第23話 炎縫う剣技

 蒼い不死鳥が俺たちに向かって飛翔する。後もう少しでぶつかる。不死鳥の熱気が皮膚一枚隔てているだけに過ぎない距離に達した時に俺は死を覚悟した。


「ここまでか……」


 次の瞬間。ライラさんの脚から大量の風が噴出され高度が上昇し、方向も転換した。


「私はまだ諦めない……!」


 ギリギリまで引き付けていた不死鳥は急な方向転換ができずに民家の屋根へと激突した。燃え盛る民家の屋根。あそこの家の住人には気の毒だが助かった。まあ、あの攻撃は俺たちの攻撃じゃなくてエマの攻撃だから責任は全部あいつに押し付けよう。


「今の攻撃をかわすなんて……」


 エマは悔しそうに歯ぎしりしている。俺とライラさんはエマの前にふわっと降りた。エマはその場で動かない。どうやら観念した様子か?


「ふふふ。さすがはフライがやられるだけのことはあると言うことね。中々良いコンビネーションだよ」


 エマが指パッチンをする。すると後ろでごぉごぉと燃えていた炎たちが消える。民家の屋根も少し黒焦げた程度で済んだ。不死身の炎でもエマの任意のタイミングで消せるようだ。でなければ、炎を出し過ぎて無駄に魔力量を消耗することになるから当然とも言える。


「もう逃げないのか?」


「逃げる必要がなくなったんだよね。逃げながら戦って撒ける相手でないのなら、お前たちをここで殺さなければならない」


 エマの全身が蒼い炎に包まれる。自爆技というわけではないだろうな。恐らく、エマは自分の炎では焼かれないみたいな特殊なルールがあるんだろう。


「ブルーフレイムアーマー! 私のこの堅牢な守りを突破できるかな!」


「そのまんまなネーミングセンスだな」


「うっさいね! ほっといてよ!」


 ライラさんにネーミングセンスを突っ込まれて、エマは憤慨している。ただ、状況はそんなこと言っている場合ではなくて、絶対に消えない不死身の炎。それを纏われてしまってはこちらも対処のしようがない。


「ライラさん。どうしましょう。あの炎の鎧厄介ですよ」


「いや。そうでもない」


 ライラさんはその辺に落ちている石ころを拾った。そして、それをエマに向かって思い切り投げた。


「あだ!」


 炎を貫通して石がぶつかりエマはダメージを受ける。エマの炎が消えて、やつは頭を抑えながらライラさんを恨めしそうに見た。


「な、なにすんのっ!」


「いや、炎が邪魔だったから飛び道具で攻撃したまでだ」


「もう頭にきた! 今度はこの技で殺してやる! ブルーサン!」


 エマが両手を上げる。その両手の上に巨大な蒼い炎の球体ができはじめる。


「ふふふ。この蒼い太陽でお前たちを焼き尽くしてやる」


 蒼い炎の球体は徐々に大きくなってくる。あんな大きさの火の玉を受けたらひとたまりもない、今度こそ終わったか。


「そうか。えい」


 ライラさんはまた拾った石を投げる。両手を上げていて無防備な状態のエマの顔面に石がぶつかる。


「あだ!」


 エマは鼻から血を流して涙目になっている。両手をあげていたから顔を手で防御することもできずに、しかもダメージを負ったせいでブルーサンの発動がキャンセルされてしまったのか、ブルーサンは消えた。


「なあ、エマ。ハッキリ言ってやる。お前バカだろ」


「なっ……!」


 確かにさっきからライラさんに手玉に取られていてまるで頭が良さそうに見えない。やはり、戦闘において投石は基本。この戦法の強さを俺は思い知った。


 そもそもの話、炎で石を焼くことはできないわけで、そうなってくるとこの投石こそがエマを倒す手っ取り早い方法なのかもしれない。


「ひ、卑怯だよ! 石を投げてくるなんて! ちゃんと能力で戦え!」


「卑怯もなにもあるか。能力が割れているお前に対して、私がなんの対策も講じてないと思っていたのか?」


 確かにライラさんは手配書を見た時からエマの能力を知っていた。だから、あの時からエマの対処法を考えていたんだ。だから、こうしてすぐに実行できた。事前準備の強さ。これがプロの賞金稼ぎというものなのか!


「こ、こうなったら……投石だけで負けるわけにはいかない。蒼炎の拳!」


 エマの両手に炎が包まれる。またしてもまんまのネーミングセンス。その状態でエマはライラさんに向かって突進してきた。


「はいやー!」


 エマがライラさんに向かって攻撃を仕掛ける。速いパンチを繰り出して、ライラさんのボディを狙う。


「くっ……」


 ライラさんは腕でエマの攻撃をガードしようとする。しかし、蒼い炎がライラさんの腕を焼く。ガードしたライラさんの腕が燃える。


「あ、あ! あぢいい!」


 ライラさんの腕が炎に包まれて彼女はその場に転がりだした。炎を消そうと地面に炎をこすりつけようとするが、炎は一向に消える気配がない。


「あはははは! 無駄無駄! 私の能力は知っているでしょ。不死身の炎。そんな擦っただけで消えるような炎じゃない! アタシの炎は絶対に! 絶対に! ぜーったいにィ! 消えないの!」


 ライラさんの腕の炎が燃え広がっていく。まずい。このままじゃライラさんの全身に炎が回ってしまう。この炎を止めるためには……エマを倒すしかない。


「エマ! 俺が相手だ!」


 俺はレイピアを抜き取り、エマに向かってそれを向けた。


 エマの能力。それは想像以上にやばかった。一撃でも攻撃を食らえば永遠に炎上し続ける恐ろしい能力。


 攻撃をかわすしか方法がない。絶対に受け止めようなんて考えたらダメだ。


「アタシと戦うつもり? ふーん。いいけど。あんたもこの蒼炎の拳の餌食にしてやる!」


 一発でもパンチを食らったら終わり。そんな状況で戦いが始まった。エマが俺に向かってパンチを繰り出す。俺はエマの腹部を思い切り蹴って、やつと物理的な距離を取った。


「んぐ! 剣士なのに足技を使うなんて……! 随分と型破りな戦い方するじゃないの」


「別に俺は剣技系の能力を持っているわけじゃない。たまたま剣を使っているだけだ」


 蹴り技での不意打ち。無警戒だから一発入れて距離を取ることができたけど、二度目、三度目で通用するとは思えない。でも、今ので大体エマの攻撃の所作は大体わかった。恐らく次の攻撃の瞬間、そこで勝負はつく。一瞬で……!


「言っておくけど……私が最も得意とするのは格闘戦。この拳を使わせただけアンタらは十分強い。地獄でその戦歴を十分誇りな!」


 エマがステップを踏んで距離を一瞬で詰めてくる。集中しろ。俺の剣を信じるんだ――


「せいやああ!」


 俺は剣を振るった。その剣はエマの胸部を捉えていた。このまま突き刺す! そう思っていたら、エマの拳の炎が急にうねりだして動く。そして、俺のレイピアに炎が纏う。


「アンタのレイピアを熱でダメにしてやる」


「なに!」


 まずい。金属は高熱に当てられると強度が落ちる。その状態で衝撃が加わったら……!


 バキンと音がする。エマが俺のレイピアを殴った音だ。やつの狙いは俺本体じゃなかった。レイピアだった。レイピアを壊して俺の戦力を削るのが目的だった。


 終わった。俺はそう思った。だが、レイピアはエマの胸のど真ん中を貫いていた。


「うが……ぁあ……」


「あ、あれ?」


 俺は自分でも何が起きたかわからなかった。気づいたらエマはドサっと倒れていた。俺のレイピアはまるで無事だった。


 俺は恐るおそるレイピアを触ってみた。しかし、全く熱くない。まるで炎の隙間を通ったかのようにまるで熱の影響を受けていなかった。


「どういうことだ……?」


 エマの蒼炎の熱伝導が間に合わなかったのか? いや、考えてもわからない。俺そもそも、そんな理系みたいな頭脳してないし。


「はぁはぁ……ヴォイド君。助かった」


 エマを倒したことにより、ライラさんの蒼炎の炎が消えた。一方でエマの方を見てみる。まだピクピクと動いていて生きているようである。すごい生命力だ。

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魔力0の無能力者だけど周りからの評価だけは最強です 下垣 @vasita

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