第31話 アナスターシアとローズリンの明暗
婚約発表から三ヶ月ほど経った王国の建国記念日に、立太子の儀が盛大に執り行われた。
ダイヤモンド城の庭園はこの日のために丹念に整えられた。そこには色とりどりの花が咲き乱れ、緑の芝生が美しい対比を見せていた。中央には豪華な式台が設置され、純白の布で覆われた。
周りには壮麗なテントが立ち並び、貴族や外交使節、重要人物たちが一堂に会した。庭園を囲むように高い生垣が築かれ、まるでこの特別な空間を守っているかのように見える。陽光が差し込み、庭園全体が穏やかな光に包まれていた。
儀式の開始を告げる鐘が鳴り響き、ゴルボーン国王がゆっくりと式台に登る。彼は荘厳な姿勢で立ち、集まった人々に向けて静かに言葉を紡ぎ始めた。
「この聖なる祝福の日に、カラハン第一王子を正式に次期王位継承者として立てることを宣言する。」
その言葉に続き、カラハン第一王子が優雅に歩を進め、式台の前に立つ。彼の衣装は王家の紋章が刺繍された豪華なものだった。
王は厳かに王冠を持ち上げ、それをカラハン第一王子の頭上に慎重に置いた。王冠が頭に収まると、庭園全体に歓声と拍手が響き渡る。音楽隊が高らかなファンファーレを奏で、儀式のクライマックスを盛り上げた。
そこに、美しく微笑むアナスターシアが歩み寄り、そっとカラハン王太子の腕に手をかけ、優しく寄り添った瞬間に、歓声はひときわ大きくなった。
「カラハン王太子殿下、万歳!」
「アナスターシア様、万歳!」
祝福の声が鳴り止まないのは、それだけ貴族たちの期待が大きいからである。
そんな様子を見ていたハーランド第二王子は、むしゃくしゃしながらその場を立ち去り、自分の住まいであるサファイア城に戻ってしまった。
「あそこまでみんなに祝福されている姿など見たくないよ。僕の派閥はすっかりなくなって、全部マッキンタイヤー公爵にすり寄っているじゃないか。マッキンタイヤー公爵は兄上を守るために常に警護しているし、アナスターシアはまるで宝物を見るように兄上を見つめている。これでは、兄上に手も足も出ない」
サファイア城の中庭で、ぶつぶつと文句を並べ立てていると、女の声が相づちを打った。
「本当に不公平ですよね。これからアナスターシアは王太子妃になるのに、私はハーランド第二王子にそそのかされて毒蛇に噛まれました。今でも全身が痛いし痺れているのですよ。こんなに苦労したのですから、第二王子妃にしてくれるのですよね?」
恨みがましい声の主はローズリンだった。
「あぁ、ローズリン嬢か。アナスターシアの研究室から取ってきた物を渡してほしい。どんな物を持ち出せた?」
「持ち出すことなどできませんでした。あの研究室は恐ろしいところです。薬草は聖獣が守っていました。アナスターシアは聖女に間違いありません。ユーフェミア様とそっくりな姿をしていますし、薬草を蛇に守らせるなんて普通の人間ではできないわ。医者には命があっただけでも奇跡だと言われました。ハーランド第二王子殿下のせいで、毒の後遺症に悩んでいます。たまに幻覚だって見えるのよ。責任をとって、私を妃にしてください」
「待てよ。僕は話をしただけで、無理強いはしていない。ローズリン嬢は自ら進んでそれをしたのだろう? 自分の行動には自分が責任を持つべきさ」
「それでは、私を妃にしないつもりなのですね?」
「あっはは! 当たり前だろう? だいたい、君は貴族でもないじゃないか? カッシング侯爵が認知しなければ父親が誰かもわからない私生児だ。身分を考えろ! しかも、肌は汚いし悪評まみれだ」
「騙したのね? 私をそそのかして研究室に忍び込ませたくせに!」
ローズリンの手の中でキラリと光ったナイフは、その言葉とともにハーランド第二王子の腹を刺した。さらにナイフを突き立てようとするローズリンを、ハーランド第二王子がねじ伏せナイフを奪い取る。もみあっているうちに、ローズリンの胸にもナイフが突き刺さった。
騎士たちはすべてダイヤモンド城で立太子の義を警護していた。ハーランド第二王子の側近たちもカラハン第一王子の機嫌を取るために、もれなくその儀式に参加している。侍女やメイドたちもダイアモンド城に集まっていたので、誰もこの惨事に気づかない。
ダイヤモンド城が賑やかに盛り上がっていたまさにその瞬間、ハーランド第二王子とローズリンは・・・・・・醜く争い・・・・・・サファイア城の中庭を真っ赤に染めていったのだった。
☆彡 ★彡
一方、ダイヤモンド城の庭園では、カラハン王太子が威厳に満ちた姿で国民の期待と責任を感じながら、未来の国王としての決意を表明していた。彼の隣には、エメラルドグリーンの美しいドレスを纏ったアナスターシアが立ち、幸福そうに微笑んでいる。二人の姿は、まさに絵画のように完璧であり、誰もがその美しさに心を奪われた。
ダイヤモンド城の外では平民たちが旗を振り、声を合わせて「カラハン王太子殿下、万歳! アナスターシア様、万歳!」と叫んでいた。彼らもまた、カラハン王太子を心から祝福し、国の未来に希望を抱いていた。城門前の広場は色とりどりの王家とマッキンタイヤー公爵家の旗で埋め尽くされ、笑顔と歓声が絶え間なく続いた。
カラハン王太子とアナスターシアは庭園の中央で手を取り合い、幸福そうに見つめ合う。その姿は、国の未来を象徴するかのように輝いていた。諸外国の王族・国内の貴族や平民たちも、その光景に心を温められ、これからの国の繁栄を確信した。
こうして、立太子の義は盛大かつ感動的な祝典として幕を閉じた。新たな時代の始まりを告げるこの日、国中の人々が一つとなり、未来への希望と期待を胸に刻んだのだった。
「アナスターシアだけを妃とし、死ぬまで愛することを誓うよ」
カラハン王太子から頬に口づけをされたアナスターシアは、嬉しい涙を流したのだった。
完
夫と姉(継母の連れ子)に罪を着せられた侯爵令嬢の二度目の人生 青空一夏 @sachimaru
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