第24話 目論み

 俺は、近くの森に落下して気絶していた悪魔を身動きを取れないように植物の蔓で作ったロープで締め上げ、木に括りつけた。


「まさか、この私がこんなおかしな物体に負けるとは……。」

『全く失礼なやつだな……。まあいい。それよりとっととお前たちの計画について教えてくれ! 』

「断る!誰が貴様なんぞに言うか!!」


 悪魔は、ロープを解いて逃げようともがいている。

 だが、俺の作ったロープはどんな鋭利な刃物でも切れないナギリタの蔓を再構築した特別性逃げることなど出来はしない。

 だからこうやって尋問ができているのだが、悪魔が口を閉ざしていているためなかなか情報を引き出せずにいた。

 相手が口を割らない時は拷問をするのが効果的だと思うが俺のような初心者や下手なやつがやると、力加減を間違えて殺してしまったり逆に弱すぎて意味のないものになる可能性が高い。

 そういうのが得意なやつに任せるのが一番いいのだが……。

 どこかに適任者がいないだろうか?

 それにしても背中から出ているこの雲みたいなものは、いつになったら消えるんだ?


「悪魔を無事に捕えられたようですね。」


 俺は背中の方から声が聞こえた。

 火龍の声だ。

 さっきは危ないところを助けてもらったしここはひとつ。

 

『色々と助かった。ありがとう。』

 

 俺は、振り向き感謝の気持ちを込め深々と礼をする。


「いえ、私の方こそ助かりました。」

 

 俺はあ頭を上げて前を向く。するとそこにいたのは火龍ではなく代わりに腕と足に鱗、さらに肩から翼の生えた赤髪の女性がいた。


『……ってなんだその姿お前本当に火龍か⁉︎』

「はい。この森に着地するには私の体は大きすぎて森の木々を破壊してしまいますので少々小さくなるため人の姿を借りました。」

『へぇ〜』

 

 

 魔力で体を覆って体を大きく見せているだけの俺と違い体の大きさまで自由自在に変化できるのかと火龍の技術に感心していると、火龍の背中で何かが動いているが見えた。

 気になったので、身を乗り出して覗いてみる。

 すると、そこには小さな龍がいた。

 火龍の特徴でもある鮮やかな赤い鱗は生まれたばかりで表面がツヤツヤしていてさながら全身にルビーの宝石で彩られているように見えた。


「けぁお」

『かわいいーっ!』


 何この子。

 ルビーを宿したつぶらな瞳に、空を飛ぼうと頑張ってバタバタと動かしている小さな手足、消え入るような微かな鳴き声まで全てが可愛い。

 本当に可愛い。

 守りたいこの笑顔。

 俺がそう思いながら火龍を撫でていていると火龍は、俺の姿を見てニヤニヤした笑みをむけてきた。

 

 「そうですよね!この子ったら本当に可愛くてもう目に入れても痛くないんですよ。」


 

 龍のように優れた生物でも子供を愛する気持ちは同じってわけか。

 親バカ、いやそれ以上の超がつくほどの親バカだな。

 なんせ、子供の体に顔を擦りすぎて目が充血している。

 子供は目に入れても痛くないっていうけど本当に目に入れる奴を見たのは初めてだ……。

 まあ、確かに俺の前世の愛兎チャッピーには負けるがアニマルミシュラン星三つくらいには可愛いからな。

 


「何言ってるんですか!うちの子の方が可愛いに決まっています!」

『なに?』

 今聞き捨てならない言葉が聞こえた。火龍の赤ちゃんがうちのチャッピーちゃんより可愛いだと⁉︎

あり得ない。

 俺はわずかな沈黙の後、腹の底から沸々と湧いた怒りを込めて言い放つ。


『うちのチャッピーの方が可愛いに決まっている!』

「うちの子の方が可愛いです!」

『チャッピーの方が可愛い!』



 ぐぬぬ

 俺は鋭い眼光で、火龍を睨んだが火龍も負けじと睨み返してきた。 

 俺は当然一歩も引く気はないが火龍も一歩も引く気はないらしい。


『拉致が開かないな。こうなったら、どちらの可愛さが上か勝負しようじゃないか。』

「望むところです。」



 それから、30分の間、様々な勝負をしたが結局勝負がつくことは、なかった。

 だが、さっきまで喧嘩していたとは思えないほど、俺の心の中は波ひとつない湖のように穏やかだった。


『やるじゃないか。危なくあのつぶらな瞳に、やられるところだった。』

「まさか、異世界の兎がジャイアントラビットよりも10分の1の大きさでしたとは予想外でした。危なくキュン死にするところでしたよ。」


 ガシッ!

 俺たちは自然と握手を交わしていた。

 そこに蟠りはなく、二人の間には確かな友情ができていた。


「そういえば、悪魔たちの計画は何か分かったのですか?」


 火龍は悪魔に視線をやり、聞いてきた。


『あ!』

 

 可愛さ勝負に夢中で悪魔のことなんてすっかり忘れていた。


『実はな。』


 俺は、悪魔から情報を引き出せていないことを火龍に報告した。


『一切口を閉ざしていて話にならないんだ…。』

「だったら私に任してくれませんか?こういうの得意なんです」

『え?』


 火龍は笑っているように見えるがどこか張り付いたような笑顔で、背中にはどす黒い禍々しいものが見える。

 嫌な予感がする。そう思った俺の直感は、当たった。

 そこからの光景は、見るも無惨な悲劇だった。


「誰が……ゔがっ‥…っ………!」


 火龍の恐るべき尋問に悪魔も最初は口を閉ざしていたが、次第に呻き声が上がるようになり、最後には、人間の形をとどめていなかった。

 そうして観念した悪魔は、自分たちの計画について話し始めた。





「私たちの最終目標は、邪神様を復活させることだ。」

「『!!』」


 まさかと思っていたが、やはり、悪魔たちの計画は邪神の復活が目的だったのか。

 邪神め。どこまでも俺の人生に関わってくるのか。全くもって鬱陶しい。

 これじゃあ、せっかくの楽しい異世界ライフも台無しだよ。全く。


「私を捕まえようとしたのはなぜかしら?」

『邪神様を復活させるには、途方もない量の魔力がいる。だから、膨大な魔力をもつ火龍を捕まえる必要があったってわけだ。』

「チャンスは今までにいくらでもあったはずです。なぜ今ごろになって邪神の復活を企んだのですか?。」

 

 火龍の問いに悪魔は、薄気味悪い笑顔を浮かべて、答えた。


「邪神様の位置を特定したからだ。今までは、邪神様を異空間に閉じ込めていた封印の力で場所が見つけられなかったが、封印が弱まったお陰で封印場所を特定することができた。しかし、封印を完全に解除するには、大量の魔力が必要だった。」

「だから、今が絶好の機会という訳ですか。」

 

 火龍は、納得したようにふんと頷いた。


「なるほど。それで、他にも標的がいるのでしょう?次に狙っているのは誰ですか?」

「ほう?」

「仮に私を捕まえていたところで邪神を異空間に閉じ込められるほどの封印。仮に私を捕まえて生贄にしても封印を解除するための魔力量には到底足りるとは思えませんから。」

「さすがは最強の五龍のうちの一体火龍。お見通しってわけか。その通りだ。だが……。」

 

 悪魔は此方見ると冷笑を浮かべて続けた。


「貴様らにこんなところで話している時間なんてあるのか? 」

『なにっ?』

「今ごろ、魔物の大軍勢がアジャラの森に向かって侵攻中だろう。仲間がピンチだぜ。助けに戻らなくていいのか?なぁ、ア〜ス〜ト。」

 

『な、なぜ!俺の名前を知っている。やはり兎人俺たちの村を襲ったのはお前か!』


 俺は悪魔に詰め寄り胸ぐらを掴んだが全く意に返さずに不気味な笑顔を浮かべ話し続ける。


「いんや。私の担当は火龍だけだ。他のことは私には関係ない。お前を知っているのは、ただそいつの撮った映像にお前の姿が映っていたからだ。」


 やはり仲間がいたか。私たちといっていっていたことからも、薄々気づいていたが……。

 だが、悪魔の仲間は、なぜ必要に兎人ばかりを狙うんだ?


『おい!お前の仲間はなぜ兎人ばかりを狙う!』

「さあ?私にも奴の意図は分からないがおそらく、兎人族は、身体強化魔法しか使えないが、体のうちに秘める魔力は人間の数倍。生贄にちょうどいいからだろう。しかもどうやら今度は、他の獣人もまとめて狙うらしいしな。」


 

 今度はアジャラの森に住むすべての獣人が攻撃対象。となれば前回の黒熊の襲撃とは比にならない魔物の軍勢でやってくるのは間違いない。

 もしも、村のみんなが魔物の侵攻に気付いていないとしたら……。

 まずい。早く助けにいかないと今度こそ村が破壊されてしまう。


「ひょっとしたらもう死んでたりしてな。ハッハッハッ。」

『てめぇ!』


 バカにするような高笑いをした悪魔を見て俺は怒りで頭に血がのぼり思わず顔面をぶん殴ろうとしたその時。


「ゔっ!」


 突然悪魔の身体が膨張した。

 すると、魔力感知が、俺に警鐘をならしてきた。

 悪魔の体内を調べてみる。すると体内の魔力が急速で高まっているを感じた。

 一瞬、悪魔の作戦かと思ったがあの様子じゃそういう訳ではなさそうだ。

 まさか、魔力が暴走しているのか!

 膨張が止まることはなく悪魔の体はみるみる大きくなっていく。

 やばい。このまま魔力が増え続けると悪魔コイツの身体は爆発する!


『逃げるぞ!』



火龍を引っ張って急いで悪魔から距離を取る。

かっ!

つぎの瞬間、悪魔は、魔力の増幅を抑えられず身体が霧散するほどの魔力爆発引き起こた。

爆発は発信源の悪魔から半径10mを飲み込み、跡にはなにも残らなかった。

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