第25話 とあるおっさんと魔法少女達とその顛末

 某日。


「おっさん、砂糖ってこれくらいでいいのー?」


「くらいというか……九十グラムです」


「九十グラムってどれくらい?」


「こちらの計量器を使ってくださいね」


 結菜と和夫は、和夫の家でケーキ作りに勤しんでいた。


「まったく、結菜は大雑把ミルねぇ。ほら、こうやって量るミルよ」


「ミルクさん、それは砂糖ではなく薄力粉です」


 テーブルの上では、ミルクもチョコマカと動き回っている。

 両者共に、ケーキ作りに貢献しているのかといえば微妙なところであった。


「えー、このように砂糖を量ってボウルに入れてですね」


 結局、和夫が手際よく作業を進めていく。


「これを、湯煎につけて泡立てます」


 予め温めておいたお湯を張ったボウルに、今しがた材料を投入したボウルを重ねた。

 そこに、ハンドミキサーをかけようとしたところで。


「ねーねー。これ、魔法でやった方が早くない?」


 いいことを思い付いた、とばかりの笑みを浮かべた結菜が魔法陣を描いた。

 その手に、《箒》の姿はない。


「あっ、先輩それは……」


「《レモン☆トルネード》っ」


 和夫が声を上げた時には、既に結菜は魔法陣を描き終えていた。


 ボウルの中心に、小規模な竜巻が出現する。


「どわっ!?」


 結果、勢い良すぎる竜巻によってボウルの中身が飛び散り結菜が驚きの声を上げた。

 その顔に、クリームが飛来し……。


「《エア☆クッション》っ」


 空中で、止まる。

 和夫が素早く魔法陣を描き、空気に壁を作り出して受け止めたのである。


「お~。流石、見事ミルねぇ」


 ポムポム、とミルクが拍手する。


「先輩……《箒》無しの魔法行使を日常で磨くのは良いですが、ここまで細かい作業をやるのはまだ早いかと」


 受け止めたクリームをボウルに戻しつつ、和夫が苦言を呈した。


「はーい。ごめんなさーい」


 結菜も素直に頭を下げる。


「っと、受けきれていませんでしたか」


 そんな結菜の鼻の頭にクリームが少し付いているのを見て、和夫が片眉を上げた。


「少し、じっとしていてください」


 ティッシュを取って、結菜の鼻を拭う。


「んっ」


 少し顔を上げ、結菜はされるがままになっている。


「はい、取れました」


「にへへ、あんがと」


 和夫がティッシュをどけると、結菜がはにかんだ。


 その表情はもう何の壁も感じられない、心からの信頼を乗せたものだ。


「どういたしまして」


 そう言って微笑み返す和夫の顔も、また。


「むっ!」


 と、ピクリとヒゲを揺らしたミルクが虚空を見上げた。


「結菜、和夫、魔物の出現を検知したミル!」


 その両目には、六芒星が浮かんでいる。


「りょーかい! 行こう、おっさん!」


「はい、先輩!」


 顔を見合わせ頷き合った後、結菜と和夫は魔法少女として出撃する。



   ◆   ◆   ◆



 世は、空前の魔法少女不足であった。


 全ての少女にとって魔法少女が憧れだったのも、今は昔。


 だけれども。


「あれ、菜種ちゃん?」


「おぅ、結菜に山田後輩じゃん」


 現代にも、魔法少女は存在する。


 数は減っても、確かにまだ活動している。


 泣いている誰かのために。


 みんなの笑顔を守るために。


 先日の『大厄災』こそ乗り切ったものの、結局その収束も出入り口であるその場の《魔門》を打ち壊してのものだ。

 根本的な解決には至っていなかった。


 直近に比べて頻度が激減してこそいるものの、今も魔物は出現している。

 今後も魔法少女たちは、手強い魔物や業界の人手不足などと戦っていくことになるのだろう。


 それでも。 


「アンタらがいんなら、ウチは別にいらなかったかな」


「はは、そう言わず。一緒に行きましょうよ」


「ま、しゃーないねぇ。可愛い後輩共の頼みとあっちゃね」


「ちょっとー、アタシは何も言ってないんだけどー」


 当の魔法少女たちは、なんだかんだと楽しくやっていて。


「あれはなんだ……?」


「鳥か……? 飛行機か……?」


「いや、魔法しょ……」


「いや!」


 時に、その中には。


『おっさんだ!?』


 おっさんの姿も、混じっていたりするのであった。






―――――――――――――――――――――

本作、これにて完結です。

最後まで読んでいただきました皆様、誠にありがとうございました。


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史上初のおっさん魔法少女が誕生した経緯とその顛末について はむばね @hamubane

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