第25話 合流
『無事か!』
「ええ。なんとか。」
「キャオ」
爆風に巻き込まれ、俺たちは数メートルの距離を吹っ飛ばされた。
あの強烈な爆発だ。多少の怪我は覚悟したが幸い俺の身体は傷ひとつない健康体そのものだった。
そして火龍にも赤ちゃんにもどうやら怪我はないようだった。
「急に爆発したのには驚きました……。まさか、自爆するとは。」
『いや、あの表情からして自分の意思で自爆したとは考えにくい。おそらく、作戦内容を他人に漏らしたのを何処かで聞いていた悪魔あいつの仲間によって口封じされた。』
「仲間を殺すとは、酷いですね。」
拷問されていたあの状況で、嘘を吐くとは思わなかったが俺を動揺させるため、もしもの可能性があった。
だが悪魔が口封じに殺されたことで、あの発言の真実味が増した。
あの発言は正しいと思ってまず間違い無いだろう。
悪魔の口ぶりから察するに魔物がアジャラの森に到着するのにそう時間は掛からない。
時間を多く見積もったとしても残り1日で大量の魔物によって兎人族の村を含めた獣人たちの住むアジャラの森が襲撃を受ける。
しかも、俺たちは襲撃を予想していなかったため。村を守る自警団の主力は、隊長のラパンを含め半分以上がこっちにいる。襲撃されたら全滅もあり得る。それだけはなんとしても阻止しなければ。
現状、この情報を知っているのは俺だけだ。
魔物たちが来る前に 村人たちみんなに知らせて対応策を考えるためにもすぐに戻らないといけないが、ここから、兎人族の村まで休みを入れずノンストップでジャイアントラビットで移動してもどう頑張っても三日はかかってしまう……!
間に合わない!
このままじゃ、村が!くそ!どうする……。
俺はどうすれば、襲撃にくる魔物たちよりも早く村に戻れるのか必死に考える。
「私の背に乗ってください。私なら、1時間も掛からずにアジャラの森を抜けられます。」
確かにそれが本当なら、火龍の背に乗り移動すれば1時間未満で村に辿り着くことができる。
しかし、さっきは、利害が一致していたから協力していたが、これ以上協力してもらうのは迷惑になるんじゃないか?
そんなことを考えていると、火龍に胸ぐらを掴まれ木にもたれかかった。
「何を躊躇しているんですか!現状、この方法しか魔物が来る前に村に帰る方法はない。違いますか?」
『確かに、その方法以外で、魔物の襲撃より早く村に着く方法はないが、……しかし。』
「だったら、躊躇する必要がどこにありますか?仲間の命がかかっているんでしょう?」
……確かに火龍の言う通りだ。
仲間の命がかかっているんだ。
なりふり構っている時ではないな。
『お前に協力してもらえるなら俺としては非常に助かるがいいのか?』
「ええ。もちろん。……それに迷惑になるというは違います。あなたは私とこの子を助けてくれました。その恩返しがしたいだけですよ。」
『ったく、それ言ったらスキルをもらったり、命を助けられたり一体俺は、お前に何回恩返しすればいいんだよ。』
くくく。さすがは五龍のうちの一体。
強さだけじゃなく器の大きさでも完敗だなこりゃ。
まあ、みんなを助けられるならそんなことは、大したことじゃないか。
そんじゃあ、とっととラパンたちと合流して、村に帰らないとな。
俺は、思念伝達で、ラパンに呼び掛ける。
ダンジョンからは、かなり離れてるし、繋がると、いいが。
『ラパン聞こえるか?アストだ。返事をしてくれ。』
「アスト様!」
おっ!どうやら繋がったみたいだ!
