第8話:笑えなくなったときに見る夢
妄想することがある。もしかすると、寝ている時の夢の中でも同じようなことを考えているのかもしれない。
心が弱っている時に、私はやってしまうことがある。
心の中を吐露したい。誰かに話したい。書きたい。残したい。
お腹の中の靄を、お酒で飲み下すことができない日もある。そんな日の話だ。
世の中には正論が溢れている。常識が溢れている。笑顔が溢れている。
書店に並ぶ自己啓発本は力強い言葉で背中を押すし、精神科の先生は叱りをもって鼓舞する。
珈琲の香りは心を癒やす。他にも好きな香水の匂いがある人もいるだろうし、花の匂いが好きな人もいるだろう。
落ち着いた音楽を聞いて心を癒やすのもいい。森の中で、海の側、川の側で耳をすますのもいい。
少し暗がりの部屋にして、布団にくるまってアイマスクをして、ゆっくり眠るのもいいだろう。
精神安定剤が効く人もいる。睡眠導入剤で眠れる人もいる。
いろいろな方法がある。それらをすべて試した後で、それらすべてが効かなくなったとき、ふと思う。
「私が最後に笑ったのはいつだろう。」
どんどん自分の中で感情が無くなっていく。欲も無くなっていく。
老化って言われたらそれまでだけど、いやそのとおりなのだろうか。ただ、どうしようもない葛藤だけが残る。その葛藤は人には伝わりにくい。
そう言えば最近は、尾崎豊の「15の夜」の歌詞の意味が分からないという話を聞いた。
なぜ歌詞の中の主人公は、盗んだバイクで走り出したのだろう。しかも聞くところによると、盗んだバイクは今で言うスクーターみたいなものらしい。かっこいいゴツい中型バイクとかではない。
主人公はどうしてそんな葛藤をしたのだろうか。そして当時の人はそんな歌詞に共感したのだろうか。
私は自分の葛藤の共感者がほしいのだ。こうやって文章に残したり、SNSに書き残したり、人に話したりするのは、共感者が欲しいのだ。
理解できなくてもいい。知ってほしいだけ以上の何か。少しでも相手の心を揺らせればいいと思っているのだろう。
私は名曲を書けるわけではない。名文を書けるわけではない。多くの共感者が得られるわけがない。
でも、誰か一人でも。その一人が私の文章に反応しなくてもいいから。共感してくれると嬉しい。
私は夢を見る。妄想する。この世界の誰かがどこかで共感してくれるかもしれない。
そう思って、少しだけ笑うのだ。
昼間に見る夢 ゲレの工房 @gelehrte
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