第30話【朗報】新国王誕生!一件落着
カレーを使って商売をしてたら、兵士たちがやってきて根こそぎ持っていってしまった。
僕もゲンナリ、噂を聞いて買いに来ていた住民もゲンナリ。共同販売していた商人も売り上げを取られてゲンナリ。
「毎度毎度、あいつらは俺たちの成果を我が物顔で取り上げていきやがる」
「まぁ、そうカッカしなさんな」
「あんたは悔しくないのか? せっかくの儲けを邪魔されたんだぞ? 商売人としてのプライドはないのか?」
捲し立てる共同販売者。まぁ彼にはカレーに対して並々ならぬ夢を見ていたので仕方のないことだろう。
「もちろんあるさ。だが、あれは単独で食えば猛毒でもある。それは事前に話したろ?」
「知っている。このライスと合わせて完成するって話だ」
そう、今回は福神漬けと合わせず、ライスと合わせて解毒効果を持たせた。
フレッツェンではライスそのものが食べ物として認識されてなかったので、無理に販売しなかったが、ここゼラチナスでは米を使った料理がいくつかある。
その派生としてカレーライスの提供をした。
福神漬けと違って量を盛れる都合上、効果も薄く仕込めるというものだ。
猛毒であるカレーを僕が製作し、普通に米を炊いた彼が、僕から買い付けた『米をふっくら炊き上げる魔法の水『カレーの解毒剤』を投入してよくかき混ぜれば完成だ。
こうして僕らは街でカレーを販売しては懐を暖かくさせていた。
街の住人も、最初こそ食べなれないものに興味を示さなかったが、最初の売り場を酒場にしたら見事匂いに釣られて瞬く間にカレーの噂は広がった。
以降屋台をひっぱって大金をせしめている。
それを兵士に目をつけられて、根こそぎ持って行かれたというわけだ。
「そうだ。でも、城の連中はそれを知らない。持っていったのは猛毒だ」
「おい、それはそれでヤバいんじゃないか? 俺たちは国家転覆を図る犯罪者にされてしまうんじゃ?」
「そうはならないだろ。だって僕らはこれを美味しく食べてるんだぜ?」
「まぁ確かに」
「そして勇者様には猛毒から身を助けるマジックアイテムがある」
「それは本当か?」
「実際にフレッツェンから渡る際に乗せて食べさせたんだよ」
ライスなしで。
その話をしたら共同販売者の顔がみるみる青ざめていく。
「不敬じゃないのか?」
「他の冒険者と一緒さ。匂いに耐えきれずに、ぜひ食べさせてくれってお願いしてきてね。あいにくと出先で米の用意がなくて不安だったが、なんとかなった」
「そういう経緯か。やっぱり勇者様ともなれば毒にも耐性を持つんだろうか?」
「お仲間に聖女様もいたので、きっと毒を消す魔法とかあるんだと思う。詳しくはお尋ねしなかったけど」
「でもそれなら安心か。王族だって毒殺から身を守る魔法具くらい持ってるだろうしな」
「うん。まぁでも味見係は御愁傷様かな?」
「匂いに釣られて食っちゃう兵士もな。ザマァ見ろってんだ」
「そんなわけで、カレーはこれから作り続けるわけだけども。スタットさんはどう? まだ僕と一緒にカレー販売に協力してくれる?」
「こんな上手い話、早々切り捨てられるわけねーだろ。まだ出資分回収し切れてねーんだぞ?」
鋭い視線で、そう言い切られてしまった。商売人の目だ。
出資額以上に儲けなければ、転んでもタダでは起きない、そんな顔つきである。
「それはそう」
「それとあんたの博識っぷりにゃ頭が上がらねぇよ。俺たちの今まで直面してきた悩みを見事に解決しちまう手腕。俺はさ、カレー単品よりもあんたに出資してるんだぜ?」
「そうなのか? 照れる。今までそんなこと言われたこともなかったから」
「そりゃあ、周りの見る目がなかったからだ。御愁傷様だな」
やっぱり僕の技術は見る人が見れば一目瞭然なのだろう。
と、いうかダイゴやまさき達にも絶賛されていた。
ミオは甘味に釣られていたが、フレンダさんも同様だしな。
「そりゃどうも。じゃあ冬が明けるまでは一緒にやっていくとしよう」
「つれねぇな、春からも一緒に頑張ろうぜ」
「先約があるんだよね。僕ってば普段フレッツェンで店を構えてるから」
保護してくれてるフレンダさんは裏切れないからね。
メインはそっちで、ゼラチナスでの活動は冬場だけだ。
ちょっとした出稼ぎだよね。
ここの国に自由に出歩けるようになれば、もう少し珍しいデバフも獲得できるのではないか? という算段だ。
まぁ、耐性が獲得できなくても珍しい、人間らしい食事も楽しめるので趣味と実益を兼ねてってところだ。
学生勇者達もゼラチナス国にいい感情は抱いてないし、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い理論で考えがちだ。
