疑われた14人の子ども達。

綾凪

疑われた14人の子ども達。

 ◯

 すみません、先生。貴方を殺したのは〇〇です。


 何処にでもある高校の、何処にでも居るような一人の女性教諭が亡くなった。疑いを掛けられたのは、嫌疑けんぎがかけられたのはその女性教諭が受け持っていたクラスの生徒14人。


 学校に訪れた一人の刑事。一人一人に事情聴取をした一部始終の記録である。

 それは、刑事ゆえ懐疑心かいぎしんか。はたまた一人の当事者としての猜疑心さいぎしんか。






 心は伝染るうつる。呪いのように…。




 ◯


 一人目 一【にのまえ】。

 なんだよ、いきなり生徒指導に呼ばれたかと思えば刑事さんとの面談なんて。

 まぁ確かにまずはお互いに自己紹介の必要があるのはわかった。俺は一"にのまえ"っていうんだ。変わってるだろ?そんなことより俺に聞きたいことがある?いいぜ話そう。

 けどさ、最初に教えてくれよ、さっきの話。うちの担任が亡くなったって。何があったんだ?俺は遊んでいただけだぜ。

 先生に拷問されたりもした。だからお返しに殺してやった。楽しかったよ。楽しくやってたよ。それはそれはな。




 二人目 二【ふたつじ】。

 始めまして、刑事さん。タバコの匂いが微かかすかに、僅かわずかにしますね。よく吸うんですか?タバコ。担任と同じタバコなんですね。

 でも校内は禁煙らしいので、極力控えたほうがいいですよ。

 先生たちうるさいから。

 あ、自己紹介が遅れました。僕、二って書いて”ふたつじ”って読むんです。よろしくお願いします。さっき、【一(にのまえ)】くんが呼ばれてて。多分、出席順で僕が来るだろうって思ってました。

 あの子よく人を殺しに行きますから・・・。その時だって4人で、殺しに来る担任から守り合って、やっとの思いで逃げてたんですから。ちょっとした思い出ですよ。




 三人目 三【みたび】。

 おっはつー!刑事さんだよね?教頭がさー、全員教室で待機って言うもんだから駄々こねたらさ、一【にのまえ】が生指に連れてかれちゃってさ、あいつまた問題・事件起こしやがったって噂してたら、まさかの【二(ふたつじ)】まで呼ばれてさ。

 戻ってきた時、聞いたら刑事が一人づつ、死んだ担任の事を聞き回ってるって言ってて、覚悟はしてたんだー。

 あ、俺”みたび”ってんだ。よろね!

 刑事さん。髪型、女の人みたいに長いなー。色も茶色?灰色?なんか担任みたいな色してんのな!こだわりあったみたいだし。

 あぁ、二人の"殺した"ってやつ?ありゃ本当だよ。俺、嘘つかないから!




 四人目 四【よも】。

 こんにちは、刑事さん。いや夕方だからこんばんわ、なのかな。全員呼ばれるまで帰っちゃだめって先生たちが言っていて…。え、僕の名前ですか?は、はい。”よも”っていいます。刑事さん、動悸どうきが激しいですね。泊まり合宿の時の担任とそっくりだ。先の三人からなにか言われたんですか?

 あの子達、よく人をもてあそぶから。

 担任もよく玩具おもちゃにしていたぐらいだったので。殺す・殺した、ですか。

 あぁ、担任の先生の亡くなった理由があの子達じゃないかと?それはないですよ、だってその話ゲームの事なので。担任の先生もやってたみたいで、いっつも四人で遊んでたんですよ。実際でもやってみたいよなって、【一(にのまえ)】が先生とにこやかに話しているのを見た時は少し笑っちゃいましたけどね。




 五人目  五【いつい】。

 貴方あなたが刑事さん?へぇ、かっこいいね。かっこいい人は好きよ。だって格好が良いもの。あと、担任の先生、あの人に凄く似ているわ。目元も、高い鼻も。そして、上唇うわくちびるを舐めるくせも。

