第17話「たまには私だけにかっこいい表情を見せてくださいね?」
「もう帰ってしまうの? まだまだ居てくれて良いのに……」
フェイバリット公爵家に帰ろうとしていたら、玄関先でお義母様に引き止められました。
お義母様、お義父様、リアム義兄様への挨拶は朝のうちに済ませ、この場には転移魔法で送ってくださるレヴィ様、お世話になった侍女のみなさんだけがいる、という予定だったのですが……。
それにお義母様、挨拶の際に「予定があるから見送れなくれないの……。ごめんなさいね」とおっしゃっていませんでしたか? 予定は大丈夫なのでしょうか?
ちなみに、お義父様とリアム義兄様も予定があり、この場には来れないとのことでした。
帰らないと、それは分かっているのですが、お義母様の言葉には惹かれるものがあります。なぜなら、居心地が良くて魔法の練習ができて、何より大好きなレヴィ様とともに居られるのですから!
まあこれも今は叶わぬことです。結婚したら話は別ですけどね。
「とても魅力的なお誘いですが、お気持ちだけ受け取らせていただきます。帰らないと父に心配をかけてしまいますので」
そういえば、私が倒れた話は伝わっているはずですが何の音沙汰もないのは意外でしたね。お父様のことですから、飛んで来るのかと思っていました。
ですが心配をかけてしまっているのは事実としてあるでしょう。これ以上帰る日が延びたら、何を言われるか分かりません。私が言うのもなんですが、娘可愛さに外出禁止令が出される可能性もあります。それは避けなければ……。
「あらそう……。でも、また遊びに来てちょうだいね? 私たちはいつでも歓迎するわ」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いいたしますね」
よし、決めました。帰ったらお父様をなんとか説得して、またホワイトレイ辺境領に来られるようにお願いしようと思います。
「母上、お話は終わりましたか?」
「ええ……。寂しいけど、また来てくれるのでしょう。待っているわ」
そう穏やかに笑ったお義母様へ、私は会釈で返しました。
「ではロティ、行きましょうか」
「はい。お義母様、みなさん、また来ますね」
レヴィ様は私の手を握り、魔力を練りだします。
「そうそう、母上、予定は大丈夫なのですか? ……〈
転移するその瞬間、レヴィ様の言葉を聞いたお義母様が驚いたような表情をしていたのが見えました。もしや忘れていたのでは……?
ふわりと浮いた心地がしたと思ったら、目の前にはフェイバリット家の屋敷が。レヴィ様にエスコートされるまま、玄関へ入ります。
そこにはお父様とセオドア兄様、そして侍女のミアや執事のエリジャさんをはじめとしたフェイバリット家のみなさんがいました。
……お父様、どうして私の姿を見るやいなや、手のひらで額を覆ったのですか? 不思議に思っていると、レヴィ様に背中を押されます。
「行ってあげてください。お義父様はロティの姿を見て感極まっているようですからね」
なるほど、そういうことですか。
私は頷き、お父様に近づきました。そして挨拶であるカーテシーをして言います。
「ただいま帰りました、お父様」
「っ! シャーロット……! 本当に、無事でよかった……!」
ぎこちなく回されたお父様の腕は、微かに震えていました。私の想像以上に心配をかけてしまっていたようですね。ですがお父様、安心してください。レヴィ様が守ってくださったおかげで私は無事ですから。
「はい、無事ですよ」
「うん……、本当によかったよ。おかえり」
「シャーロット、僕からもおかえりと言わせて」
「お二人とも、ただいま帰りました」
なんでしょう、帰ってきた感があります。ホワイトレイ家も落ち着きますが、やはり我が家はここなのでしょう。
……あ、レヴィ様を放ってしまっていました。私の視線の意図に気づいたのか、レヴィ様は言います。
「大丈夫ですよ。お義父様方にだけ見せるロティの表情が見られたのですから。役得ですね」
「そうなのですか……?」
「ええ、そうですよ。ですが、今度は私だけにその可愛い
……顔に熱が集まってきてしまいました。お父様たちも見ているのですよ……!? ど、どうしましょう?
……そうです! こんな時こそささやかな仕返しをしましょう!
「れ、レヴィ様、耳を貸してください……」
「はい、何でしょうか?」
余裕たっぷりなレヴィ様は私の身長に合わせて屈んでくださいます。なので、耳元でこう囁きました。
「レヴィ様も、たまには私だけにかっこいい
「……っ!? ……もちろんです。ロティの、願いとあらば」
どうやら仕返しは大成功のようです。レヴィ様が赤くなっているところなんて初めて見ました。まあ私も痛手を負いましたが……。
「ロティ、今度覚悟しておいてくださいね?」
「……わ、分かりました」
レヴィ様はとても良い笑顔でそう言いました。
か、覚悟って何ですか? 仕返しをしたはずなのに、さらにやられた気がします。
***
そんなシャーロットとレヴィを見ながら、ルーベンとセオドアはこんな話をしていた。
「どことなく、二人の間の雰囲気が変わったね……?」
「僕もそう思いました。シャーロット、とても楽しそうです」
「レヴィくんとの婚約を受けて良かったみたいだ。幸せそうで何よりだよ」
「そうですね。……僕としてはかなり寂しいですが」
「……奇遇だね、私もだ」
【end.】
辺境魔術師の元お義兄様には私を溺愛したくなる魔法がかかっているそうです 色葉みと @mitohano
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