幼女魔王様のお世話係っ!!

デコポンJuice

魔族領改革編

第1話 幼女な魔王様

学校の帰り道。

いつものように近道して家に帰ろうとしていた、理人は見慣れぬ光景に驚きを隠せずにいた。

ただ、公園に足を踏み入れた瞬間に、眩しい光と魔法陣が瞬きをするときに見えたが、そんなこと今はどうでも良かった。


「ククク…よくぞ召喚に応じてくれた。さぁ、世界征服するぞよ!」


目の前には綺麗な銀髪と血のような紅い瞳が特徴的な、美少女?

いや、それよりも幼いから、美幼女か…

その美幼女が玉座に深く座り込み、いかにも"魔王"が言いそうな台詞を言ってふんぞり返っていた。


「……………………は?」


なんなんだ、コイツ?

世界征服ごっこでもするつもりか?

でも、周りをよく見ると、今まで見たこともないない装飾品やインテリアがあった。


例えるなら、異世界召喚系のアニメで見た魔王城の様な、そんな空間が広がっていた。


「おいっ!……聞いておるかや!?」


くっそ…

これが異世界召喚系ならロクでもない事が起きるぞ…

何とかここから逃げないと変に殺されるか、勇者とか言われて、よく知りもしない奴らのために命をかけなければならない。


「…おーい。聞こえおらぬのか?………無視なら許さぬからなっ!?」


「あぁっ!?うるせえなぁっ!!こっちは色々と考えてるんだよ!幼女は黙ってろっ!」


「あびゃっ!?……なっ、なな…んぐっ」


美幼女魔王様は初めて怒声を浴びせられて涙目になっていた。

今にも瞳から零れそうな涙を浮かべながら、何とか堪え、スカートの裾をギュッと強く握りしめて我慢してる様子は、小動物の様に見えて愛くるしかった。


だが、そんなことはつゆ知らず、理人は今だにこの状況を打破するため、考え込んでいた。


泣き出しそうになった美幼女に玉座の横に立って控えていた、黒髪の妖艶な格好をした紫の瞳が特徴的な女性が慌てふためいて、懐から渦巻いたアメを取り出していた。


「ま、魔王様ぁ!?どうか泣かないでくださいっ!…ほらっ、魔王様の大好きなグルグルしたキャンディーもありますからぁ~っ!!」


「我…泣いてないもん」


「そうですねっ!魔王様は泣いておりません!」


「…我、アイツ嫌い」


「そうですねっ!アイツ嫌いですね!」


「ひっぐ……んぐっ…………うまい」


ひとまず、大好きなキャンディーを口いっぱいに頬張りながら、魔王様は少しだけ笑顔を取り戻した。


「はぁ…貴方ねぇ、どう見ても小さい女の子にその言葉のかけ方は無いんじゃないの?」


理人に声をかけてきたのは、魔王軍最強の七つの大罪の一人。

【色欲のイルミード】

種族はサキュバスだが、強力な催眠系統の魔眼を持つため、初見だと何もできずに操られてしまう。


「………」


「聞いているのっ!?このっ、"今すぐにこちらを向きなさい!"」


イルミードは魔眼に少しだけ魔力を注ぎ込み、理人に命令を下した。

だけど、理人は微動だにせず、静かに顎に手を当てた。


「あら?どうして効かないのかしら…?。"今すぐに跪きなさい"!」


さらに魔眼に魔力を注ぎ込み、より強い命令を下した。

だが、理人は変わらずに顎に手を当てていた。


「なぁ、さっきから何やってるんだ?」


いきなり声をかけられた、イルミードは驚いて、肩を揺らしてしまう。


「っ…どうして私の魔眼が効かないのっ!?」


顎に当てていた手を腰に移動させて、不敵に笑う理人。


「さぁな?…だけど、この状況を察するに俺は魔王様とやらに召喚されたんだろ?」


「それになんの関係があるのよ!」


「分からないのか?魔王に直接召喚された奴に、魔王の部下でしかない奴が命令を下せるのかってことだよ」


「何が言いたいのよ…」


イルミードは突然強者の雰囲気を漂わせる理人に対して強い警戒心を抱いていた。