 あら、気づいていなかったのね。いいと思う。私は好きよ。

 あ、また変な子が来たって思ってるよね。わかるわ。けどね、だけれどね。あたしのクラス大体が、いや大多数が変な子でおかしな子だと思うわ。名前も、そして人間性も…。

 そう、名前だわ。私の名前。五って書いてね”いつい”って読むの。あぁ、【四(よも)】に言われたのね、でも信じちゃだめよ。あの子クラス一の大嘘つきだから。それに、あたしもだけれど。皆、皆流されやすい子ばかりなの。そう、凄く。




 六人目 六【むい】。

 こんばんわ、刑事のおじちゃん!ん?だってもう夕方というより夜じゃない。周囲はもう真っ暗なんだぜ。

 お泊り合宿の時を思い出すぜ。あたしなんて呼べばいいかって?"むつ"っていうんだぜ。

 変わってるよね。でも何気気に入ってるんだよねー。

 あぁ先生が亡くなっちゃった話、聞いたよ。悲しいね。うん、すごく。特に【五(いつい)】はショックが大きいんじゃないかな。おじちゃん、【五(いつい)】に好かれたんじゃない?

 だって、まとう雰囲気っていうのかな。細かい仕草っていうのかな。なんか担任に似てるところがあるんだもん。




 七人目 七【なの】。

 初めまして!刑事さん。私、七って書いて"なの"って読むんだ。キラキラネームにも程があるよねー!

 先生が亡くなっちゃったのはびっくりしちゃったなー。

 ん?【五ーいついー】の事?あー、【六ーむい】から聞いたんだ。うんその通り。だって【五ーいついー】先生にガチ恋だったんだもん。まぁ先生に告って、振られていたから元も、こうも無いんだけれどね。

 『百合の気はあたしにはないの』って言われてて。そこから関わりも薄くなっていったみたいだし。

 泊まり合宿の時も、"一緒に寝てしまおうかしら"って言っちゃってはいたけれど、難しかったみたい。震えていたもん。




 八人目 八【わかつ】。

 刑事さんどうも。ぼ、僕は八の一文字で"わかつ"って読みます。ど、独特ですよね。あの…、先生がし、死んだって本当なんですか?あ、あの先生、綺麗で可愛くてすごく好きだったんです。あの髪を耳へかけるときに見えるうなじがすごく、なまかしくって目が合うたびにこ、興奮してました。

 ぼ、僕のものになってくれないかなって…。なのに、残念です…。うん、本当に…。泊まり合宿の時の私服の先生。す、凄い大人っぽくて忘れられないんですよ…。

 き、気持ち悪いとは思うんですけど、1ついいですか…。刑事さんって、とっても艶めかしいですよね。せ、先生が生き返ったみたい…。へ、ヘヘ。




 九人目 九【いちじく】。

 始めまして、刑事さん。先に言ってしまうわね。失礼を承知で言わせてもらうけれど。私、貴方のことが嫌いよ。生まれ変わりみたいに似ているもの。気味が悪いわ。

 あの担任教諭、死んでしまったのね。説明なんていらないわ。あのクラスでこの順まで待ちくたびれて、待ちぼうけを食らっていたもの。その間にも嫌な程、耳に入ってきたわ。死んでもなお、いや死んだからこそ噂になるのね。あーあ、本当に嫌になるわ。嫌いだったのかって?

 ええ、そうよ嫌いも嫌い。

 せいせいしたわ、だってあの人は私より。そう、"いちじく"よりも人気だったもの。あの子には感謝しているのよ。先導してくれたもの。いえ、どちらかというと"扇動せんどう"と言ったほうが的を得ているわね。他の子はどう思っているのか知るところでは無いのだけれどね。誰の事だって?いずれ話す事になるじゃない。【十(つなし)】から3人後にんあとにまわってくるだろうから。




 十人目 十【つなし】。

 刑事さん!先生は…、先生はどんな亡くなり方をしていたのですか!?他殺なのですか、自殺なのですか。どちらにせよなんで亡くならなきゃならないんですか!あの聖人君主の様な先生が…。す、すいません。挨拶から先ですね。つ、"つなし"と申します。

 は、はい。落ち着きます。

 なんで死んでしまったのだろう。私が復讐しなきゃ。犯人を教えてください。刑事さん…。あぁ、まだわかっていないから聞いているんですよね。すみません。いや、あの泊まり合宿の時に怪しい人なんて…。私は見ませんでしたけど。消灯時間すぐに眠ってしまったので。あ、でもやたら静かだったのような。耳鳴りが聞こえてくる程には。








