第6話フォーレ家の温室
公爵家の料理人が腕によりをかけて作ってくれたお菓子を所狭しと並べられたテーブルに向かい合って座った。デイヴィッドが節目がちにお茶を飲む姿をじっと見つめてしまう。あまりに見つめすぎて不思議そうにする彼にはっとして会話を始める。
「デイヴィッド様は甘さが控えめなものがお好きとお伺いしまいたのでさっぱりしたものをご用意いたしました。当家の料理人は菓子作りもなかなかの腕前ですの。お口に合うと良いのですが。」
レモンのゼリーが涼しげな器に入っている。ステラはいそいそとデイヴィッドにとりわけて、自分も食べ始める。レモンの酸味と少しの甘味が絶妙で思わず顔が綻ぶ。美味しそうに食べる顔は淑女らしからぬが可愛らしく、微笑ましかった。
「甘いものがお好きなのですか?」
エリックからの情報の使い所はここだと直感し、会話を繋げていく。
「ええ、甘いものならなんでも好きです。特にイチゴが好きなんです。うちの家族はみんな甘いものが好きなので、みんなでティータイムにお菓子を食べ比べしていますの。」
実際は家族で甘いものが好きなのはステラと夫人だけなのだが、嬉しそうに食べるステラを見ていたくてできるだけみんなが同席している。社交界が本格的に始まると夜に家族が揃うことはほとんどないため、まだ留守番の多いステラが寂しくないようにという意図もある。
「最近は料理長がいろんな店のお菓子を研究してくれているので毎回楽しみなのです。家で楽しめるように工夫してくれていて。」
「では最近できたロクサーヌに行ったことは?」
「まあ!ロクサーヌをご存知なのですね!今一番行ってみたいところですわ!」
「では次にお会いするときに一緒に行きましょう。パイが美味しいそうですね。」
キラキラとした眼差しで見つめられて、期待に応えてあげたいという気持ちがわき、自然と次のお誘いができた。スマートに誘えてホッとする。いい具合に肩の力が抜けて会話も楽しいものになっていく。主にステラが家族の話をしてくれたり、デイヴィッドについて質問してくれて存外楽しい時間を過ごすことができた。
「お母様からお菓子を食べたあとは運動もするようにと言われていますから屋敷をゆっくり歩いてまわることもあるんです。よければこの後一緒に温室を歩きませんか?
温室はお父様がお母様のために珍しい花も植えていますから見応えがありますよ。」
「・・・ええ、ぜひ。」
連れ立って温室に向かうと庭師がバラの手入れをしているところだった。
2人目の婚約者 水越こはる @runrun3105
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