【短編】恋愛変電所

愛田 猛

短編


僕は、山奥を一人で歩いていた。

特に目的はない。


しいて言えば、道もろくにない山の中を歩いてみたかっただけだ。


高圧線の鉄塔が見える。

電線は、山の奥のほうから下の世界へと伸びている。


あれは、山奥のどこにつながっているのかな?



僕は単純に興味を持ち、電線をたどっていった。


すると、山の中に、不思議な建築物が現れた・


ピンクのハートの形をした建物だ。

メーターやスイッチが沢山ついている。


そこに多くの太い電線がつながっているのだ。


「これはいったい…」


僕が不思議に思い、口にすると、突然、目の前の空中に、羽の生えた半透明の女性が現れた。

大きさは30センチくらいで、光る羽で空を飛んでいる。


「あなたは?」

僕が尋ねると、


「私は、恋愛変電所の妖精です。」と答えられた。


「恋愛変電所?」僕が聞くと、


「はい、そうです。この建物は、『恋愛変電所』。そっして私は恋愛変電所の妖精です。」


僕は話を聞くことにした。

「恋愛変電所って何だい?」


「あなたは、変電所が恋愛と似ていると思ったことはありませんか?」


と、不思議なことを聞かれた。


僕が首を横に振ると、妖精は言う。

「変電所と恋愛は、一見すると全く関係のない二つのもののようですね。しかし、実はいくつかの共通点を見つけることができます。」



まったく意味がわからない。


「エネルギーの流れを考えてみてください。

変電所は、発電された電気を必要な場所へ送るために電圧を変換・制御する施設です。一方、恋愛においても、愛情や感情といったエネルギーが二人の間を流れ、関係を築き、育んでいきます。」


わかったようなわからなんような。


妖精は続ける。

「次に、複雑なシステムです。

変電所は、様々な機器が複雑に絡み合い、高度な技術によって運営されています。


恋愛もまた、二人の性格や価値観、過去などの様々な要素が複雑に絡み合い、時に摩擦や衝突を生み出すこともあります。」


それが何なんだ?


「変電所は、社会のインフラを支える重要な役割を担っています。停電が発生すれば、私たちの生活は大きく混乱してしまいます。


同様に、恋愛においても、パートナーは自分にとってかけがえのない存在であり、その存在を失うことは大きな痛手となります。」


うーん。電気とパートナーは同じくらい重要でかけがえのない役割があると。



妖精は続ける。

「そして、まるで芸術作品のような美しい変電所が出現しました。。。


この『恋愛変電所』はその一つです。でも、外見だけでなく、ちゃんと内面には変電所の機能を備えているのです。


恋愛においても、外見的な魅力だけでなく、内面の美しさや優しさに惹かれることも多いものです。」」


外見と内面の両方が大事?まあそれはなんでもそうだよね。



「一番大事なことは、『変化をもたらす』ということです。変電所は、電流、電圧の変化をもたらします。恋愛もまた、時間とともに関係性や感情は変化していくものです。互いを理解し、尊重し、共に成長していくことが大切です。」


うーん。



「ある工業デザイナーが、これらのコンセプトを具現化するため、こっそりとこの『恋愛変電所』を作りました。


電気技術者でもあった彼は、自分の開発した『恋愛変電所』を、自らの手で既存の変電所と入れ替えたのです。 幸いここは山の中なので、誰にも気づかれませんでした。」


まあ、見てる人はいないよな。


「彼は、この『恋愛変電所』を自分の工業デザイン作品の集大成と位置づけました。そして、世に問おうと思って、ふと気づきました。」


何をかな?


「山奥過ぎて、誰も気づかない、見に来ない、ということです。」


当たり前だよr。


「彼はそれに絶望し、恋愛変電所を破棄し、自ら命を絶ちました。そして、変電所と恋愛は似ている、という彼の強い思いが具現化したのが私なのです。」


破棄したのか…では、そこにあるものは…?



「私は、彼のメッセージをあなたに伝えました。私の役割は終わりです。 

いつか、恋愛のことを考えるときに、恋愛変電所を思い出してあげてください。」


そういうと妖精は消えた。


ふと気づくと、目の前には、何の変哲もない変電所があるだけだった。


僕はつぶやいた。


「変電所と恋愛を結びつけるのは、変でんしょ?」


「山田くん、座布団全部取っちゃって!」という妖精の声が聞こえたような気がした。



(完)

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