告白はチョコに怖さを添えて

 二月十四日、どこかの街にある高等学校。

 人気のない放課後の裏庭、寒空の下、佇む少女がひとり。

 紅潮した頬、繰り返される深呼吸に小刻みに震える肩、落ち着きなく擦り合わされるひざ。

 それは寒いからだけではない。

 ロケーションとシチュエーションから導き出される結論はひとつ、告白だろう。

 大切そうに胸に抱いている包みは、チョコレートか?

 傍から見ても伝わってくる緊張感。


 時間と場所は伝えてある。第一段階はクリアしてる。

 心配事はふたつ。

 来てくれるのか? そして、想いを受け取ってもらえるか?

 怖い。とっても怖い。

 たぶん、来てはもらえる。あの人はそう言う人だから。

 でも、想いに応えてくれるのかは――わからない。

 付き合っている人はいないって聞いた。

 好きな人がいるって話は聞いたことはない。

 でも、小耳にした彼女にするならってタイプに、自分は近いって思う。

 希望的観測、一方的な楽観。

 でも、ポジティブに考えないと、告白なんてできない。

 もう一度深呼吸。

 ポケットからスマホを出して時間を確かめる、指定時間まであと少し。

 校舎の裏口から現れる人影、男子生徒。

 彼だ。


 少女を認めた少年がまっすぐにやって来る。

 縮まるふたりの距離、高鳴る少女の鼓動。

 口を真一文字に結んだ少年、こちらにも緊張が見えた。

 人ひとり分の距離を開けて立ち止まる少年。彼へ来てくれたことの礼を告げる少女。

 言葉が続かず生まれる沈黙。

 少年が切り出す、どんな用なのかと?

 真っ直ぐ見つめる少年のまなざしに、勇気を出して手に持った包みを差し出し少女が告げる、自分の想いを。

 再びの沈黙。

 叶わなかったのかと少女の視界が涙に歪んだその時、少年のどこか照れたような声が届く。

 悲しみの涙が喜びに代わる。

 泣きじゃくる少女に、どう対応すればいいのかわからず、おろおろする少年。

 ひとつの恋が実る。

 

 末永くお幸せに。

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オムニバス シンカー・ワン @sinker

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