第2話 面接初日から実践研修

「改めまして、二人のこと聞かせてほしいな」


 なぜか互いに謎の履歴書交換した二人のアルバイト応募者と同じテーブル席に座ると、マオは2枚の履歴書を回収した。

 頬杖ついて眠たそうにあくびしながら話す本物の店長。小綺麗なワンピースとは対照的で彼女の髪は寝癖だらけ、来客に気づいたから慌てて服だけ着替えたのかもしれない。


「とりあえずそうだね、えっと……ルリちゃん」


「は、はい!」


 返事する声は少々上擦っていた。

 女子高生は自分のリュックを無意識で強く抱きしめており、表情も強張ってわかりやすく緊張してる。


「家近いんだね、しかも学校もうちと同じ区じゃん」


「はい! 家はすぐ隣の区です」


「通いやすそうでいいね……志望理由の『弟がかわいいから』って、えっと……どういうこと?」


 弟という言葉に触れた途端、目の前で緊張していた女子高生は態度を急変させた。


「はい!! 弟が可愛すぎるのでバイト代全額貢ぎたいですっ!!」


「えぇ……」


 さも当たり前のように満面の笑みを浮かべるルリに少し引き気味のマオとライト。


「あ、ウチ、弟いるんですけど、かわいいんで写真見ます!?」


 質問してる段階でルリはすでにスマホを取り出していた。ライトは横に座るルリのスマホ画面をチラッと覗いてみると、画像フォルダアプリの容量ゲージが赤く光っていた。


「(……!?!? 56983枚!?)」


 ルリの小さな体に潜む狂気がライトの頭に強烈なフックを喰らわせる。フォルダをスクロールしてるうちにライトは更なる恐怖な事実に気づいてしまう。

 ルリと弟のツーショットはほぼ無く、画像のほとんどがひどくブレていたり弟くんの寝顔や後ろ姿ばかり。 


「(コイツ、弟を盗撮してる? うわ、やべぇブラコン女だ)」


 ふと視線を上げると、対面に座るマオ店長が同じ青ざめた視線を送ってきた。2人とも同じ深淵を覗いてしまったらしい。


「どうしよう〜 どの写真も可愛くて選べない……あ、この間のお風呂上がりの──」


「えーーーっと、ルリちゃん? 弟くんの写真はま、また今度ってこと……」


「え、もういいんですか?」


「う、うん。次はライトくんの話聞こうかな」


 ルリは唇を尖らせて不満そうにスマホをリュックに仕舞う。

 ライトはルリの狂気を振り払うように一度大きく深呼吸すると、マオが質問する前に大声で話し始めた。


「それじゃっ、自分はライト! 歳は21、そんで無職!!」


「堂々とした自己紹介……あ、ありがとうね」


「(成人してるのに敬語も使えない無職……やばいタイプの大人だ)」

 

 ルリは静かに軽蔑した眼差しをライトに向けるが、本人は気づくことなく話し続ける。


「志望理由は単純明快、『ミックス災害』の調査ができるから!」


「……それはどうして?」


「俺には命を賭けてもやんなくちゃいけないことがある、だけどそれは独りじゃぁどうしようもねぇ」


 明るく話していたライトは突如顔つきを変え、両手は膝上に置き真剣で重みを感じさせる声色で続けた。


「俺は……過去の大型ミックス災害でを探して連れ戻す」


「え、でもそれって消えてなくないですか?」


「いいや、消えた。この目でハッキリと見た!」


「でもそれじゃなんでんですか?」


 ライトが話したことは常識から逸脱した内容だった。

 脳内で彼の発言を今まで学校で習った常識と照らし合わせようとした次の瞬間、店内に設置されてあった古びたテレビが突然起動した。

 3人が驚いて注目すると、テレビ画面は赤く点滅しながら災害情報をアナウンスし始める。


「──4区にてミックス災害現象が確認されました。警報が発令されている間、近隣住民の方々は決して近づかないでくださ──」


「4区って、ルリちゃんが住んでる区じゃ……」


 マオの言葉を聞いたライトは即座に視線をテレビからルリに戻した。


「この時間って下校時間だろ、アンタの弟とか大丈夫か?」


 そんな心配な声とは裏腹に、ルリの顔には焦りの色が全くない。


「ん? 何の話?」


「何の話って、今警報見たろ! 弟のこと心配じゃ──」


「弟って? 私はなんですけど」


「まさかっ!」


 ライトは慌ててルリのリュックを奪うと、中から彼女のスマホを取り出した。画像フォルダアプリを起動して確かめずにはいられなかっただろう。


「……一枚も、残ってない……」


 あれだけスマホのストレージを圧迫していた弟の写真は一枚も残ってなく、画像フォルダアプリの容量ゲージは空き容量満タンの緑のマークを無情に指し示す。

 ライトは目の前で起きた惨い現実に絶句する。


「ライトくん、君……」


「……」


「よし、バイトの初仕事をしてもらおっかな。もうこの眼で見ちゃったしね、弟くんの存在」


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