タンクやれって言われたけど、戦闘力無いので、ジョブ『アンデッド』で頑張ります

名録史郎

第1話

「リアン、今日からしばらく、お前にはタンクをやってもらう!」


 突然、パーティーリーダーのおやっさんが、荷物持ちである僕にそんなことを言った。


「そんなの無理ですよ。最前線で戦う以前に、僕は戦闘ジョブじゃありません」


 僕の正式ジョブは、『商人』だ。

 パーティーメンバーの武器などを調整したりするそれなりに重要な役割ではある。

 でも、戦闘はできない。


「いままでタンクをやってくれてたガミアさんがぎっくり腰になっちまったんだ」


 ちょっと起き上がろうとするたびに「あうぅー」っと変な声をあげて、馬車の中で悶えている。

 弓師のコールさんがガミアさんを揉んであげているが、復帰は難しそうだ。

 まあ、それはわかる。


「でも、商人がタンクって聞いたことないじゃないですか」


「それに、タンクっていうのは、戦闘ジョブをさすことばじゃねぇ」


「じゃあ、なんですか」


「敵の注意をひくジョブのことだ。だから、別に戦闘できなくてもいい」


「僕はどうやって、タンクをやればいいんですか?」


「そんなの『やーいバーカバーカ』って言って注目ひいてやればいいんだよ」


「そんな子供じゃないんだから。それに、今僕ようの装備はないです。敵の攻撃に当たったら一発で死んでしまいますよ。どうすればいいんですか?」


「そんなもん当たらないようにしろ」


「そんな無茶苦茶な」


「無茶でもやってもらわないと、全滅だ。とりあえず、次の町に着くまででいいんだよ」


「それなら、まあ……仕方ない……ですね……」


 そうして僕は人生で初めて、タンクを引き受けることになった。


◇◆◇


「モンスター出てきませんように」


 僕は移動の馬車の中でそう祈ってみた。

 多分、まあ、無駄だけど。

 この辺りは、モンスターの出現率が高い。


 僕はため息をつきながら、自分でも使えそうな武器『パチンコ』を装備した。

 落ちている石っころで補充できる。

 石の原価は0円。

 ものすごくコスパがいいから使っている。

 商人の性ってやつだ。


「リアン、今日からタンクやるんだって?」


 神官のクルリちゃんが話しかけてきた。


 クルリちゃんは、おやっさんの娘で、僕の想い人。

 小柄で華奢な体つき、さらりとした金髪に、まんまるとした青い瞳がすごく可愛い。


 彼女がいるから、僕は、このパーティーにいるようなものだ。

 渋々タンクを引き受けたのも彼女のため。

 

「僕は商人なんだけどなぁ」


「リアンは商人なんだから、なんかタンクに役立ちそうなアイテムないの?」


 確かに商人の特技は、アイテムをいかにして使うかだ。

 僕はアイテム群をよく見てみることにした。


「ええとね。この『爆竹』とかどうかな」


「どう使うの?」


「火をつけて投げつけると、大きな音をたてるよ」


 音で、注意を引くことができるので、タンクに向いている気がする。

 威力はないので、自分が怪我することもない。


「他には?」


 僕は、香水瓶のようなアイテムを取り出してみせた。


「これとかかな『フェロモンの薫り』男なら女、女なら男の注目を浴びることが出来る」


 惚れさせるまでの効果はない。

 異性に思わず振り向かせる程度だ。


「モンスターでも効果があるの?」


「人型モンスターなら、多分あると思う」


 僕は、『フェロモンの薫り』を腰に装備し、次のアイテムを取り出す。


「あとは、この『不死の護符』とかかな? 不死の力が宿っていて身につけたものは死を免れるらしいんだけど」


「いいじゃない。それ使いましょう」


「いや、でも、使うたびに肉体が徐々に朽ちていくという」


「死ななかったら、私が回復させてあげられるし、問題ナッシング!」


 そうかな?

 本当に?


