思い出の一皿

色んな立場の人間がレストランに集まっている。彼らはテーマに沿った料理をそれぞれが提供する会を定期的に開いていた。

会場は毎回異なり、今回はメンバーの一人が経営するレストランにて行われている。


「悪いな、貸し切りにしてもらって……」


「構わないさ。場所を貸すだけで厨房を使うわけでもないし、何より俺も楽しみにしているからな」


メンバーの一人の言葉にレストランの店主が返す。

別のメンバーが待ちきれず料理の催促の声を上げると、それを聞いた店主は苦笑しメンバーが囲うテーブルの上に料理を出した。


「今回のテーマは思い出の一品。というわけで俺が提供するのはこの店のメニューの内、最初に決まった料理だ」


差し出された皿に感嘆の声が上がる。皆待ちきれないといった様子だ。

何人かが食べようとしていたのをスーツの男が止めた。男の胸には特徴的なバッジが付いている。彼は弁護士だった。


「おいおい。食べたい気持ちは十分わかるが、他の料理が並ぶのを待ってくれ。もちろん俺のもだ」


そう言うと弁護士がテーブルを離れ、料理を持ってきた。


「俺の思い出の料理は初めて勝った裁判の報酬で食ったスシだ! 思い出補正を抜きにしてもうまいと思うぜ」


弁護士の男を皮切りに準備していたメンバーが続々と料理をテーブルに並べる。

最後に料理を並べたのは船乗りの男だ。彼が出したのは見たことの無いスープ料理だった。


「これは一体何だい?」


店主が不思議そうに尋ねた。料理が本職の彼でもそのスープは見当のつかないものだった。


「これかい? これは昔新米だったころ先輩に食べさせてもらったものを再現したスープさ」


「ずいぶんとシンプルだね」


「ああ。これを食べたとき僕たちは遭難していてね。食料なんてまともに残ってなかったのさ。味は上等とはとても言えないけれど、思い出といったらこれしか思い浮かばなくてね」


会話をしながらスープをよそっていた船乗りが全員に配り終わったところで言った。


「さあ皆食べてみてくれ。これが僕の思い出の一品、船乗りのスープだ」


「具材はお肉かな? なんだか変わった味だ。何の肉だい?」


「もちろん船乗りだよ」

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