口内炎賢者は世界を救う

@saigoku_gatetu

第1話・口内炎の始まり

「俺たちのパーティから抜けてくれないか?」


 正直わかっていた。いつかはこうなるだろうと。ただ俺は現実から目を背けたかっただけなんだ。

 でもいざ面と向かってこうもハッキリと言われると少し心がキリキリする。


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 俺は半年の間「クロスロッド」というBランク冒険者パーティに所属している。

 パーティを構成するメンバーは勇者、戦士、魔法使い、賢者、といういかにもな面子だ。その中でも俺は魔法使いとして雇用されている。


 俺はこの世界で「転生者」と呼ばれている存在でもあった。その「転生者」というものは前世の記憶が残っていることが多いらしいのだが、俺はあまり残っていないタイプの「転生者」だったらしい。


 だからか俺の記憶は見知らぬ街の片隅で目を覚ますところから始まる。全裸だったことも覚えている。あのときは本当にまいった。


 確か俺はこの異世界の警察的存在である「オーダー」に連行され、牢獄にぶち込まれ、何日か拘束された。


 名前はよく覚えていないが俺のことを監視している職員の人が色々とこの世界について教えてくれたはずだ。


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「一目見ただけで君が転生者なんじゃないかってわかったよ

「だって立ち振る舞いがこの世界のそれじゃないんだもん

「安心して。僕たちは君が転生者だってことわかっているからね

「僕たちにはそれを保護する義務があるからね」


「……じゃあなんで僕は牢獄に入っているんですか」


「最近多いんだよね、なりすましが。そいつらはさぁ所謂、露出狂ってきな奴らで。自分から裸になってさ、しかもそれを合法にしようと転生者のふりをするんだ。まいったもんだよ。」


「……さっきから言っている転生者ってなんなんですか?」


 その職員の男はこの世界についてわかりやすく、より詳しく教えてくれた。まるでマニュアルでもあるかのように淡々と。

 その話はにわかにも信じがたいものではあったが、なんだか頭の中にすんなりと染み込んでそれが当たり前のことのように思えたのど、今考えても不思議なことである。


「まぁ簡単にこんなもんさ

「話を戻すけど、そうゆう不届者を見分けるために素性を洗いざらい調べるんだ。そういうのは魔法を使って調査するんだよね。だからね、君のこともちょっと調べてもらったんだ。だけども不思議なことになにも出てこなかったんだ

「それは君が転生者であるってことが大まかな原因なんだ

「同時に裏付にもなっているんだけどね

「僕がこの世界のことを洗いざらい説明してもいいのだけれど、僕の仕事は君を監視することだからね

「もうじき解放されるんじゃないかな? 多分、その後にこの世界についての説明会がはじまるだろうね

「そこでもう少し詳しくこの世界についての理解を深めるといいよ」


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 そして今に至る。

 説明会の内容がどんなものだったかあまり覚えていないが、トイレは水魔法を使って流さないといけないということを教えられたのが強く印象に残っている。

 あとは、この世界で「転生者」というのは最強の存在であるというのも覚えている。なんでも「転生者」は何かしらの魔法や強大な力を持って転生するらしい。

 俺はその「転生者」という肩書きを持ってBランクパーティのクロスロッドのメンバーに入れてもらったのだ。

 

 最初はメンバーのみんなにチヤホヤされた。「期待の新人!」だとか「転生者様にパーティ入りしてもらえるなんて光栄なんだろう!」とか色々言ってもらってた。

 そのときは、「俺はみんなの身体能力を2倍にできる魔法が使えるんだぜ!」とか言ってごまかしてた。

 みんなの士気も上がっていたし、A級クエストも楽々こなしていった。S級のクエストも何個かクリアしていった。でもそれはみんなの盛り上がりが落ち着くにつれB級クエストさえもクリアできなくなっていった。


 ある日、「なんでもいいから魔法を使ってくれないか?」と言われた。初級水魔術を披露した。あと、初級風魔法も。「いや、違くて。もっとなんかこう……すごいやつ」今度は初級炎魔法を使った。「…………いや」そこから2〜3分沈黙がながれた。

 白状した。沈黙が何よりも辛かった。自分には身体能力を強化する魔法なんて使えませんって言った。「いや、まぁ薄々気づいてはいたけどさ…一応、転生者なのは本当なんだろう?」頷いた。「じゃあ何かしらの特級魔法は使えんだろ?それを見せてくれよ」


「何かしたか?」

「自分の上唇を確認してみろよ」

「なんか痛いな…口内炎? これと魔法にどんな関係があるんだよ?」

「口内炎をつくる魔法なんだよ」


 ドン引いていた。周りの仲間も。本当にありえないくらいに。

 逃げた。気まず過ぎて逃げた。走ってどっか行った。多分そのときだけ身体能力が2倍くらいになっていたと思う。


 それが昨日の出来事である。

 今はちょうど拠点に戻ってきたところである。


「俺たちのパーティから抜けてくれないか?」


 返す言葉もない。

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