夏、はじまります
CHOPI
夏、はじまります
おかしい。つい先週まで「暑いけど湿度無いからまだいいですよねー」なんて世間話をしていたはずなのに。そこから週末は「いよいよ梅雨入りです」といわれて数日間雨が降ったように思うけど。……なんで今週、こんなにも。
「ドピーカンな日、ばっかなの……?」
「やめて、言ったところで涼しくならないんだから……」
最終、ギリギリの駆け込みで紫陽花を見に行けないかな。そんな風に思ったのが運の尽きだったのかもしれない。
******
仕事がなかなか落ち着かず、ようやく休みをもぎ取れたのは7月の第一週だった。久しぶりにランチでもどう?なんて学生時代の友人に声をかけたら、「そっちからそんな風に声かけてくるの珍しい!」なんて言われてしまった。その友人が「同じ日に休み取れそうだし、どうせだったらどこか行かない?」なんて話になって、そこからあれよあれよと話は進み、だったら間に合いそうなら紫陽花でも……なんて。
そうして迎えた当日の朝。先週は梅雨らしく傘マークの並んだ天気予報が続いていて、なのに今週に入ったくらいから傘のマークはめっきり消えている。梅雨入り宣言からそんなに経っていないのに、もう日差しは真夏のそれだし。
「おはよー……、今日暑くない……?」
「てか今週からいきなりきたね……」
待ち合わせの段階で既にへばってしまう暑さ。なのにここからが本番!とばかりに気温はぐんぐん上昇していくわけで。学生時代ならまだしも、社会人になってから早数年。体力の衰えをこんなところで感じるとは……。
「だめ、むり。どっか入ろう」
「さんせい」
暑さで思考が溶け始めているせいか、二人してなんだか発音が平仮名。移動も、無意識に建物の影や街路樹の影を伝い歩きするかのように動いてしまう。どう考えても身体が涼を求めている。だけどコンクリートから立ち込める熱気は容赦ないし、嫌がらせかと思うほどに今日はなんだか風も吹かない。
と、目の前に現れた、よくお世話になる喫茶のチェーン店の看板。余裕があるなら「せっかくだしもっと風情のある場所が良い!」なんて言い出しかねないけれど、今日はもうだめ。そんなこと言う余裕なんてない。
「ここでいい?」
「いい、全然いい」
そうして2人でその喫茶店へ。だけどこの暑さ、考えることはみんな同じわけでして。入り口付近に並んだ列が思いの外長くて一瞬ひるむ。でももう一回外に出て違うお店を探す元気もない。なんなら待合スペースとはいえ、ここまで既に涼しい空気で満ち溢れていて、こんなオアシスに入ってしまったら最後、しばらく外なんて出られるわけもない。
しばらく待って、ようやくお店の中に通される。メニューを広げる頃にはお昼を少し過ぎたタイミングで、だけど時間的にはギリギリランチタイム適用内。
「お腹空いた、なんか食べて良い?」
「私も食べるー」
適当にランチタイムのパスタをお互い選んで注文したあと、のんびりメニューを再度眺める。……と。
「……。これ」
「……あー、ね。いっちゃう?」
「……早いかな……、でも気温は申し分ないよね……」
「全然良いと思う。いやもう何なら私はいく」
「えー、じゃあ私も!」
******
2人でパスタを食べ終えた後、「デザート!!」と意気込んで頼んだそれに、今年も夏の訪れを感じることが出来ましたとさ。
「つめたっ!おいしっ!あたまいたいっ!!」
「うるさい、静かに食べてよ! ……おいしー……」
夏、はじまります CHOPI @CHOPI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます