短冊に向日葵の願いを込めて
菜乃花 月
短冊に向日葵の願いを込めて
「短冊に向日葵の願いを込めて」
※こちらは台本ではなくお手紙みたいなものですが、一人読みをしたりなどは問題ありません。
―本編―
あの日から何度、空を見上げたんだろう。
かっこよくて、大好きで、憧れで、私の太陽みたいな人。
でも、そんな彼女はもういない。
桜の季節になるといつもあなたを思い出す。
いや、嘘だ。ずっと、ずっと私の中から消えない。
猫を見る度に、
制服に袖を通すたびに、
甘いお菓子を食べる度に、
あなたと一緒にいたあの時間を思い出しては、寂しくなる。
隣を見てはひとりだと実感するのを何度も繰り返している私を見たらあなたは困った顔をするだろうか。してるんだろうな。
子供たちの笑い声が響く公園。
学校帰りの私に挨拶をしてくれる警察官。
こんなに平和なのに、どこか物足りないと思ってしまうのも全部あなたのせいだ。
あなたがいない。それだけでキラキラが足りないように思ってしまうくらい大好きだった。
あなたがいなくなってから四度目の夏。
もうすでに散ってしまった桜の木は緑色の葉っぱで覆われている。
葉の隙間から覗く太陽が眩しい。
あの時、制服を着ていた少女はもう少しで制服を脱ぎ捨て大人に近づく。
それなのに気持ちは子供のままだ。
あんなに大人に憧れていたのに、子供の証明であるこの制服を脱ぎたくないと思う。
それでも時間は私のわがままなんかを聞かずに流れていく。
学校で七夕の願い事を書くことになった。
「大学受験に合格しますように」
「イケメンの彼氏ができますように」
そんな年相応の願いが次々と笹に繋げられていく。人間の欲望で彩られた笹は何を思うんだろう。
私は薄ピンクの短冊を手に取り、迷わずに願いを書いた。
「いつか、また逢えますように」
と。
叶わないってわかってる。叶ってしまったらいけないこともわかってる。
それでも願わずにはいられなかった。
何度季節が巡っても空いた穴は塞がらない。
でも現実は残酷で、あなたの声がぼやけ始めている。そんな自分が嫌だった。
溢れそうになる気持ちをぐっと堪え、短冊を高い場所にかけて外に出た。
青い空と眩しい太陽が私を出迎える。少し目を細めながら空を見上げる。
「凛桜さん。まだ逢いたいって願う私はわがままですかね。
すぐ空を見上げちゃう私は変ですかね。だって、向日葵は太陽の方を向くんですよ。だから私は太陽を探しちゃうんです。何年も、何年も」
終わり
短冊に向日葵の願いを込めて 菜乃花 月 @nanohana18
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます