いで、各村に早兎を出しました。これから、五種族会議を行いますのでアスト様もご同行お願いたします。」

『分かった。ラパンもついてきてくれるか。』

「はい。任せてください。アスト様の身の安全は私が必ず守ります。」

「何だか面白そうですし、私も一緒に行ってもいいですか?」

『俺は構わんが…。』


 目を横にスライドさせる。それに気づいたキロスが微笑んだ。


「それなら大丈夫ですよ。」

「私は残るわ。戦いに備えて、役にたつ魔道具を作らないと。」

『分かった。』

「決まったみたいですね。それじゃあ、ついてきてきてください。」

『どこに行くんだ?会議はここでやらないのか。』

「私が召集をかけたので本来ならこの村でやるのですが、村がこんな状態ですので、今回は、別の村でやることに……。」


 確かに。村は復興の真っ最中。この状況じゃ会議どころじゃないな。

 俺たちはキロスの後について外に出ると、目の前には大きなキャビンを後ろにつけたジャイアントラビットが待っていた。

 キャビンは馬の後ろについている数倍は大きい。

 驚きながらキャビンを見ると中に人が乗っているのが見える。

 ドアを開けて車内に入ると中にはそれはそれは上質な絹を纏った女子が鎮座していた。

 

 

 「アスト様も一度お会いしていますよね。」

 『ああ。兎神様の巫女だろ。』

 

 そういえば、兎神に憑依された状態のときに一度だけ会ったな。

 憑依が解けると逃げるように洞窟に戻って行ったから話したことは一回もないけど。


 「はい!今回は巫女のアンリ様にも同席していただきます。」

 「よろしくお願いします。」


 

 アンリは、小さく会釈をした。背筋はピンと真っ直ぐ伸びていて手先から足先まで一本の軸が通っており一才の乱れないその所作はあまりにも美しかった。

 なんだか、兎神が憑依していた時よりもよっぽど神っぽいな。

 そんなことを考えながら俺はアンリの正面に座った。

 続けて、キロスが俺の右隣に、左隣にスカーレットが座り、ラパンはアンリの隣に座った。

 御者が全員乗ったのを確認して、扉をしめる。

 そして御者が手綱を引っ張ると同時にジャイアントラビットは勢いよくかけだした。

 

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転生体は枝でした~枝に転生したおじさんひょんなことから兎人族の主になる~ 神手守 @Kamite

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