 クルリちゃんの回復魔法は相当なものだから、多少の怪我なら瞬く間に治してくれる。

 多少なら……。


「いやでも、迷ってる暇はないし、ええい!」


 僕は、護符を装備する。


「なんにも起きないわね」


「とりあえず調べてみよう」


 僕は、ステータスが確認出来る魔法の石盤を触れてみた。

 

 ジョブ:アンデッド


 と、書いてあった。


「ジョブ『アンデッド』ってなんだよ!? やっぱりやめ……」


 手に貼り付けた護符を剥がそうとする。

 皮膚が一緒に引っ張られ、ものすごく痛い。


「とれなくなったし!? どうなってるの!?」


 やっぱり呪いのアイテムじゃないか。


「おい! モンスターが出たぞ!」


 馬車を運転していたおやっさんの声が響く。


「悩ませてもくれない!?」


 僕は、慌てて馬車から飛びだした。


 外には道を塞ぐようにゴブリンの群れがいた。手に持っている棍棒を威嚇するように、地面にうちつけている。


「ゴブリンか……女の子は、殺されることはないらしいけど……」


 ゴブリンは、女の子をさらうと、あんなことやこんなことをするらしい。

 僕は、まだ未成年なので、具体的には知らない。

 なんだかとんでもないことになるらしい。


「ほら出番だ!」


 おやっさんが、アイコンタクトで『行け!』と命じてきた。


「ああ、もう」


 僕は、駆け出す。


「とにかくまずは気を引いて」


 僕は、まず爆竹に火をつけ放り投げた。


ドッカーン!


 盛大音だけたてた爆竹が気を引いているうちに、みんなから離れる。


「ほら、こっちだ。間抜けなゴブリンども!」


 ゴブリンたちは、僕をにらみつけてくる。

 知能が低いだけで、ないわけではないので、僕が馬鹿にしているのはわかるらしい。


 ひょい。ひょい。


 ゴブリンたちが棍棒を振るってくるのを、僕は頑張って避ける。

 いつも頑張って、重い荷物を持っているので、足腰にはそれなりに自信がある。


 ゴブリンが、僕を諦めて、おやっさんたちに向かおうとするときは、パチンコで後ろから後頭部を狙った。

 怒り狂ったゴブリンが再び僕に向かってくる。


「よし意外と、僕でもできて……」


 そう思っていると、急に影で視界がふさがった。


 見上げると、僕の三倍は大きいゴブリンが立っていた。


 ゴブリンたちの王様。

 ゴブリンロードだった。


「うわあああああ」


 僕が叫び声をあげると、ゴブリンロードが僕を向いた。


「おお、いいぞ。リアン」


 おやっさんが褒めてくれるが、ヘイトを集めようと思って叫び声をあげたわけではない。


 ゴブリンロードは、体格の割に素早い動きで僕に向かってくると横なぎに棍棒を振るった。 


 グキッ!


 嫌な音が、僕の首筋あたりから聞こえてきた。


 視界が真っ暗になる。


 うん。これ即死だ。


 ああ、こんなことになるなら、クルリちゃんに想いを伝えておけば良かった……。


 でも、なんで僕まだ思考できて……。


 どうやらびっくりした拍子に目を閉じていただけだった。

 目を開けると、視界が真横向いている。

 なんだか頭が左側だけ重たい。


「よいしょ」


 僕は、頭を持ち上げ、視界を治す。


 なんだかゴブリン達が、恐ろしいものでも見るように、僕をみている。


「いいぞ! その調子で注目を集めるんだ」


 おやっさんの声で僕は、正気にもどる。


 首はまっすぐにはなったけど、グラグラしているし、手は真っ赤に染まっている。


「うわああああ」


 僕、完全にアンデッドになってるじゃん!?


「今、回復するねー!」


 のんきなクルリちゃんの声が聞こえてきて、僕の体が光り輝いた。


 一番ヤバいやつだと認識したのか、ゴブリン達が一斉に僕に襲いかかってきた。


 グキッ!


 再び、繋がりかけていた首の骨が折れた。


「アンデッド化したら、首折れて、気持ち良すぎぃ! ってなにこれ!?」


 二度目の死にして、慣れてきている自分がいた。

 痛みのレベルが死を超えてしまって、脳内物質が変な感じで大量に出てきて、謎のハイ状態に。


 ゴブリンたちに、パンチを繰り出すと、『バキバキバキ』自分の拳の拳とゴブリンの頭蓋骨が砕ける音が同時に聞こえてきた。


 僕は非力なはずなのに、リミッターがはずれたように力が出る。


「グオオオオォォォ」


 仲間をやられて怒ったゴブリンロードは、今度はまっすぐ棍棒を僕に振り下ろしてきた。


グシャ!