 ー休憩ー。



 はぁ。

 深い溜め息もでるだろう。あぁ、でるだろうさ。そりゃ、そりゃあね。 精神病持ちの俺からすると、しんどい事この上ない。しかも病名は感応精神病かんおうせいしんびょう。関わっている周囲の人間の、妄想や考えなんてものに染まりやすいって奴だ。病状が酷ければ性格・人格が乗り移るってこともあるらしい。

 でも、普通は最も親しい人間で、尚且なおかつ1人。多くても2人からしか影響を受けないっていう限定的な関係上でのみ起こる病状なんだけど、俺はそうじゃなかったらしい。関わりが薄くても近くに居たり、話をするだけで僅かながらも思考が伝染る。それにエンパスって体質も相まって、周囲の殆どの奴にそれが起こる。だから大人数は苦手なんだ。思考が混ざるからな。

 頭の中を掻きかき回されて、かき乱されているような感覚になって吐き気をもよおす。ほんとひどい話でむごい人生だよ。


 


 死体、いや遺体から検出されたのは大量の咳止め薬の成分。一般で買える市販薬だ。調べでは体に残留ざんりゅうしている量と経過時間からの予測で15錠〜20錠程の量をったのだろうとの結果が出た。

 どちらかと言うと、盛られたと言った方が状況的にあってはいるが。

 規制はあるが、誰でも。そう、学生でも買える薬だからっていうのに加えて、泊まり合宿の時期と被るため今日、俺は此処ここに来ている。当然一人でな。普通、こうゆう事情聴取とか聞き込みっていうのは二人一組ツーマンセルで行うことが多い。だが、俺の性格上、格好良く行ってしまえば性質上、常に隣に同じ奴が居ると伝染ってしまって、仕事にならない。


 それに、普段、俺は、私は。現場での主な仕事は指揮。今回のような事情徴収はあまりしないし、避けていた。刑事になってまぁ長いけれど、ペンとノートは今だに必須だ。にしても、誰が犯人なのでしょう。


 まぁ全員から、歪んではいれど好かれていたみたいだし。居ないのかもな。


 

 





 

 

 11人目 壱壱【まりひと】。

 よぉ、刑事のおいちゃん。すげえ顔色してるぜ。どうしたんだよ。とんでもなく疲れたって顔してるぞ。てか、本当に男か?女に間違われること無いか?めっちゃ担任に似てるからさ。

 最近良く見間違われるって?まぁそうだろな~。

 にしてもクマもひでえし、タバコ臭え。亡くなる前のやつれた先生にすげぇ似てるわ。他の先生達に怒られるぞ。俺も前取り上げられたし。

 成人か未成年かの違いだろって?

 別にいいだろ。今すぐ体が悪くなるわけじゃねーんだから。ごめん、少し反抗的な態度で挨拶も忘れてた。俺、"まりひと"っていうんだ。漢字で壱壱だぜ?恥ずかしいったらねーよ。ベットでよくいじられてたよ担任からは。バレてからはあんまり関わらなくなったけど。でもあの泊まり合宿の時、酔ってたのか知らないけど、久々に絡んだな。

 あれは、酩酊めいていっていうより朦朧もうろうって感じだったな。あ、次は俺の彼女だろ?気をつけろよな。あれで気が強いから。そして何より策士だからな。怖い彼女だよ。




 12人目 壱弐月【しわすがみ】。

 始めまして、刑事さん。皆が盛り上がっていたからお話はわかります。亡くなった担任の先生のお話ですよね。自己紹介がまだでしたね。壱弐月と書いて"しわすがみ"といいます。はい、変わってますよね。あぁ、聞いたんですね。彼本人から。そうです。付き合ってますよ。【壱壱(まりひと)】とは。浮気をされた時、どうしても辛くってODオーバードーズをしちゃって…その時自傷した跡なんです。これ。

 そんなことより、クラスの子全員を疑ってるって本当ですか?い、いや。皆が、詳しく言ってしまうと。【九(いちじく)】と【十(つなし)】がそう言っていて。【一(にのまえ)】にも詰められたりしたので。あの子も乗り気だったのに…。学校に内のクラスしか残されて無いからって…。で、でも。このクラスの子達がするわけ無いと思うんです。


