美しい隣人

進学を機に一人暮らしを始める青年がアパートに引っ越してきた。

隣の部屋くらいは挨拶しておくかと思った青年はお菓子をもって隣人を訪ねる。

玄関チャイムを鳴らすと、中から出てきたのは綺麗な女性だった。


「こ、こんにちは。隣の部屋に住んでいるものです。良かったらこれどうぞ」


隣人の姿に緊張した青年の様子を見た隣人の女性は微笑み優しく挨拶を返した。


「ご丁寧にどうも。学生さん?」


「は、はい。近くの学校に……」


「そう、これからよろしくね?」


そういうと女性は部屋に戻っていった。反対の部屋への挨拶を忘れるほど浮足立った青年は部屋に戻り、これからの生活へ期待を膨らませていた。

その晩、妙に色気のある声が聞こえてきた。声の出どころは挨拶をしたほうの隣人の部屋だった。

青年の頭には女性の顔が浮かび、悶々とした気持ちを抱えたまま寝ずに夜を明かした。

翌朝、騒音の注意を建前に隣人の部屋を訪ねると出てきたのはあの女性ではなくガタイの良い男性だった。


(そりゃ結婚しててもおかしくないよな…)


勝手に期待して勝手に落ち込んだ青年を不思議そうに見る男が声をかける。


「うちに何か用か?」


「ああ、はい。昨日奥様にご挨拶に伺った隣の部屋のものです」


「ああお隣さん―――ん? 俺結婚してないぞ?」


「え? いや昨日綺麗な方が部屋から出てきましたけど……」


「ああ。そりゃ俺の姉だな。用があって昨日うちに来てたんだ」


「え!? じゃあ昨日の夜の声は―――」


「聞こえてたのか!? 恥ずかしいな、ありゃ俺の声だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

通学・通勤・スキマ時間に読むショートショート集 タカミー @takami7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