第24話 とある魔法少女たちの魔法
和夫が無事に帰還したことで、辺りに弛緩した空気が流れる中。
「こらこらみんな、まだエンディングには早いミルよ」
そんな言葉と共に、ピョコンと和夫の肩に飛び乗りながらミルクが腕を組んだ。
「あれ……? そういやミルク、ここしばらく静かだったね? 何してたの?」
「無茶苦茶和夫と一緒にいたミルよ!? いつの間にかいなくなってたミルっしょ!?」
ふと気付いたような表情で尋ねた結菜に、ミルクが驚愕を返す。
「あ、そうなんだ……ごめん、気付いてなかった……」
謝る結菜の表情には、罪悪感がありありと見て取れた。
「素で謝られるとなんか余計に傷付くミル……」
ミルクが大層微妙な表情となる。
「と、とにかく! ミル」
それを改め、ミルクが和夫の後方を指した。
「あれを破壊するまでは安心出来ないミルよ!」
大穴の開いた、《魔門》を。
「あれを放置するのはマズいミルね? 和夫」
「そうですね……」
顎に指を当て、和夫は考えた。
「恐らく、ですが……」
そう前置いて、話し始める。
「結局空間も凍結しきれませんでしたし、無理に穴を開けた状態です。自然に消滅すると考えるのは楽観視が過ぎますし……最悪、あのまま核が復活して『大厄災』と同等の事象が再発する事態も考えられます」
「いひひ、
言葉とは裏腹に、結菜の表情は気楽げなものだ。
「でも、アタシたちなら何とか出来る……だよね?」
次いで、和夫へと向けてニヤリと笑う。
「えぇ、もちろんです」
和夫も、珍しく好戦的な笑みを浮かべた。
「《魔門》ごと吹き飛ばせば出入り口を潰せますので、とりあえずはそれで問題ないと思われます」
「そりゃ簡単でいいね」
結菜が《魔門》へと向き直る。
「んじゃ、いっちょやったりますか!」
「あ、先輩。少し待って下さい」
《インフィニティ》の力を宿したまま踏み出そうとした結菜を、和夫が呼び止めた。
「第一階位魔法といえど、少し出力が足りない可能性がありますので……私にも、協力させてください」
と、魔力の糸を伸ばし。
魔法少女たちが描き上げた《インフィニティ》の魔法陣へと、更に書き加え始める。
「……? 見たことない魔法陣……?」
振り返った結菜が、それを眺めながら首をかしげた。
「理論だけは完成していましたが、恐らくは誰にも扱えないと思ってマニュアルにも登録していなかった魔法です。第〇階位魔法、とでもいいましょうか」
淀み無く、猛烈な勢いで魔法陣を描きながら和夫が答える。
「おっさんでも使えないの?」
「はい、私でも。東雲佳奈でも」
そう口にして、笑みを深めた。
「一人では、使えません」
けれど、と続ける和夫。
「皆さんとなら、可能です」
確信を伴って、断言する。
「そっか」
結菜も笑みを深めた。
「それ、なんて魔法なの?」
「名前も、まだありません」
「んじゃ、今付けようよ。魔法名叫ばなきゃテンション上がらない……でしょ?」
かつて和夫が言った言葉を、あの時は微妙な顔で聞いていた結菜が、今度は当然の事のように口にする。
「はは、そうですね……では」
魔法陣の構築速度を些かも鈍らせることなく、和夫は同時に思案した。
「《マジキス☆プエリス》、なんていかがでしょう?」
そして、思いついた言葉をそのまま口にする。
「マジキス……? それって、どういう意味?」
「魔法少女たち、という意味のラテン語です。私たちの存在、それそのものがこの魔法を使用可能にするので……と思いまして」
「にひ、いいじゃん」
結菜も気に入った様子だ。
「これで、完成です」
ちょうどそこで、魔法陣の加筆も完了した。
「よし……それじゃやろうか、みんな!」
『おー!』
結菜の呼びかけに、一同声を揃えて呼応する。
結菜も、再び《魔門》の方へと向き直った。
彼女を筆頭に、魔法少女たちの表情が引き締まる。
殊更、タイミングを合わせる必要はなかった。
今、魔法少女たちの心は一つになっていたから。
すぅ、と同じタイミングで魔法少女たちが息を吸う。
そして。
『《マジキス☆プエリス》!』
少女たちが一斉に叫んだのと同時、魔法陣が輝いた。
膨大な量の魔力が放出される。
魔力の塊が、《魔門》に向けて飛翔した。
刹那の間も置かず、着弾。
結菜の、第二階位の、現代魔法少女の頂点でも僅かにしか傷付けられなかった存在に。
それは、些かの抵抗も許さなかった。
丸ごと《魔門》を飲み込んだそれは、全く速度を落とすことなく光の軌跡を残しながら彼方へと飛び去っていく。
その後には……もう、何も残っていない。
拍子抜けするほどあっさりと、あっけなく。
《魔門》は、消滅したのであった。
だが、それも当然のことと言えよう。
なにせそれは、ここにいる全ての魔法少女の魔力と想いが込められた魔法なのだから。
だから誰も、その結果に驚きもしなかった。
尤も。
彼女たちの表情が喜びと達成感に満ちたものであったかといえば、それも少々異なる。
なぜならば……。
放出された魔力の塊が、真っピンクのハート型だったから。
「……思うんだけどさ」
魔法の余波で吹きすさぶ風に前髪を揺らしながら、結菜がポツリと呟く。
「おっさんの魔法のセンスって、結構アレだよね」
「そうですか? 魔法少女らしくて良いと思うのですが……」
◆ ◆ ◆
かくして。
発生検知から、11時間24分。
十年ぶり二回目の『大厄災』は、只の一人も犠牲者を出さず無事収束したのであった。
魔法少女たちの、なんとも言えない感じの半笑いを残して。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます