第七話 暴食その壱
「さあて、と」
『暴食』の悪魔は高層ビルを喰らい、地に足を着けた。
「この味、鉄が多いな、前みたいなコンクリートを期待していたのに」
「あれ、会社は? ぼくは」
上半身の無い人間が地に伏す。
「スカスカ、あ~まずい、夏の鰻みたいだよ、もう秋なのにッ。そこのレディ」
「ちょっとナンパぁ? ねえ、どうする、マイ」
今度は二つ。
「マイちゃんだっけ、君はすっぴんで美味しいよ、多分生まれてから一度も化粧したこと無いでしょ、素の味がして良いね。それともう一人日本産褐色女、君は不味………………くない、高い化粧品使ってるでしょ、一周回って美味しいよ」
「ちょっと、どこ行くの!?」
「残り少ねぇんだから、沢山思い出、作るんだよ!」
男は上半身を。女は全身を。
「君、癌だったんだ、結構転移してるね、子宮頸がんか、どうりで美味すぎると思ったよ」
――そろそろ水のある所に行きたいが。
『暴食』の悪魔はそう考えながら辺りを見渡す。
「それなら」
突如、『暴食』の悪魔の目の前に現れた男は腰に二刀、背に弓と矢の入った箙を背負っている。
「案内してやるよ。――その前に」
「いらっしゃいませー」
「我が魔王様に現代の肉を味わっていただきたい」
「面白いね、君」
二人は案内された席に着く。
「最初はファミリーセットにしましょう。それとドリンクバー入ります?」
タブレットを操作し注文する。
「いただこうかな。それとライスも」
「分かりました」
そして、『暴食』の悪魔はドリンクを取ってくる。
「聞きたいんだけど、君は僕の『
「どちらかと言えば、魔女の方が正しいですかね」
「他の魔女はどこに居るのかな」
「あの高層ビルに居て、あなたに食われました」
「そうか。ところで、君の風貌は魔女には見えないけど……」
「……日本ですから」
「日本だからか」
「…………」
「…………」
「ファミリーセット、お持ちしました。ライス大盛りの方は」
「僕です」
「さあさあ、私が肉を焼くので、どうぞお食べください」
「悪いね」
男は牛脂をひき、タン塩とハラミを網に乗せる。
『暴食』の悪魔はタブレットを操作してレバーとホルモンを注文し、取り皿にタレ2種とレモンを入れる。
「ちなみに僕はじっくりよりもサッと焼く方が好きだよ。……ちょっと何だい、その顔」
「いや、もっと私が思いつかない様な通な食べ方をすると思ってたので」
「確かに通な食べ方は美味い! けど楽しめた方が良いからね」
「なるほど」
数時間後。
食事を終え、外に出る。
「ここから、電車で山に行きます」
「山、なるほど」
駅からスムーズに電車へ乗り、二人は揺られていた。
「えっと、ここから」
「もういいよ」
「はい?」
座っていた『暴食』の悪魔は『喰らった』。
十一両の内、七号車だけを残して。
「ほうら、嘘つき」
いつの間にか刀を一刀抜いていた男は血飛沫も返り血も機材もガラスも肉も骨も車両も全てを斬り伏せて、そこに立っていた。
「戦闘態勢!!」
男はもう一刀、鞘から抜く。
男の名は
「参るッッッ!!!」
一振り、二刀合わせて三振り、車両は崩壊する。右手の一刀飲み込まれ、消化。左手の一刀、『暴食』の悪魔を道路まで吹き飛ばし折れる。背中から弓を取り出し構える。
『暴食』の悪魔、多摩川近辺へと落下。
待機していた隊員十名捕食、消化を確認。
「まずい!」
「
「はい!」
「『
重力を纏った拳が『暴食』の悪魔を地に圧し潰される。
「川から遠ざけろ」
「喉が乾いた」
「「!」」
『暴食』の悪魔、出血。その血が流れて流れて、川に垂れる。
違和感に気づいたのは一月七日。
「覚悟しろ、お前ら、『成る』ぞ」
『羽化』、一定以上の『堕光』を持つ悪魔が復活後、完全体に成る時の事。
「このまま殺ればいいじゃないですか」
廻は近づく。
「待て!」
武者原が呼び止める。
「なぜですか」
「喰われるぞ」
「動きは止めた」
「あいつは一瞬、身体を無数の口に変える。血を口に変え、水と接触する」
「『羽化』が始まれば俺達の『昇光』では太刀打ちできん」
「!」
「構えろ、気を張れ」
「到着!」
「よっしゃ、相手はどこだ」
「うるさい」
「人手は必要かと思いまして」
「ナイス判断だ。総員、構え!!」
全員の集中は『暴食』の悪魔に集まる。
刹那、全員、戦々恐々恐れ戦く。
スリスリススリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリと手を擦り合わせる様に。
バサっと広げられる、奇妙な紋様を形作る羽に。
後ろで赤くなりゆく川に。
実力で本能で、分からされる。
「皆様、私は『七つの大罪』、『暴食』の罪を背負う者、蠅の王」
再びスリスリスリスリスリスリスリスリと手を擦り合わせる。
「名をベルゼブブ・グラトニーと申します」
ベルゼブブはここに完全顕現する!
大罪少女七 奇想しらす @ShirasuKISOU
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