第16話(最終話)卒業

 ――三月。

 アタシたち六年一組の、卒業式の日。

 安倍あべくんも渡辺わたなべくんもいい笑顔だった。

 鬼丸おにまるくんは感極まって泣いている。

 アタシはお父さんお母さんと校門で写真を撮ったあと、「先生にあいさつしてくる!」と保健室に向かった。

「こころちゃん、卒業おめでとう」

 保健室で、曜子ようこ先生はいつもと変わらない優しい笑みを浮かべている。

 保健室の片隅には、ケージに入れられた黒猫がしょんぼりとしていた。

 言うまでもなく、チェシャ猫である。

 オオマガツを封印したブレスレットは、火で焼いて水で流したあと、土に埋めた。

 おそらく、あの『厄災落とし』のときにアタシの口から勝手に出てきたセリフは、『厄災』の処理方法について語っていたことなのだろう。

「万が一封印が破られたら、あのブレスレットで『厄災落とし』をしてくれる人間を待つしかなかったのでしょうね」

 あの『厄災の箱』を使って、オオマガツを封印したのは、百年前の大正時代のこと、安倍晴明あべのせいめいの血を引く、とある陰陽師だったという。

 ただ、その場では封印するだけで精いっぱいだったらしい。

 だから、当時は『厄災落とし』ができず、女性のみが使える『厄災落とし』の手段を『厄災の箱』に未来の人間への最後の『希望』として詰めた。

 そして、その箱は時代を経て、王馬おうま小学校で管理されることとなったのだと。

 そういうことらしい。

 もしかしたら、あのブレスレットには『厄災落としの巫女』の魂が封印されていたかもしれないとも。

 とにかく、これで、王馬小学校の、ひいてはこの街の危機も去ったのだ。

「曜子先生、これからも、ときどき小学校に遊びに来てもいいですか?」

「もちろん。私はこれからも、この学校で保健室の先生をしているから」

 アタシは、思わず先生に抱きついた。

 曜子先生も、そっと抱きしめ返してくれたのだ。

「先生、さようなら」

「こころちゃん、さようなら」

 校舎を出て振り返ると、仲良くなったオバケたちが窓から手を振っているのが見える。

 アタシは大きく手を振り返し、舞い散る桜の中、王馬小学校をあとにしたのだった。


〈了〉

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保健室の曜子先生 笑う猫とオバケの鍵 永久保セツナ @0922

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