 グシャグシャのトマト状態で僕は立ち上がった。


「グウゥウウウ」


 ゴブリンロードは、僕から顔を背けようとして、それでも目を離すことができずにいる。

 緑の顔を真っ赤にしたり、真っ青にしたりせわしない。

 おやっさんたちが猛攻を仕掛けていて背中にどんどん矢が刺さっているのにだ。


「どうしたんだろ?」


 僕の足元には『フェロモンの薫り』が転がっていた。


 つまり


「このゴブリンロード、女か……」


 ゴブリンロードが僕の頭を棍棒で吹き飛ばす。

 頭が半分なくなり、僕は脳髄を辺りに撒き散らした。


 が、僕は、そのままニタリと笑ってみせた。


 ゴブリンロードは、泡を吹きながら気絶し、そこにおやっさんが飛びかかりとどめをさした。


 そうして、僕は、初めてのタンクをこなしたのだった。 


◇◆◇


 町のギルドにつき、僕はアンデッドの力で仲間を守り抜いたことに安堵していた。


 でも、もう二度とタンクはやりたくない。


「それにしてもよかった。クルリちゃんの回復魔法で人に戻れて……」


 一番安堵しているのは、そこだった。

 もしも、回復魔法が効かなかったら、僕はゾンビのままだったのだから……。


「調子は、どう?」


 クルリちゃんが声をかけて来てくれた。


「全然良くない……。朽ちて、再生を繰り返してる……」


 回復魔法は効いているが、呪いの効果もあり、護符が貼られている右手がおかしなことになっている。


「じゃあ、教会から、護符もらってきたからこれも使ってみて」


 クルリちゃんは、僕に別の護符を渡してきた。


「ありがとう」


 僕は、さっそく護符を使ってみた。

 アンデッド化の護符の上に貼ると、朽ちた部分が白い鳥の羽のように変わる。


「なにこれ!? ねぇ、この護符、アンデッド化を治す護符じゃないの?」


「エンジェル化する護符だって、使うと死を免れるらしいんだけど、副作用で体が徐々に高貴な存在になるらしいよ」


「高貴ってなに!? なんかよけい酷くなってるんだけど」


 なんかさらにわけわかんないことになっていってる気がする。


 塩取りすぎたから、砂糖で中和!

 みたいな変なノリでアイテム渡すのやめて欲しい。

 引っ張ると、やっぱり肌ごと引っ張られてものすごく痛い。


「しかもまたとれなくなった! これ本当に教会でもらったの!?」


「処分に困ってたよ!」


「それ、呪いのアイテムじゃん!?」


 僕が、アンデッドアイテム2に苦戦していると、おやっさんが近づいてきて、にやりと笑った。


「リアン、本当に助かったよ。よくやったな!」


 僕は笑顔を浮かべながら答えた。


「みんなを守れて良かったです。でも、もうタンクは…」


「さあ、新しいメンバーを勧誘してきたぞ」


 僕は、ほっとしながらおやっさんが指差す方向を見た。


「彼女が新しいメンバーだ」


 そこには一人の女の子が立っていた。

 三角のとんがり帽子に、曲がりくねった木のワンド、腰には魔術書をぶら下げている。

 胸にはピンクの大きなリボンがあって、栗色のお下げがとってもよく似合っていた。


「うわーすんごい可愛い……」

 

「よろしくお願いします。えへ♪」


 彼女は、礼をすると、紹介とばかりに手のひらから炎を出してみせた。


 どう見ても魔法使い。


 どう見ても魔法使い!


 いやでも、まだわからないぞ。

 こんなに可愛いけれど、実は筋力強化魔法の使い手かもしれない。

 僕は、期待をこめておやっさんに聞いた。


「おやっさん彼女がタンク?」


「いや、魔法使いを雇った」


 ですよねー。

 それはいい。

 それはいいけれど。


「で、でも、これからタンクは?」


 おやっさんは、僕の肩を叩いていった。


「お前は、もう立派なタンクだ。これからもよろしく頼むぞ」


「いやだぁああああああああああああああ」


 僕の声がギルド中に響き渡った。


 その後、リアンがアンデッドタンクとして、世界に名を馳せるのはもう少し先の話。

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タンクやれって言われたけど、戦闘力無いので、ジョブ『アンデッド』で頑張ります 名録史郎 @narokushirou

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