なので僕がここで稼いで食べ歩くことで新しい知見を得る。
うーん、パーフェクト。
「獣人の国で、人間が?」
スタットさんは心底理解できないみたいな顔。
まぁ普通はそうなるよね。
仕事であの国の庭を通るだけで『キマリは通さない』みたいな顔されるから。
頭でっかちなんだよ。
自分ルールがいっぱいある系の堅物。
みんながみんなベアードほど自分のことを語らない系ではないと信じちゃいるが、ゼラチナス国民からしても似たような認識だったらしい。
「そう、この魔法の帽子をつけてれば、あっという間にあそこの住人だ」
僕は耳まですっぽり覆うタイプの猫耳バンドを取り出した。
スタットさんはそれを手にして弄ぶ。
「おっさんの俺がつけるのは憚れるな。こういうのはもう少し幼い女子供がつけるもんだぜ?」
「いや、まぁ率直な願望を言えばそうなんだが。向こうの認識は頭の上に耳を置いてるかどうかなんだよ。そして種族ごとに誇りを持っている。この耳をつけた猫人族は力はないが知恵が働くという特徴を持っていてね。カレーはフレッツェンの名物なんだ」
「その特性って、普通に人間そのものに当てはまるんじゃないのか?」
「だからそうだって。これを被ればフレッツェンを安全に渡れる。なんだったら命の保証までされる。カレーの販売者ってだけで英雄扱いだ」
「これだけ美味けりゃなぁ」
猫耳から話題をカレーにすげかえる。
これをつけて歩くのは正直勇気がいるが、カレーの利権は美味い。
そして一度その利権を知ってしまった後に、獣人刻とうまくやれる魔法の道具を持ち出されたら、首を盾に振る他なかった。
「まぁ、とは言っても食生が全く異なるので、向こうでの食べ方にまでは文句言えないけどね」
「あいつらは肉食だっけか」
「うん。カレーを臭み消しに使ってたね」
「もったいねぇな」
香りや複雑な味わい。それを楽しめもしないのか、と悔しがる。
まぁ向こうは嗅覚も良ければ猫舌だからね。
カレーも辛いよりは甘い方が好まれる。
こればかりは人によるとしか言えないさ。
「そう言わないの。むしろカレーの発明のおかげで猫人族の信用が上がったんだから。で、どう? これを買う?」
「ダース単位で買おうか! 従業員に全員装備させてやる!」
「毎度あり」
僕はしめしめという顔で大金を手に入れ、懐に仕舞い込む。
降り始める粉雪に、王城を見上げ。あいつらはうまくやっているかね、なんて要らぬ心配をした。
それからおおよそ二週間後。
僕はカレーの販売を完全にストックさんに明け渡し(カレーそのものの調整だけやって、他は丸投げ)て全く違う作業に追われていた。
「アキト! こっちも頼む!」
「はいよ!」
それが積もった雪を綺麗さっぱり消す魔法の薬品需要である。
ゼラチナスは盆地にあるが、割と大陸の端にあり、海も近く潮風が大量に流れ込んでくる。
ゼラチナス全土で雪の降る場所と降らない場所に差があって、王都は割と積もる方だった。
王族や貴族は魔法を使って自分たちのことはこなすが、一般市民や冒険者はそんな無駄なことに魔法を使う余裕がない。
ここでは生まれによって最大マジックパワーが違うらしい。
召喚勇者なんかは並外れて大きいのだとか。
ミオを見てる限りじゃすぐへばってたイメージしかなかったけど。
それよりもへバりやすいと聞いて妙に納得したものだ。
僕の仕事はスコップに吹きかける雪がくっつかなくなる魔法の塗料の開発だ。
現実世界でもある蝋を吹き付けて雪をくっつかなくするのと用法は同じ。
しかし材料が違うので僕のみしか扱えない。
うん、まぁ猛毒の類なんだけどね。
僕だけが素手でそれをマゼマゼできるという理由で、危険物扱いである。
「どこからどこまで?」
「ここからこっちまでだな」
異世界には屋根の上をガスの力で温めて溶かしたり、斜面をつけて落としたりなんかの技術がない。
多少斜めにしてはいるが、それは雨なんかを履ける程度で雪に対してまで機能しちゃいなかった。
今回僕が開発した魔法塗料は、塗ったところに微熱を加えるというものである。
与える期間はおおよそ一ヶ月。雪は積もれば脅威だが、つまらなければ雨と一緒だ。微熱なので太陽光ほど強くなく、けど寒さ対策になるのでたいへんもてはやされた。
なんだかんだ、フレッツェンでもこの塗料は売れる、という見込みがあるな。
雪のフレッツェンをまだ見てないのでなんとも言えないが。
それからだいたい一ヶ月。
雪が落ち着いてきた頃合い。
こりゃ塗料は売れないかな? なんて考えた頃に国から正式に発表があった。
随分と時間をかけたが、国が和解案でも出したのだろうか?
