第38話 最凶アルテミス

 ———おかしい……俺の家とレイゼの屋敷の距離はそこまで離れていないはずだ。

 なのに、なぜこれほど到着が遅いのだろう。


 あぁ、そうか……なるほどね。

 これはあれだ。



 ———死ぬ間際、物凄く時間がゆっくり流れていく……所謂走馬灯をみている時と一緒だ。



 てことは今、俺の身に死が直ぐそこまで迫ってるってことぉ!?

 確かに後ろから殺気が———。


「逃げるな小童ぁああああああああッッ!!」 

「あああやばいやばいアルテミス様アルテミス様アルテミス様ああああああああああ!!」


 嘘だろ!?

 アイツの攻撃が始まると同時に飛び出したんだけど!?


 そう内心喚き散らしながらも、もう怖くて後ろも見れない。

 多分後ろ見た瞬間に捕まる気がする。


 俺の全速力で倒壊した建物を時に超え、時に破壊して駆ける。

 何か全身がミシミシと悲鳴を上げてる気がするけど、今は気にしてる暇はない。

 

「小童ぁああああああ!! 死にたくなければ今すぐに止まるんじゃ!!」

「嫌だよ!? どうせ止まったって性的に襲われて死ぬじゃん! 俺にだって初めての相手を選ぶ権利くらいはあるんだよ!! 俺は面倒なの!」


 そんな押し問答を繰り返している内に、遂に俺の家が視界に入る。

 アルテミスのお陰で、俺の家だけ1つも傷付くことなく建っていた。


 いつもなら安堵する場面だが……今はそんなことを悠長に言う余裕は俺にはないの!


「アルテミーース!! 助けてアルテミ———うぎゃっ!?」


 俺が大声で叫んでいると、突然足が動かなくなり視界がブレる。

 直後、鈍い痛みが全身を駆け巡り……自分がぶっ倒れたことに気付く。

 驚いて下を見れば……俺の足が両方とも膝辺りまで凍り付いていた。

 相手は直ぐに分かった。


「おい、ただでさえただの人間で、魔法も使えない俺に英霊のお前が魔法を使うのはズルいだろ!!」

「妾との約束を破って逃げた小童の分際で何を言っているのじゃ! さぁ……あそこに比較的倒壊していない家がある。そこで死ぬまで妾を楽しませるのじゃ」


 俺が後ろを振り返ってキッと睨めば、憤怒にキリキリと眉を上げたフリルレルが俺の家ではなくその近くにあった、屋根が多少崩れているかな、程度の家を指差す。

 フリルレルに完全に身体を掴まれた俺は、万事休すか……と諦めそうになったその時。





「———おやおや……この私のレイトをどこに連れて行こうとしているのか、聞いてもいいかい?」





 口調こそ普段通りながら、物凄く整った顔から感情という感情を抜き取ったかのような……まさしく人形のように無機質な顔を向け、絶対零度の底冷えする冷酷な瞳をフリルレルに向けていた。








「———あ、アルテミーーーース!! 遅いよぉ! マジで遅すぎるよぉ! 怖かったんだよぉ! ほんと、どんな死に方より怖かったかもしれない!」


 未だフリルレルに掴まれたままの俺だが、味方のラスボスが目の前にいるという圧倒的安心感にポロポロ涙を流しながらアルテミスへと手を伸ばす。

 そんな俺に、アルテミスが子供をあやすかのような聖母の笑みを浮かべると。


「ごめんごめん、ちょっと手加減してたら時間が掛かってね」

「もう何でも良いよ! 家も守ってくれてありがとう! ついでに俺の貞操も守ってくれると大変助かります!」

「うんうん、直ぐに助けてあげるからね」


 そんな、頼もしい言葉を授けてくれる。

 その瞬間、今までの人生で1番ラスボスが味方で良かったと思ったかもしれない。


 しかし———フリルレルがそう簡単に返してくれるわけなく……警戒の色を宿した瞳をアルテミスに飛ばして言った。


「妾ですら無視できぬ殺気……汝は何者じゃ?」

「今の今までレイトが叫んでいたじゃないか。———アルテミス、って。君は私の大切なレイトを泣かせたんだ。ただで返すわけにはいかない」


 アルテミスが言葉を発した瞬間———彼女の身体にジャストフィットした純白のバトルスーツは首の付け根までを覆う。

 また、バトルスーツの表面を下から上へと幾つもの光が電子回路を通るように移動したかと思えば、彼女の背中側に金属の翼のようなモノと、幾つもの丸い球体のようなモノが顕現した。

 最後に彼女の片目から光が溢れ出し、幾何学的な光の集合体が浮かび上がった。



 ———だ、第2形態だ……!!

 

 

 呆気に取られるフリルレルを他所に、俺は目を輝かせる。


 男が絶対に好きな科学の結晶たるバトルスーツ。

背中に浮遊するゴツい翼のような部分に、光線を発射する球体。

 絶えず表面の電子回路を流れ続けるエネルギー。

 瞳に浮かび上がる幾何学模様の光の集合体。

 

 これだけでも十分浪漫に溢れているが……思い出して欲しい。

 今、バトルスーツは誰が着ているのか?



 ———そう、ボン・キュッ・ボンのアルテミスである。

 

 

 ついさっきまで貞操が危うい恐怖で何とも思わなかったフリルレルの抜群なプロポーションをも凌駕する圧倒的エロさ。

 普通にエグい。

 フリルレルみたいなビッチを遥かに超える超絶ド淫乱に貞操を奪われるのは死んでも嫌だが、この状態のアルテミスになら奪われてみたいかもしれない……ってそんなことどうでもいいわ!!


 俺は途端にフリルレルの拘束から逃げようと藻掻く。

 なぜこれほどまでに焦っているかと言うと。





「【灰燼に帰す破滅の光レイ・オブ・デストラクション】」





 アルテミスの攻撃範囲から逃れるためである。


 彼女から放たれた視界いっぱいを埋め尽くす眩い光の暴威に———俺はフリルレルと共に飲み込まれた。

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