持ち株を高騰させるために証券会社に行く男

Jack Torrance

パンデミックをもう一度!

高畑喜一郎、50歳。


高畑は金の亡者だ。


世の中がコロナでヒーヒーしている最中、高畑はファイザーとモデルナの株に全財産を投資した。


投資額は2059万円。


老後の資金に取っていた虎の子だ。


ワクチンが国の政索で無料で接種できていた時には株価はうなぎ登りに高騰した。


まだ上がる。


高畑は名に因んで【一喜一憂】ならず【一喜一裕】を目論んでいた。


高畑は高を括っていた。


利益確定の時点で売りに出していれば。


ところがどっこい5類に移行して以降ワクチン接種者は減少。


今まで無料だったワクチン接種が健康保険で3割負担の窓口支払いが9000円。


9000円払ってワクチンを接種する物好きが何人いるだろう。


だってインフルエンザと同じ扱いなんだから。


ファイザーが発表した2023年10~12月期決算は、最終損益が33億6900万ドル(約5000億円)の赤字だった。


モデルナはCEOらが利益確定で自社株売却を売りに出し株が13%の急落


高畑の持ち株は下落し元本割れ。


あの時点で売りに出していれば。


高畑は己の欲深さを呪った。


高畑は闇金融で500万調達し野村證券に向かう。


闇金融の利息はトイチとまでは言わないが法定利息は超えている。


高畑は勝負に出た。


日本シリーズ第7戦。


9回裏、得点は2対2、1アウト、ランナーは1塁3塁。


バッターボックスには代打、高畑喜一郎、50歳。


高齢の高畑はこの日本シリーズ第7戦が引退試合だ。


もう俺も若くない。


ここが潮時だ。


相手チームはゲッツー狙いで内野は深めの守り。


高畑はここで一か八かのバントにでる。


3塁ランナーが生還すれば日本シリーズ優勝だ。


バントという姑息な手段に打って出る高畑。


日本シリーズは第7戦まで出番なし。


監督のお情けでの代打。


MVPは俺が貰った。


バカな高畑は己に言い聞かせる。


勝てば官軍と言うではないか。


野村證券で高畑を応対するのはオールドミスの野村沙知子、41歳。


野村沙知代と一文字違いの野村は入社当時から野村證券のサッチーと呼ばれていた。


リアルサッチーとは異なり野村は美人だ。


野村に言い寄って来る証券マンは数多いた。


だが仕事一筋の野村は証券マンどもには見向きもせずに己の職務に邁進していた。


野村の異名はサッチーから鉄の女サッチャーへと代わり並み居る証券マンどもを差し置いて営業成績は8年連続トップである。


だから野村はオールドミスなのである。


野村の窓口の前に高畑は座る。


「いらっしゃいませ」


この世のものとは思えない最高のビジネススマイルで高畑を歓待する鉄の女サッチャーこと野村沙知子、41歳。


このビジネススマイルに絆されてバカな男どもは身の丈を超える投資を株に投じる。


高畑は欲深く美人には目の無い性根の腐りきった男であるが野村の妖艶な用紙には騙されない。


何故ならばファイザーとモデヌナの持ち株を高騰させると言う大事なバントを控えているからである。


野村はホワイトニングされた白い歯をキラッと輝かせ商談に移る。


「お客様、今日はどういった銘柄の金融証券を御所望でしょうか?今期、過去最大の経常利益を上げたトヨタの株を御所望ですか?確かに今は円安でEV車よりもトヨタのお家芸ハイブリッドの方が人気で売り上げは好調ですがエコノミストの間では来期は上げ止まりと予想していらっしゃる方もいます。ダイハツだけじゃなく親会社であるトヨタも不正を働いていましたからね。為替次第という他力本願にもなりかねませんしね。テスラの背中が見えていると言ってもテスラはイーロン マスクが己で墓穴を掘っているからという理屈も成り立ちますしね。そもそもツイッターの買収で失敗してスペースXは打ち上げ失敗のポンコツ企業ですからね。まあ売上高はポンコツに反して上々のようですが。ポンコツ具合で言えばJAXA(宇宙航空研究開発機構)も引けを取っておりませんが。挙句には脆弱なコンピューターシステムでサイバーテロにやられて個人情報漏えいしちゃってますからね」


ほほう!


バカな高畑であるが饒舌で説得力のある野村のマシンガンのように捲し立てるビジネストークに圧倒される。


野村は間髪入れずビジネストークを続ける。


「まあ、今でしたら私は半導体産業の株をお勧めいたします。熊本に工場を構えた台湾のTSMCやアメリカで連日株価が高騰しているエヌビディアはまだまだ伸びしろがありますし新にーさの長期積み立てでも十分な含み益が出ると思いますわ」


高畑は野村の進言に心奪われるがここは己の胸中を申す次第である。


「じ、実は私コロナの変異株を買いたくて来たのですが。私が保有しているふぁいざーとモデルナの株が急落しているので新たな変異株でニューヨーク、ロンドン北京、香港、東京、ベルリン、パリ、その他多くの都市をパンデミックに陥れて持ち株のふぁいざーとモデルナの」株を高騰させたいのです。買った時よりも高騰すれば全株売りに出して利益確定万々歳という私もハッピー、製薬会社もハッピーというフィナーレを迎えたいのです」


野村は眉間に皺を寄せ「ハァー」と答え己の論を述べる。


しかし「貴方バカですか?」という私的な発言は溜飲を呑むように心の奥底に留めて発言する。


「お客様、そういうことでしたら私どもではなく中国の武漢に渡航して相談なされたらいかがでしょう」


野村は不快感を表に出さず冷静沈着に返答する。


バカじゃないの、この世にまたコロナウィルスを蔓延させるなんてという気持ちを押し殺して。


野村は顔立ちも綺麗だが心も美しい。


高畑は、そんな野村を差し置いて淡々と己の論を述べる。


「えっ、証券会社ならどんな株でも買えるんじゃないんですか?変異株も株って付いてるんですからっここでも買えるんでしょう。ここに500万あります。350万をコロナの変異株に費やして残りの150万で格安航空で全世界の主要地を飛び回るつもりです。そこで変異株をばら撒くつもりです。私はふぁいざーとモデルナの株主ですからふぁいざーとモデルナのワクチンを株主優待で3ヶ月に1回受けられますので(注釈、真っ赤な嘘)重症化するリスクはないでしょう、アハハハハァー」


野村はビジネススマイルを浮かべながら早く此奴こいつ死ねばいいのにという一瞥をくれていた…

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