栗毛でアホ毛の私が幸せになる、男爵の娘のシンデレラストーリー
帝樹
第1話
「ねぇねぇ見てよ。あの娘、栗色の汚い髪の毛のあの娘」
「みすぼらしいったらないわね、アインホルン男爵のところの娘のハンナでしょ? どうして侯爵様はあんな底辺をこのパーティに招待なんてしたのかしらね」
また私をあざける声が聞こえてくる、いつもと同じだ。
栗色は汚いって言うけど私はそうは思わない。
みんな金色だったり赤色だったりで奇麗だけど、栗色だって奇麗だもん。
「それに見てよあのアホ毛。侯爵様のパーティーに来る自覚が足りていないんじゃない」
ドキッと自分の胸が鳴る音が聞こえる。
(アホ毛……直しても直してもでてくるから、私だって気にしているのに……)
昔からこの栗色の髪の毛とアホ毛の事で馬鹿にされるから、そんな陰口が聞こえてきても正直今さらなんとも思わない。
それに彼女たちは伯爵の娘、下手に睨みつけようものなら私の家が取り壊されてしまう。
私はその場から離れて屋敷内を見て回ることにした。
侯爵家の広大な屋敷に足を踏み入れて、まず目に飛び込んできたのは煌びやかなシャンデリアの光。
(やっぱり奇麗……お父様やお母様にも見せてあげたいな)
壁を見ると豪華なタペストリーと歴史ある絵画が飾られていて、それぞれが侯爵家の栄光を物語っているみたい。
でも、侯爵様たちは知っているのかな? 少し離れた領地では飢えて死ぬ子供だっていること。
「パーティーに来られて嬉しい、けど――なんか嘘みたい」
「噓みたい、とはどういう事なんだ? この絵画が噓だという事か?」
低く、柔らかく、耳に心地よい響きを持っている男の人の声が聞こえた瞬間、場の空気が一変したような気がした。
「え?」
「急にすまない。絵画を見つめていると思ったら、噓みたいだと言うので気になってな」
彼の姿はまるで彫刻のように完璧で、その美貌は一目で誰もが引き込まれると思う。
彼の髪は珍しい漆黒の絹のように艶やかで、緩やかな波打つカールが柔らかな光を受けて輝いて奇麗。
瞳は深い青色で、まるで澄んだ湖のように静かだけど、吸い込まれるような深さを持っている。
私は彼と視線が合っているだけで、心臓が一瞬止まるような感覚に襲われる。
「その……噓みたいって言ったのは……ここはきらびやかなパーティー会場だけど、世界はきらびやかじゃないな、って思ったんです」
「ほう、面白いな。少し話を聞かせてくれないか?」
まるで絵画から抜け出したような彼が、その手に持っているワインを一気に飲み干す。
「一つ問答をしよう。ある侯爵家は大層な金持ちだった。しかし、その領地では飢えで苦しむ人たちがいる。なぜ侯爵家は彼らを救わないのか?」
まるで私の心を見透かしているような彼は静かに続けた。
「さあ、想像してみてくれ。侯爵家には莫大な財産があるが、それを使って領民を救えば、侯爵家自身が困窮する可能性がある。逆に、財産を保ち続ければ、侯爵家は繁栄し続けるが、領民の苦しみは続く。侯爵家が資産を守り続けることで、将来の繁栄を約束するかもしれないが、今現在の苦しみを見過ごすことになる」
彼は一瞬間を置き、深い青色の瞳で私を見つめた。
「さて、君ならどうする? 今の苦しみを見過ごし、未来の繁栄を選ぶのか。それとも、今の苦しみを救うために、未来の繁栄を犠牲にするのか」
私は彼の問いかけに考え込んだ。
これは単なる二択以上の深い意味を持っている、そして彼の言葉には力があるのを感じる。
彼は優しく微笑み、続けた。
「選択には常に代償が伴う。それは一人の命を救うために五人を犠牲にするか、五人を救うために一人を犠牲にするかという問題と同じだ」
私は深く考え、答えを見つけるために自分の心と向き合った。
「なら私は六人を救いたい。今の苦しみを救わないと未来の繁栄はないと、二択でもなんでもなく新たな選択肢を模索し続けるのが良いと、私はそう思います」
彼は私の言葉に一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに柔らかな微笑みに変わった。
「申し遅れた、私の名はラインハルト・フリードリヒ・フォン・シュタウフェンベルク 。面白い発想をする君の名はなんという?」
彼の瞳には尊敬の色が見え、私はそのまっすぐな視線に胸が熱くなるのを感じた。
「わ、私はハンナ・アインホルンです」
私が名乗り終えると、どこかから彼と年が近そうな男の人が駆け寄ってきた。
「殿下! またこの様な所にお一人で、何度言わせるのですか!」
(殿下? え? 待って、ラインハルトって……もしかして帝国の漆黒帝!?)
私はその衝撃に一瞬言葉を失った。目の前にいるのは、まさかの帝国の漆黒帝――ラインハルト・フリードリヒ・フォン・シュタウフェンベルク。
栗毛でアホ毛の私が幸せになる、男爵の娘のシンデレラストーリー 帝樹 @taikihan
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