 だって、あの先生。担任の、あの人の子供もこのクラスに居るんですから…。




 13人目 十三重【とみえ】 。

 やぁ、叔父さん。久し振り。母さんの葬儀以来だね。うん、来るって言ったのは母さんから…。聞いてたから。


 先生は、俺らの母さんは多分自殺じゃないよね。だって、泊まり合宿終わってから家に帰ってこなくなって、学校でこん詰めてる訳でもなくて、父さんを病ませるほど家族をないがしろにすることのない母さんだったよ。それは叔父さんもわかるでしょ。


 なんだって、自分の姉なんだから。


 でも、叔父さん。口調が随分ずいぶん変わったな。まるで母さんみたいだ。あぁ、にしても昔からの病気は治ったの?感応精神病ってやつ。他人の気持ちが伝染るんだっけ。母さんが結婚して離れてからだいぶ男っぽくっていうのかな、叔父さんらしさ的な、自分を取り戻して病状は治まったって思ってたけど。

 また、母さんに似てきたと思うんだけど、葬儀の時に何かあった?あの病気って、亡くなった人からも影響あるの?あ、無いけど思い出すきっかけにはなり得るんだ。それなら戻っても不思議じゃないのか。だって、叔父さん病状と症状が酷かったし。

 でも俺からすると少し嬉しいかな。だって、亡くなった母さんと話せてる感覚になってるから少し新鮮だよ。

 



 14人目 七七【うるしち】。

 こんばんわ。叔父さん。随分と遅い時間になったね。皆に、そして兄さんに色々聞きたいこととか多くあったみたいだね。


 狂っていったのは母さんから…。だったのかもしれないね。


 だって、【壱壱(まりひと)】に彼女が居るってわかっていて関係をもったんだから。【壱弐月(しわすがみ)】が、けしかけるのも無理ないって気もしてたから、あの夜。泊まり合宿の時、止めなかったんだ。

 兄さんと僕は実の子供だから伏せられて、ハブられてはいたけど、知ってはいたよ。

 殺そうって話していたの。薬を粉状にして先生の水筒に混ぜたんだもの。ってはしゃいでいたし。あ、これはゲームの話じゃないよ。うん、あの子達の感覚はゲームに近かったんだと思うけど。だからお互い、全員狂っていったんだよ。


 叔父さん、嬉しそうだね。ん、わかるよ。だって口元ほころんでるよ。今のである程度、嗾けた生徒は浮かんできたみたいだね。なんか謎々の答えを見つけた子供みたいなはしゃぎが混ざった顔してる。思い出すなぁ、その笑い方。寝かしつける時、眠った振りをした僕を見抜いた時にする嫌な笑顔だ。



 捕まえられるといいね。母さん。







 以上であり、異常である。

 結論から言おう。この事件は、一人の担当刑事の隠蔽工作の末に解決を見ないまま流れることとなった。そして、2年後。

 疑いを向けられた14人の子ども達は、全員が18歳になり学校を卒業してすぐ。1ヶ月足らずで、それぞれ別件で問題・事件を起こし逮捕されることとなった。


 異常も異常。異様も異様。


 学校は、小さな14つの火種とそれから繋がる2年前の大火を世間から言及され廃校。

 捕まったかつて少年少女だった14人の成人は、『あの日から乗っ取られた。』『呪いだ。』と口をそろえて留置所りゅうちじょおびえ叫んでいたという。


 




 罪状。

 一人目 一【にのまえ】暴行。

 二人目 二【ふたつじ】窃盗。

 三人目 三【みたび】横領。

 四人目 四【よも】詐欺。

 五人目  五【いつい】売春。

 六人目 六【むい】放火。

 七人目 七【なの】器物損壊。

 八人目 八【わかつ】盗撮。

 九人目 九【いちじく】傷害。

 十人目 十【つなし】教唆。

 十一人目 壱壱【まりひと】強姦。

 主犯 十二人目 壱弐月【しわす がらみ】殺人。

 十三人目 十三重【とみえ】錯乱。

 十四人目 七七【うるしち】自殺。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

疑われた14人の子ども達。 綾凪 @yosugatari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画