1. 始業のベルが鳴る

第2話


~若口海王~


 目の前が明るくなった。RPGの世界みたいだ。

「ゲームみたいだ。スゲー!!!」

そう思ったのは俺だけではなかったらしい。辺り周辺を見渡してみる。ここにいる人たちはざっと同じ学校の同学年の人たちだ。だいたい顔を見たことがある人たちばかりだ。隣ではしゃぐ男と同調して叫ぶ。

「やべーーー!!!おいおい、見ろよ。猫の顔した顔のやつが二本足で立ってるぞ。」

「こっちも凄いぞ!魔女みたいな人がいる。」

「お前ら、あそこ行ってみようぜ。武器屋だってさ。」

なんとも楽しそうにわちゃわちゃ騒いでいるのは俺らだけではない。遊びに来たような感覚で、おそらく同じ学校の同学年の人たちは騒いでいる。そんな中、見慣れない容姿の男が目に映った。背は高くも低くもない、推定175㎝の顔の整った男だった。ここにいる人たちはみんな制服を着ていて、その男もまた制服を着ている。でも、それがそもそもおかしい。ピチピチのスカートとピチピチのポロシャツを着ていてなんともおかしい。というか、ヤバい人だ。ほら、周りの人はみんな引いてる。俺も引いてる。その男は無表情で何を考えているかは分からなかった。男を気にしないようにしたかったが、どうしても目で追ってしまう。でも、友達が袖を引っ張るから一瞬目を外す。そしてまた同じ方向をみ見てみると、不思議なことに男は姿を消していた。きょろきょろと探してみると、建物と建物の間に逃げる男の姿があった。どうしても気になって、友達に断って追いかける。

「おい、どうした?」

声を掛けると、体育座りで蹲る男の姿があった。

「わ...。」

一瞬目をこちらに向けて何か言おうとしたが、すぐに口をつぐんだ。そして、目元をほんのりと赤らめる。その姿があまりにもみられるのが恥ずかしいのだろうか。当たり前だと思うが、さっきまでは表情一つ変えず佇んでいたというのに。本当に不思議な奴だ。

「えっと、服持ってこようか?」

男は少し考えてから言う。

「助けてもらっても、何も返せるものがない。」

気弱そうに言うので絶句した。乙女かよ。赤らめた顔で目を反らしてボソッと呟くこの男はプライドはないのか。

「俺が勝手に気になるだけだ。いいか?」

すると、男はコクッと頷いた。またしてもため息が出た。でも、なんだかどこか懐かしくも感じた。誰だったったっけ?いや、思い違いだろう。何も思わなかったことにしてこの場を離れた。


 服を渡した後、男は、

「また会ったときには必ずお礼する。」

と言ってそそくさとどこかへ行ってしまった。名前も名乗らずにだ。俺の名前も聴くこともなくだ。俺は特大の溜息を吐いた。

「助けるんじゃなかった。」


―——・・・


 広場に戻ると、何やら不穏な空気を醸し出していた。暗い顔をする自分と同じ制服を着た人たちを掻き分けて演説をする人の目の前、最前列へ行く。最前列の右端に、先ほどまで一緒にはしゃいでいた友達の姿が見えた。彼らも暗い顔をしてそこから微動だにしない。一瞬この場を離れただけで何があったのだろうか。その答えはさっきから声高らかに偉そうに演説する贅沢な服を身にまとう白髪のお爺さんが説明してくれた。

「20XX年生まれの若者達よ!よくぞ来てくれた!お前たちにはこの世界を荒らす魔王を討伐してもらう。もちろん死者も出るだろう。でも、みんなで力を合わせて立ち向かい、悪を倒すのだ。むろん、戦わずして勇敢な者の援護に回っても構わない。ただ、魔王を返さない限り、元の世界には返さない。早く、家族や友達に会いたくば早く魔王を倒すのだ。」

俺は、無性に腹が立った。先ほどの無駄に顔がいい男といい、この爺さんは好き勝手なことを言う。

「死ね。」

流石に、本人に届くと危ないので、ほぼ息を吐くように怒りをにじませた。この爺さんは中央諸国の王だと名乗った。この身勝手な王は学校の校長のように長ったらしい演説の末、俺らそれぞれある学校へ通うように命じた。例えば魔法専門の学校や剣術専門、聖職専門学校など数十個の選択肢がある。三週間の猶予と体験、一ヶ月の申込期間を言い渡された。専門学校へ通うのは任意であるが、力をつけなければ魔王討伐は不可能。元の世界へ帰る道術が一つ消えることになる。王は魔王討伐を強要はしなかった。なぜならその方が皆動くだろうという考え方らしい。誰がその命令に従うか。とも思ったが、元の世界に戻れないのは嫌だった。自分にだって、元の世界でやることがある。悔しいが、専門学校の一覧表を真剣に向き合っていた。


 専門学校への入学前日は、友達と飲み屋で酒を交わしていた。元の世界では未成年飲酒は違法だが、この世界にそんな規定はないことに気が付いたのだ。

「マジで死ね。あのじじい。」

俺がブチ切れていると友達は(また始まったよ。)と内心呟きながら苦笑する。自分ではよくわかっていないが、俺は感情が表に出やすい性格らしい。

「気持ちは分かるよ。でも、もうそんなこと言ってられないしな。」

どいつもこいつも冷静すぎる。今夜は盛大に盛り上がり、夜が更けていった。こんなこともあったなと思い、早5年が過ぎていく。専門学校は3年で卒業。約2年仲間と冒険して、仲間とはぐれてもう会えないかもしれないと思ったときの事だった。

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日頃も想ふ‐Red and Blue‐ 衣草薫創KunsouKoromogusa @kurukururibon

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