第26話 魔物大行軍
鉱山都市ラウラに別れを告げた俺たちはその後、森の入り口で待っていたジャイアントラビットと合流。
現在、火龍の背に乗り、アジャラの森上空を飛んでいる。
火龍によると村には、あと30分ほどで到着するらしい。
「えー!ラパンさんたちってあの絶滅したと言われている兎人だったんですか⁉︎……驚きました。」
「騙していてすまなかった。騒ぎになるのは面倒だったんで変装していたんだ。」
「気にしないでください。そんなことより、私を信頼して話してくれたことの方が嬉しいです。」
ラキが俺たちの本当の姿を知らなかったのをすっかり忘れていたため正体を明かした。
一緒に冒険して、ラキの人柄は仲間として十分信頼できると確信していたため、話すことに躊躇はなかった。
本当は、今日の夜泊る宿で話す予定だったのだが。
急遽蜻蛉返りで村に戻ることになってしまい、このままだと何も知らないラキが村の兎人みんなを見て、驚いて腰を抜かしかねないため村に着く前に見せることにした。
「ところで、アストのその姿は、教科書とかでも見たことないんだけど……魔物か何か?」
『違ぇよ!』
まあ、人間の魂をそこら辺の枝にぶち込んだキメラみたいなものだが…。
断じて魔物ではない!
まあ、俺の正体を強いていうなら兎人たちの主ってところかな?
『それより、ラキなんでついてきたんだ?俺たちの村は、これから戦いになる可能性がある危険な場所だ。お前は、街に残っていてもよかったんだぞ。』
「いやだ!みんなが危険な場所に行くのに私だけ安全なところにいるなんてできない。アストたちと知り合ってから私はいつも助けられてばかり、私だってみんなの役にたちたいんだ。だから、誰に帰れって言われても絶対に帰らないよ。」
本当は、女子供に危ないところにいて欲しくないんだが決意は堅そうだ。止められそうにない。
『分かったよ。その代わり危なくなったらすぐ逃げろよ。いいな。』
「うん! せっかくのスポンサーさんにこんなところで死んでもらったら困るからね。私の魔道具でみんなの戦いのサポートしてあげる。」
『はは、頼りにしているよ。』
そんなことを話しているうちに30分ほど経過していた。そろそろ村についてもいい頃だが……。
「あそこですか?」
火龍の視線の先を視ると小さな村が見える。
視線の先には大きな人参畑。壊れた建物がある。
その村は間違いなく俺たちの村だった。
『見えた。村だ!』
「よかった。村は無事だ。」
「ああ、魔物たちはまだ来ていないみたいだ。」
村に降りるため火龍がゆっくりと降下を開始する。
ビーン!
魔力感知が凄まじい数の反応をしている。
俺は火龍に降下のストップをかけた。
俺は感知の反応の示す方向に視線を配る。
すると、地平線の先に大量の何かが蠢いているのが見える。
あいつら真っ直ぐこっちに向かってきているな。
そう思い、世界図書館で調べてみると魔物の名前が次から次に溢れ出てきた。
ちっ!やっぱりあれ全部悪魔の操っている魔物か。
あいつめ。大勢の魔物が向かっているって言っていたがこれは、流石に多すぎるだろう。
「なんだあれは?」
「まさか、あれ全部魔物か?」
どうやら俺以外のやつも遠くに見える大軍勢に気づいたみたいだな。
「魔物大行軍スタンピードですか厄介ですね。」
火龍の一言でその場の空気が一瞬で張り詰めた。
さっきまで聞こえていた雑談の声は消え、今は誰かの唾の飲み込む音が聞こえてくるほど静かになっている。
全員が実際の軍勢を見たことで警戒心を強めたのだろう。
それはいいことだと思う。
だが、どんなに警戒して万全の準備をしようにもあの魔物の軍勢の詳細がわからないことには対応のしようがない。
そう思い俺は、魔物大行軍の陣容を知るため、片っ端から世界図書館で調べていった。
それにしてもハーピーにオーク、ホブゴブリンって随分とバラエティに富んでるなぁ。
なにっ!このヘビージェラルドン、サージタリスって俺と戦ったあの悪魔と同じくらい強いじゃねえか!
今回の攻撃は、兎人の村俺たちだけじゃなく、他の獣人の村も対象だということもあるだろうが魔物の種類、数、強さともに前回とレベルが違う。
奴さん今回の侵攻に相当気合い入れているみたいだな。
これだけ調べてもやはり、悪魔の名前はないか。
前回の黒熊の時といいこの悪魔は、随分と慎重らしいな。
すると、世界図書館の調べた中に、気になる文言が出てきた。
獅子人族 獣人の中でも一際大きな体格を持つ。その体は非常に頑丈で、どんな攻撃も跳ね返すと言われている。
獣人?
なぜ、魔物の大群の中に獣人がいるんだ?
気になったので、頭のノートにメモっておいた。
だがひとまずそれを考えるのはひとまず後だ。
俺はこの場でみんなに即座に指示をできる程、軍略に明るくない。
まずはこういうのに詳しそうなキロスに相談してからにしよう。
『もういい。火龍、降りてくれ。』
火龍はゆっくりと降下し始め、木をできるだけ倒さないような場所に着地した。
そして俺が龍から降りようとしたその時。
「なぜ龍がここに? 一体何をしにきた!」
何者かの声が聞こえた。
何事かと思い、俺は火龍の背から覗き込むと、火龍の周りを自警団の面々が囲んでいるのが見えた。
自警団は龍に対する畏怖が見え隠れしていたが、村を守るため臨戦体制をとっていた。
『お前ら……。』
どんなに恐ろしい相手にも仲間を守るために臆さず、戦う姿勢に俺が感動していると、
「あの、今にも飛びかかってきそうな勢いなので、この状況なんとかしてくださいませんか?」
『わかった!』
火龍なら自警団に攻撃されても手加減して安全に無力化してくれると思うが、もしかすると、怪我人が出るかもしれない。
大量の魔物たちと、戦うために今は一人でも多くの戦う者が必要だ。
早く止めないと。
『ストーップ!』
俺は火龍から飛び降り、自警団の前にたった。
「アスト様⁉︎」
『こいつは俺たちの仲間だ。暴れたりはしないから安心してくれ。』
「……そうですか。分かりました。」
そういうと臨戦体制だった自警団は火龍に対する警戒を解いた。
包囲が解けると、火龍の背に乗っていたみんなが続々と降りてくる。
村に着いてゆっくりしたいところだが、時間がない。
俺たちは情報を伝えるためにキロスの家へと向かった。
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