「よかった。無事だったのですね。」
『ああ。』
「アスト様がダンジョンで消えてからずっと探していたんですよ。一体どこに行っていたんですか⁉︎」
『まぁ、色々あったんだよ。それで、お前たちは今どこにいるんだ?』
「今ちょうどダンジョンを出た所ですけど…。」
『わかった。今からそっちに向かう。そこで合流しよう。』
「はい。」
ラパンとの通話を終えると、すぐに火龍に確認を取る。
『他に連れが数人いるんだが一緒に乗せてもらっても大丈夫か?』
「ええ。構いませんよ。」
確認を終えると、二人ともすぐに体を浮かせる。
俺たちは空を飛んでダンジョンへと向かった。
戦う前に比べてだいぶ、上手く飛べるようになったな。
などと考えながら、ふわふわと飛んでいると、遠くの方にダンジョンが見えた。
近くまで行くと、ラパンたちの姿が見えたので声をかける。
『おーいみんな!』
「アスト様⁉︎」
「嘘!」
ラパンたちは空から降りて来た俺たちを見て目をぱちくりさせている。
とても、びっくりした様子だ。
「アスト様今空を飛んで……。」
『ああ。飛べるようになったんだ。ついさっきな。』
「それに、その隣の方は一体誰ですか?」
『コイツは、火龍で後ろにいるのがその赤ん坊だ。』
「「「「火龍!」」」
火龍の名前が出たことに皆は驚いた様子で口をあんぐりさせている。
だが、後ろにいる火龍の赤ん坊を見て俺の言っていることが事実だと、認識したみたいだ。
「ちょっと!火龍、火龍って私には、スカーレットという名前があるんですから。それにこの子にもちゃんとクリムって名前があるんですから。ちゃんと、紹介してください。」
『いや、今初めて名前を聞いたのにそんなこと言われてもな…。』
「あれ?言ってませんでしたか?。……確かにそういえば、私もあなたの名前、知らないですね。」
『あれ?言ってなかったか?…俺はアストだ。』
どれだけお互いのことを知らねえんだというツッコミがどこからともなく聞こえてきそうだが今はそんなこと言っている場合じゃない。
みんなに話さないといけないことがある。
俺は、別れてからの出来事を皆に伝えた。
「……悪魔ですか。」
「しかも、私たちの村が黒熊に襲われたのも全てそいつらによって引き起こされたものだったなんて……。」
話を聞いた者たちはその内容に驚きを隠せずにいた。
そして再び、自分たちの村が襲われると知り、皆の心に不安や心配が渦巻いていた。
「そんなのに俺たち勝てるのか?」
誰かが呟いたその一言で、皆の中で不安が膨れ上がり、騒ぎが大きくなっていった。
(まずいな。このままだと収拾がつかなくなるぞ。)
「お前たち、いい加減にしろ!」
ラパンにピシャリと言われ、騒いでいたものたち全員が黙りこんだ。
「確かにアスト様の話には私も驚いた。しかし今、一番重要なのは悪魔たちがまた、私たちの村を襲おうとしていることだ。こうしている間にも、大量の魔物が村に向かって侵攻している。私たちは今すぐにでも村に戻り、この情報を村長たちにも伝え、対策を立てなければならない。こんなところで話している暇はないはずだ。違うか!」
「確かに、こんなところで話している場合じゃないな。」
「そうだ。俺たち自警団が村を守らないと。」
兎人たちはラパンの演説を聞いて、ついさっきまでの空気から一転。表情はやる気に満ち溢れて皆、血気盛んになっていた。
みんなの士気も高まったことだし、そろそろ出発するか。
『それじゃあ、スカーレット頼む!』
「わかりました。」
スカーレットは変身を解除して元の姿に戻った。
「その姿は、魔力を消耗するから、アストも、元の姿に戻った方がいい。」
『そうか?』
確かに、魔力がかなり減っていた。どうやら、龍化はかなりの力を手に入れられるが、その反面、燃費が非常に悪いらしい。
スカーレットの助言に従い、龍化を解除して、元の姿に戻り魔力を温存することにした。
『これから村に向かう。順番に火龍の背中に乗ってくれ。」
「大きい……。」
スカーレットのあまりの大きさに一同は騒然としていた。
ダンジョンの前の兵も騒がしくなってきている。急がないと。
みんなは驚きながらも俺の指示で次々に火龍の背に乗っていく。
そして、全員乗るのを確認した後俺はスカーレットに合図を出した。
「では行きます。」
合図を受け、スカーレットは勢いよく飛翔した。
その直後、俺は振り返って後ろを見た。すると、さっきまでいた鉱山都市ラウラは、一瞬で見えなくなっていた。
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