冷やし中華終わりました。
「うむ。ついいつもの陰キャのノリで騒いでしまったが、魔界からわざわざ私と入れ替わった新人君が一体なんの用か? 冷やし中華君?」
と、ようやく話を本筋へと戻す魔王だが、それまでの不機嫌さはどこへ行ったのか、冷やし中華はニヤニヤしながら両肩を竦め。
「別にオレが用があるワケじゃねぇ。ただデブエルからの伝言だ。『今すぐ魔界からの命に従えば今回はお咎めなしとする。但し、従わなければ実力行使だ』との事だ」
「実力行使?」
と魔王がアゴに手を当て首を傾げた時だった。
――冷やし中華がフラリと動いたかと思った次の瞬間には、黒い笑みを浮かべ魔王の目の前で右腕を引き拳を構えていた。
「……?」
魔王が突然の出来事に頭に疑問符を浮かべるも――冷やし中華は問答無用で右の拳を魔王の顔面に叩き込む。
「??」
面白い顔をしながら砂埃を巻き上げ派手にブッ飛ぶ魔王。その魔王が仰向けになりピクリとも動かなくなってから――
「こういう事だよ。オレぁまどろっこしいのが嫌いでね。つーかオレ達は魔王だ、勧告だのヌルい事言ってねぇで最初からこうすりゃいいんだよ」
と吹っ飛んだ魔王を一瞥する冷やし中華だが――
「ゴッホゴホッ!」
と咳き込みながら、魔王が上半身だけを起こす。
「うわぁ砂埃ヒドっ! 目や鼻に入ってムズムズする……」
右手で眼を擦り、終えると左手で鼻を擦る魔王。そしてそのまま立ち上がりながら服の砂埃を払いつつ。
「実力行使か。確かに魔王らしいと言えば魔王らしい……が、冷やし中華君。君も新人とはいえ魔王になったからには知っているだろう? 魔王は暴力には屈さない。何故なら魔王は暴力には暴力で抵抗するからだ!」
魔王が右手の人差し指を冷やし中華に突き付けると、冷やし中華は口角を吊り上げ。
「知ってるよ。そうでなくちゃ面白くねぇ。何せこっちはテメェを殺しても構わないって言われてんだからなぁ!」
言うと同時。狂気の笑みを浮かべながら、今度は一直線に魔王へと突っ込む冷やし中華だったが……これが不味かった。
先程より断然速度を上げたのだろう。その移動だけで起きる風。風圧によって――魔王の鼻の中にあった砂埃が鼻の奥をくすぐった。――ので。
「ファ、ファ、エッぐひゃイっ!」
魔王が古の呪文のようなくしゃみをした。――瞬間。
「えっ?」
気が付いた時には、冷やし中華の身体は遥か上空にブッ飛ばされていた。
「えええぇぇぇ……」
あっという間に豆粒くらいの大きさになる冷やし中華。その冷やし中華の姿を額に手を当て眺めるsiri。
「あーあー。あれは間違いなく魔界まで飛んでっちゃいましたね?」
ここまで言うとsiriは魔王へと体を向け。
「ダメじゃないですかマオー。マオーが本気でくしゃみをしたら街が一つ消し飛ぶんですよ? 今年ようやく165位になったルーキーじゃ、直撃なんて一溜まりもないに決まってるじゃないですか?」
「いや、そんな事言ったって不可抗力だったろう? それにギリギリで手で抑えたから4分の1くらいの威力にはなっているはず……。だがまあ、確かにルーキーというか魔界にカレーうどんがない事を考えれば――ない物の魔王なんて高が知れているからな……。死んでなければ良いが」
と鼻水を垂らしながら冷やし中華が消えて行った空を眺める魔王。……の横顔を眺めながらsiri。
「そう考えると今回のくしゃみは完全に『くしゃみ助からない』でしたね? 全然可愛くなかったですから」
「そうだな『くしゃみ助かる』への道はまだまだ遠い。いっその事、くしゃみをすると鼻から水じゃなくてポムポムプリンやぐでたまでも出した方がカワイイか? いや、そんな事よりもsiriよ。ティッシュを持っていないか?」
鼻水を垂らしっぱなしの魔王が問えば。
「いえ、大根おろし用のおろし金なら持っていますが?」
と、おろし金を魔王に差し出すsiri。
「これでどうしろとっ!? 私は鼻水をふきたいのっ!」
と魔王が怒鳴れば、siriは黙って魔王のマントの端っこを持って差し出した。
魔王エ口サイ卜 高谷 @udonymd
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔王エ口サイ卜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます