第22話 蒼炎の不死鳥
翌朝、俺はライラさんと一緒に作戦会議をすることにした。
「さて、ヴォイド君。私たちの方針は2つに分けられる。1つは、敵の出方を待つか。それとも、こちらか仕掛けるか。きみはどっちが良いと思う?」
「それはこちらから仕掛ける方が良いでしょう」
「うん。それも1つの正解だ。基本的に攻める方と守る方では攻める方が有利だ。攻めは一点に戦力を集中できるが、守り側は攻め側がどこから攻めてくるかわからないから戦力が分散するデメリットがある。ただでさえ私たちは2人しかいない。戦力としては不安定すぎる」
「そうですね」
「でも、それは相手が予言の力を持っていない前提だ。もし、相手がこちらが攻めてくることを予知することができたら、相手はトラップを仕掛けることができる。ヴォイド君1人だけなら予知される心配はないが、私がいるからそこで相手に感づかれる可能性はある」
ベルナルドの能力。能力者の動きを予想し未来を当てる。それは、無能力者の俺の行動を読むことはできないが、能力者であるライラさんの能力は読み取ることができる。ライラさん経由で俺の行動がバレてしまう可能性は十分考えられる。
「それを踏まえて、考えてみてくれ。私は君の意思決定に従おう。私が意見を決めると、それは相手にバレてしまうことになる。指揮を取れるのはヴォイド君しかいない」
そう言われると急にプレッシャーを感じてきた。確かにライラさんの言うことは正しい。正直、作戦立案だけならばライラさんの方が上だろう。ダガ、ライラさんが決めた作戦だと敵に筒抜けになってしまう。だから、俺が状況に応じて適宜ライラさんに指示をしなければならない。
今思えば、盗賊団のボスであるアンディもベルナルドと同じ能力を持っていたと思う。もし、そうであるならば色々と説明がつく。やつがライラさんの行動だけ先読みできて、俺の行動がまるで読めなかった理由が。
ただ、俺が行動を起こしたことをきっかけにライラさんが行動を変えた場合、それはアンディも読むことはできなかった。ということは俺の行動が起点になれば、能力者の行動を読む能力は使い物にならないということになる。
今は俺の仲間はライラさんしかいない。もし、俺が今後仲間を引き連れて指揮するような立場になったら……そう考えるとベルナルドは俺が逃げたとして放置するとは思えない。
草の根分けて探し出してでも俺を殺そうとするはずだ。俺さえいなければベルナルドには天敵がいなくてなにも恐怖することはないのだから。
そう考えると逃げなくて正解だったかもしれない。ベルナルドには権力と人脈がある。それを駆使すれば俺が逃げ切るのは難しいのかもしれない。
「そうですね……個人的には敵の戦力を少しでも削っておきたいです。だから、こちらから攻めましょう。闇討ちして1人ずつ倒しましょう」
「闇討ちか……確かにやつらが1人になるタイミングを狙って攻撃するのはありだな」
「ライラさん。風の妖精で敵の動向を探ってください」
「わかった。1人になったやつを真っ先に倒しに行く。それで良いな」
「はい」
ライラさんが風の妖精を使って情報収取を開始した。これでしばらく待っていれば情報が手に入るはずだ。油断して仲間の元から外れた間抜けの情報が。
それからしばらく待っているとライラさんがニヤっと笑った。
「いたぞ。ヴォイド君。この近くに1人だけで行動しているやつが。蒼炎の不死鳥。エマだ」
「蒼炎の不死鳥。魔力切れにならない限り消えない不死身の炎を操る女でしたね」
「ああ。やつも中々の強敵だ。まあ、あの賞金首は全員強いから油断はできないが……」
「早速向かいましょう。敵に合流される前に」
「ああ」
◇
「ふんふんふーん」
マスクで顔を覆ったエマガ鼻唄混じりで買い物をしている。今はまだ人通りが多い。狙うにはまだ不適だ。
「あれも欲しいかなー」
エマが裏路地に入っていく。彼女も彼女で顔を隠しているとはいえ、賞金首だからできるだけ目立たないルートを選んでしまっているのだろう。
「ライラさん。行きましょう」
「ああ」
俺たちは裏路地に入っていくエマを追った。そして、俺はレイピアで思い切りエマに攻撃を仕掛ける」
「!!」
エマの背後を取っていたはず。しかし、攻撃の瞬間、エマに気づかれてレイピアでの一撃をかわされてしまった。その代わり、エマのマスクがレイピアによって斬れたので、やつの素顔は公然の元に晒されることになった。
「な、な。なんなの! なんなの!」
いきなり攻撃されてエマはパニックを起こしている。彼女の腕から蒼い炎がゴォオオと放たれる。この炎は絶対に消えない炎。出されたら……逃げるか避けるしかない。
「こんの!」
エマが蒼炎を俺に向かって放った。俺は跳躍してエマの攻撃をかわした。放たれた蒼炎は燃え盛り続けて消えることはない。エマはその蒼炎を自分のところに戻して炎の壁を作った。
「ア、アンタ! よく見たらヴォイドじゃないの! 一体どうしてアタシの場所がわかったの!? って今はそんなことはどうでも良い。あのお方に報告しなくては……」
エマは炎の壁を残したままダッシュでその場を逃げようとする。まずい。このままじゃエマを追うことができない。
「ヴォイド君。私の体に捕まれ」
「え? ああ、ど、どの辺に捕まれば……」
女性の体に捕まれといきなり言われても……女性の体を無遠慮に触るのは流石にセクハラにあたるので……
「どこでもいい! 時間がない。この際胸や尻を触らても不問とする!」
「え? ああ、じゃあ失礼します」
流石に本当に胸や尻を触るわけにはいかないのでそこを避けてライラさんの体に捕まった。俺が捕まったのを確認するとライラさんは脚に風を纏わせた。そして、その風がぶわっと打ちあがって上空へと飛んだ。
「わ、わああ!」
「しっかり捕まっていて。落ちたら回収できないから」
俺はしっかりとライラさんに捕まった。もう既に自分の身長の5倍以上の高さまで来ている。俺はできるだけ下を見ないようにした。
風と重力を感じながら俺は落ちていく。着地の瞬間、ライラさんの脚にふわっと風が舞う。無事に着地できた俺は心臓がバクバクと高鳴った。
「あ、ハァハァ……び、びっくりした。あそこまで高く跳ぶなんて」
「ヴォイド君。早くエマを追うぞ」
「あ、はい」
ライラさんがエマに向かって走り出した。俺も彼女についていこう。まだ生きた心地がしないけれど、とにかく走り出した。
「うげ! あいつら。あの炎の壁を越えてきたの!? なんてやつら……こうなったら、アタシも本気出して妨害するしかないね」
エマは蒼い火の玉をこちらに向けて放ってくる。
「ヴォイド君! 避けるんだ!」
「はい」
エマの炎は不死身の炎。消して対処することができない。だから攻撃されたら避けることしかできない。相手してみると中々に厄介な能力である。
「ええい! ちょこまかと! こうなったら……! ブルーフェニックス!」
エマが両手を広げた。するとエマが青い炎を纏う。その炎は鳥の形に形成されていく。頭と頭。腕と翼がそれぞれの部位に相当している。そして、その不死鳥の形をした炎はエマの体から切り離されて、羽ばたきだした。
「きゅえぇええええ!」
蒼い不死鳥が鳴き声をあげて俺たちに向かってくる。この不死鳥はかなり大きくて狭い路地裏では避けるのは困難である。
「ヴォイド君! 私に捕まれ」
「はい」
地上で避けられないなら上空で避けるしかない。俺はライラさんに捕まった。
「浮上!」
ライラさんが空を飛ぶ。だが……不死鳥は羽ばたいて高度を上昇させた。
「な、なに!」
ライラさんが驚く。不死鳥は俺たちを追尾している。まずい。このままだと命中する……!
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