市井はその話題で持ちきりだった。
「おい、聞いたか?」
「聞いた聞いた」
「世界統一ってどっちの意味だと思う?」
「悪い方の意味だろうな。このタイミングでの発表だぜ?」
「言えてる。どうせ戦力が整ったって意味以外ないだろ」
「どうか城下町だけは戦場にしてくれるなよ」
「無理だろ、あのお姫様じゃぁな」
ある意味で信用がない。いや、悪い意味での信用しかないって感じか。
しかも今は冬季で他国への流通が完全に立たれている。
戦争を仕掛けるにせよ、なんにせよ。
国外逃亡を許さないタイミングであった。
しかし蓋を開ければ完全な和解方策。
なぜかスライムに取り憑かれていたライム姫を救出したダイゴはこう語る。
「この国は今まで魔王に操られていた。しかし俺たち勇者が召喚されたからには、魔王の支配は終わりを告げた! 今一度他国と手を取り合うことで、魔王からの支配を跳ね除けようと思う、協力してくれないか?」
と語る。
要はトップのすげ替えだ。
ライム姫と比べて、まだやんちゃしていない分ダイゴの言葉は一定数受け入れられたが、まだ疑心暗鬼な住民達。
それもそのはず、ダイゴ達は勇者としての成果をまだ一つも持っていなかったからだ。
「その暁には、国に蓄えていたカレーの販売も検討に入れている。否! これからの国民食だ! 祭日の日にはどこの店でもカレーを振る舞い、喜びを分かち合ってくれ! 以上だ」
カレー。
市井ではすっかり見慣れた食品だった。
作れば作るほど売れるという商品ではなかったが、季節を問わず食べられる人気もある。
それが国民食として認められる。
もう隠れて食べなくていいという感情は住民にとってプラスの方向に働いた。
そして冬が明けて春も中頃に差し掛かった頃。
ゼラチナスとフレッツェン、カースヴェルトの統一会議が行われた。
なぜかその会議にしれっと混ざる僕。
すごくいたたまれないんですけど。
まぁ、なんだ。僕のフレンドになったことで結ばれた平穏みたいなもんだしな。
ここにいる全員が、僕のフレンドだし。いるのは当然みたいな感じだよ。
兵士から「あいつは何者だ?」みたいに見られはしてるけどね。
それからは僕の口から語ることもないだろう。
三国は和平案を受け入れ、統一国家となった。
結局僕は何もしてないんじゃないかって?
バカだなぁ。僕の仕事は他人と他人の橋渡しさ。
そこから先はその人達の仕事に過ぎない。
人と人を繋ぐ。デバフの輪って感じ?
まぁ僕に主人公的な立ち回りを期待されるのも困るって話さ。
デバフ耐性で活躍できる話があるんなら、僕が聞いてみたいくらいさ。
と、どうやら僕の出番はこれで終わりというわけでもないらしい。
ダイゴに呼ばれてしまったからね。
全くあいつらと来たら、すぐに僕を頼るんだから。
それだけの信頼を築いてきた。
今までも、これからも。
そして築いた絆が大きくなって、僕は面倒ごとに巻き込まれるのだ。
そこ、自ら首を突っ込んでいるだろうだなんて野暮を言っちゃあ行けないよ。
なんだかんだで僕はそういう人間なのさ。
さて、もう一仕事しますか。
今日を生きるために。
明日をより良い生活とする為に。
僕は立ち上がり、ゼラチナス国に割り振られた自室を出る。
新しい門出だ。
僕は神聖ゼラチナス国の参謀となって若い彼らの相談役となった。
おしまい
「痛っ! おかーさーん」
獣人の子供がわんわん泣いている。見るからに転んで怪我をした様だ。そこへクマ耳をつけた少女が現れ、そこら辺に生えてる適当な葉っぱをちぎり、よくも煮込んでから傷口に当てた。
「うぇええーん」
余計染みるのか、鳴き声は大きくなるばかり。
これはやり方を間違ったか? 少女は懐から冊子を取り出して、何度も読み込んだページを開いた。
どうも選んだ葉っぱが違ったらしい。
再度当たりをつけて千切る。
千切る時の注意事項も書いてあったが、少女にとってはとっくに耐性獲得済みだった。
「これをこうやって、こうだ。どうだ?」
「! 痛くない」
「そりゃよかった」
「エミル!」
「あ! お母さん!」
母親から何度も頭を下げられ、熊耳の少女プーネはくすぐったそうに微笑んだ。
まだまだ自分はなんでも1人ではできない。
でも、この冊子に何度も助けられた。
「さて、出かけるか」
プーネは自分の伴侶を探す旅に出て数年経つ。
未だ求めた相手は見つからず、ちょっと理想が高すぎたんじゃないかと後悔していた。
得意料理がカレーで、薬学に精通していて、口の回る同胞。
そんな存在は三国を渡り歩いても見つかりはしなかった。
異世界ライフハック〜無能認定されたけど、デバフ耐性と自爆付き残機システムで生き残る。正気に戻した勇者まで仲間に引き込んで、隣国で悠々自適に暮らしてます。今更勇者達を返してくれと言われても、もう遅い!〜 双葉鳴 @mei-futaba
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