机上の空論からは逃れられない
……ええ、この状態が非常に悪いのはわかってるの。そもそもクーガーはどうしてこの部屋で面会するのよ!?
片付けられないって、あんなに訴えたのに。
――言い訳をさせてください。
まずパテット・アムニズが新作の執筆にとりかからなかったのよ。私は何かしらトリックのアイデアは思いついているんだろうと思ってたんだけど、あにはからんや!
全然、そういう状態じゃなかった。奴は「密室誕生」という言葉に惹かれていただけだったわ。
今はトウケンとつるんで、何かやってる……
「ねぇ」
私はアウローラに思い付きを確認してみる。
「あのトウケンってのに、
「そして、この部屋をますます散らかすのですね」
しまった。
私はまた愚かなことを……今は机上の空論を広げていられるような状況ではないというのに。その机上の空論すら完ぺきでは無かったというのに。
神聖国にちょっかいを出す計画は、私の調査不足で足踏み状態だ。
まさか海流なんてものが関係するなんてね。
でも、これは全くダメになったわけじゃない。季節が廻れば海流がいい感じになるらしいし、海流をものともしない大型船の存在も最近知った。
だから神聖国へのちょっかいは没になったわけじゃないんだけど……
問題はパテット・アムニズの新刊よね。
私は何故、パテット・アムニズが必ず新刊に取り掛かるなんてことを前提にしてしまったのか……
そんなこと誰も保証出来ないというのに。
私自身も「ラティオ」主宰として、急かすことはしたくない、という信条があるのに。
アハティンサル領を舞台にしたパテット・アムニズの新作で、観光客を呼び込む私の計画が!
それでアハティンサル領をなし崩しで王国に馴染ませようとしていた私の計画が!
……とにかく、この計画は変更を余儀なくされてしまったわ。
所属する作家に「書いてみないか?」と打診したところ、幸いなことにヒストリアから前向きな返事は貰えたのだけど。
それで当たり前の話だけど、あれこれと資料を要求されしまって。
この地方独特の――帝国も似たようなものかもしれないけど――家屋に関する資料をよこせと言ってきたのよね。
それで、あの時「タイシャ」に顔を知らない者が数人いたのだけれど、それが家を建てることを仕事にしているサジンという男だとわかったことは、望外の喜び――という事にしておこう。
このサジンの使う言葉が、まぁ癖が強くて。
通詞がいなくなって、サジンとの交流が基本筆談になってしまったのも想定外だった。
……それでまた机が埋まっていくわけで。
それに加えて殿下からは、何故か私宛に連絡が来たりしてるし。どうして私宛なのか? 助けを求めようにも妃殿下にはパテット・アムニズの新作の目途が立たないと、話を持って行くのも危険な気がするし。
「――お嬢様! 聞いてらっしゃいますか?」
はい聞いていません。
心の中で愚痴を吐き続けています。
整理を手伝ってくれているキンモルには悪いことしてると、そういう罪悪感はあるんだけどね。
あ、それはそっちに片付けないで。
……何よその顔は。クーガー野放しにしてたくせに。
「まず優先すべきは『ラティオ』の業務ですね。クランナに仕事をもっと降ればよろしいかと」
ぼやぼやと現実逃避していたら、アウローラが仕切り直しにかかった。
「……私、クランナはいなくなると思ってたんだけど」
「この際使える者は何でも使いましょう。いずれ決着をつけるとしても」
「じゃあ……ヒストリアと打ち合わせさせましょうか。なんにしてもこちらにヒストリアを取材させることになるわけだし」
「それがよろしいかと。お嬢様は新作の吟味だけをしていただければ十分なはずです」
それはまぁ……道理だ。
それで納得できたので、机の上のあれやこれやは半分は片付けることが出来るはず。
「あとはこちらで出版するための翻訳ですね。これはおいおい考えていくしないでしょう。まずは人材募集から」
半分も片付かないな。
「それと道路敷設の報告書。殿下からの通達、その返事がまだでございます」
……うう。実は永久に片付かないのでは?
おかしい。
私は今回の目標、クーガーの動きを読んだ計画を立てることが出来たはずなのに、その他が全く出来ていない。
どうしてこんなことに……クーガーを意識し過ぎたから?
前も、何だかとても恥ずかしいことをしてしまったような気はするけど――それはもう忘れたし。
だからやっぱり私の目標は変わらない。ここで投げ出したら、負けたみたいな気持ちになるし。
――今度こそ整合性のある、完璧な机上の空論を成し遂げてみせるわ!
Fin
目指すは完璧な机上の空論~せめて机上ぐらい完璧にしなさいよ~ 司弐紘 @gnoinori
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