「これでも分からないのか…。つまり、俺に直接命令を下せるのは魔王だけだ。まぁ、言う事を聞くつもりは無いけどな?」


「ふん…それなら直接魔王様に命令させれば良いだけじゃない!魔王様、是非その野蛮人にご命令を!」


「…うまうま。へっ?命令って?」


魔王様はキャンディーに夢中で話を聞いてなかった。

それを見たイルミードは項垂れた。


「あぁぁ……魔王様ぁ~…」


「まぁ、それは置いていてだ。何で俺を召喚した?理由を教えてくれ」


「はぁ…それもそうね」


イルミードは姿勢を正して、静かに事の流れを説明してくれた。

簡単にまとめると、王国と帝国が同盟を組んで、魔族領に攻めてくるらしい。


世界の常識では、魔物が人を襲うのは魔族が操ってるから、大元の魔王を滅ぼせば世界が平和になると考えているらしい。

だけど、それは間違いで、魔族は特に魔物を操ってるわけでもなく、創造してるわけではない。

人族の家畜や野生動物たちと同じで、ただ普通に生きている野生の魔物なのだ。


先代の魔王は和平を望んで、王国と帝国に使者を送ったが、誰も帰ってこぞ、嬲り殺しにされたらしい。

それがきっかけで魔王は、人族同盟軍と激しい戦いを繰り広げた末亡くなった。


これまで、一人で魔族領を守ってきた先代魔王の死は、幅広くに影響を及ぼした。

各七つ大罪はバラバラになり、残っているのは"色欲のイルミード"のみ。

そんな状態で他の魔族達の統制ができる訳もなく、溜まりに溜まった不満が爆発した魔族達は王国や帝国に何ふり構わずに身を投じた。


今では実力者も少ない魔族領を攻め込まれたら、全滅してしまう。

そこで、王国の"勇者召喚陣"を密かに解析して、魔族領側の勇者を呼んで対抗しようとした結果、召喚されたのが太刀川理人だった。


「なるほどな…言いたいことは分かったけど。俺が戦う理由にはならないよな?魔王様」


「…でも、お父様も亡くなって、我はどうすれば良いか分からなかった。王国のように逞しい勇者がいるのなら、正義の味方なら、我たちの味方をしてくれても良いではないかっ!」


黙って理人は魔王の話を聞き続けた。


「我達が何をしたというのだっ!なにもしておらん…何もしておらんのにっ…。あ奴らは、和平を望んだお父様を殺したにも関わらず、さらにお父様が愛したこの国を滅ぼそうと言うのだぞ?だから、我は世界を征服するのだっ!」


「ふーん…だから、お前も同じように人間を嬲り殺すのか?それが世界を征服するってことだよな?」


「そうだっ!!我は人間が憎いっ! あ奴らも同じように辛い思いを味わえば良いのだっ!」


「復讐のための勇者召喚か…ははっ」


何がおかしいのか理人は笑い出した。


「何で笑うのだ?我は本気だっ!!馬鹿にするでないっ!」


高笑いを続ける理人。


「はははははっ…。はぁ、悪い悪い。別に馬鹿にしてたわけじゃねーよ。復讐?上等じゃん。世界をを救ってくれって言われるより面白いわ」


「ぇ?……良いのか?我は世界を滅ぼすのだぞ?」


「良いよ。下手に正義を振りかざすより好きだね。それより、お前の名前を教えてくれよ、魔王様」


理人は魔王の頬に伝う涙を指で掬って、笑みを浮かべた。


「我は…。我は"魔王ラプラス"だ。ラプラス・アルザリオン」


「俺は、太刀川 理人だ。リヒトで良い。よろしくな、ラプラス」


「うむっ!苦しゅうないぞよ!」


とびきりの笑顔を浮かべたラプラスは傍から見たら普通の可愛い女の子だった。

だけど、この子が抱えるには大きすぎる絶望と悲しみがあると思うと何とかしてやりたい気持ちになった。


そうだな…まずは何をしようかね?


一先ずは魔族共を統括、もといこの魔族領の改革を始めようか。


だけど、勇者召喚っていうからには俺にも何か能力はあるよな??

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