第2話・口内炎も金になる
さて、どうしたものか。
結局俺はパーティを抜けることになった。
そりゃ断れないよ。ずっと黙ってたんだし。十割俺が悪いし。あーあ何にもなくなちゃった。これからどうしよ。
仕事探さなきゃな…仕事って言っても何すればいいんだよ。身分書ないし。何だよ転生者って。そりゃ転生してきたんだから身分なんてあるわけないよな。でも身分証明書くらいどうにかしろよ。詰んでんじゃん俺。
することもないので、この世界のハローワーク的な所に行ってみることにした。
「あの…仕事探しているんですけど」
「まず、身分証明書をご提示してください。ギルドライセンスでも大丈夫ですよ」
「どっちもないです」
「帰ってください」
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だめだった。後で少し詳しく聞いてみたが、何だか仕事をするにあたって労働組合みたいなやつに登録をしないといけないらしい。もちろんその作業には身分を証明するものが必要になってくる。あいにく身分証明書なるものは持ち合わせていなかった。
今度はギルドに行ってみることにした。もちろん冒険者になるつもりはない。口内炎を作るだけじゃ魔物は倒せないから。
「ギルドライセンスの発行ってできますかね?」
「できますよ。新規登録で発行しますか?」
「お願いします」
「わかりました。まずは身分証明書のご提示をお願いします」
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なんで身分証明書がないんだよ。作れよ。転生者だって人なんだぞ。
あのな、転生者の功績だとか,、どれだけすごいのかなんていうのは耳にタコができるほど聞いてきた。「現存のSランクパーティには少なくとも転生者が一人いる」だとか「転生者としてこの世界にきた時点で人生勝ち組になれる」とかあいつら根も葉もないこといいやがって。
でもな、この世には「口内炎をつくる魔法」だけをもらって生まれてくるやつも居るんだぞ。どんな奴だよ。
あーあ、終わった。異世界ドキドキハーレムライフできないじゃん。どうしてくれんだよ。女の子食べるどころか飯も食べれないよ。
腹減ったな…どうしよ…
ふと、冒険者だった頃に食べていたものを思い出した。拠点で栽培していたキャベツみたいな奴とケルベロスみたいに三叉に分かれたニンジンを使った、限りなくポトフに近い何か。ダンジョンの奥にいた鶏みたいな魔物を丸焼きにした奴。ミミックの舌を焼いた奴。
反射的に舌なめずりをする。
痛っ! 口内炎できてんじゃん…まともなもの食えてないからか…
「口内炎魔法」
治った…こういうときにだけ役に立つんだよな。
あれ? そういえば俺、他の人の口の中に口内炎をつくることができんだよな。逆に人の口内炎を治すこともできるのか? できるんだったら結構すごくね? この能力使えるかも…
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「あなたの口内炎を治します! どんな口内炎も治せます! 一回50Gです! 口内炎でお困りの方! 本当に口内炎治せます! 一回50Gです! お願いします!」
「一回50Gだって? お願いできるかな。」「本当に治せるの?」「私、口内炎二個できているんですよ。100Gでどっちもお願いできますか?」……
結構、需要あったみたい。
一時間でケルベロス人参100個分くらい儲かっている。
一応、牧師とかシスターとか回復魔法使える人たちは口内炎くらい治せるだろう。しかし、回復魔法は魔力消耗が激しく何日かに一回しか使えない。使ったとしても二、三日は寝込むことになる。そんな貴重なものを口内炎を治すために使おうとする輩なんていないだろう。
それに比べて、俺の口内炎魔法ほぼ魔力消費がゼロ。多分、三百年くらいなら一日分の魔力量で口内炎魔法を使い続けられる。破格の魔力効率だ。
だが、口内炎しか治せない。いやそれだけで十分じゃないか? 効率だけでいったら世界最高峰の回復魔術だろう。
やっぱり俺は転生者なんだと実感する。でもどうだろう? もし、回復魔術に特化した転生者がいたとしたら、そいつは俺と同じような効率でどんな病気も治せる魔法を持っているかもしれない。同じ転生者なのだから俺はその回復魔術に特化している奴に負けていても何らおかしくはない。
一旦、いるかどうかもわからない奴のことを考えるのはやめよう。俺はこれから口内炎の専門医としてその道では有名な名医となり、ワイン片手にケルベロス人参を齧るのだ。そんな日は遠くない。
ここ三日だけでも前職よりは稼げているのだ。今更どうということはない。
そう思いに耽りつつミミックの舌ステーキ専門店へと入っていく。
口内炎賢者は世界を救う @saigoku_gatetu
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