第3話

 そんな彼が突然お店に来てくれなくなった。

 それももう二か月も。何があったのか気になるのは当たり前じゃないか。

 それなのに永門君は何も答えてくれない。

 もしかして気づかれたのか?それで私が嫌だから来てくれなくなったのか?そんなことばかり考えてしまう。でも今更そう真正面から聞くこともできない。こんなことなら最初から鳳条百合愛とユリは同一人物だと言っておけばよかった。


 もうすぐ今年も終わりだ。

 こんな気持ちのまま冬休みに入って新年を迎えたくない。でもどうしようもない。考えてたら涙が出そうになってきて、慌てて堪える。

「はぁ……」

 あまりおじさんとおばさんに心配をかけたくないけど、思わずため息が出てしまった。


 そんなときだ。お客さんが一人入ってきた。接客しなければ、と気合を入れ直し、俯き気味だった顔を上げ私は固まってしまった。

「ユリさん、ご無沙汰です」

 永門君はバツが悪そうに苦笑を浮かべている。

「…………」

「これからまたここの弁当にお世話になります」

「……どう、して……」

「今日はクリスマスですけど、木曜だから、もしかしたらユリさんバイト入ってるかなと思って」

「……そうじゃなくて、どうして、急に来なくなったの?」

「いやー、恥ずかしい話なんですけど、両親がケンカして母親が父の単身赴任先から戻ってきちゃってたんですよ。ただ今日の昼間、父親からクリスマスデートの誘いがあったみたいで今日慌てて帰っていきましたけど」

 永門君の話に私は呆然と聞いていることしかできなかった。それを不思議に思ったのか、

「ユリさん?」

 永門君が首を傾げる。

 私の不安を知りもしないでとぼけた顔をしている永門君が憎たらしい。

「……そう、なの。でも黙って来なくなっちゃった永門君にはもうサービスしてあげないから」

 思わず心にもないことを言ってしまう。

「それは残念です。ユリさんの作ってくれるものどれも本当に美味しかったから」

「っ!?知ってたの!?」

 確かにサービスで渡してたものは私が作ってたけど、永門君には余りものだって伝えてたはずなのに。

 永門君はしまったって顔をした後、

「……実は知ってました。すみません」

 そう言って申し訳なさそうに苦笑した。

 私はすぐに言葉が出てこなかった。

「今日は弁当を買いに来たんじゃなくてですね。これを渡したくて。クリスマスなのでブッシュドノエルなんですけど、よかったらおじちゃん達と食べてください」

 黙ったままの私に永門君は白い箱を差し出す。

 そこでおじさんとおばさんが出てきた。私達二人を見て何かを察したのか、ちょっと二人で話して来たら?と言って私達を店から出してしまう。


 そうして私と永門君は近くの小さな公園までやって来た。

 私は何を言ったらいいのかわからなくて、口を開けばまた変なことを言ってしまう気もしてずっと黙ったままだった。ただ無言の時間も居たたまれない。

「今日はユリさんにもう一つ伝えたいことがあったんです」

 先に切り出してくれたのは永門君だった。

「なに?」

「ユリさん……、いや、鳳条。クリスマスは無理だったけどよかったら初詣一緒に行ってくれないか?」

 私は絶句して目を見開いてしまった。今永門君は鳳条さん、って言った。私だってバレてたっていうことだ。いったいいつから?なんで?

「え~っと、一応デートの誘いのつもりなんだけど……」

 黙ってしまった私に永門君は言葉を続ける。

「な、んで、私のこと……?」

「ん?ああ、ユリさんが鳳条だってこと?隣の席になったときにすぐ気づいたよ」

「な!?」

 学校での自分の態度が思い出されて恥ずかしさから急激に顔が赤くなってしまう。

「どうして?今まで気づいてる素振りなんてまったく……」

「だって鳳条隠したいみたいだったしさ。鳳条も学校ではバイトでのこと触れないし、秘密にしたいのかなって」

「それは、そうだけど……」

「それで、どうかな?初詣デート」

 トクンと心臓が高鳴る。そう、今私は永門君からデートに誘われている。ドキドキが止まらない。

「なんで永門君が私をデートに誘うの?」

(バカバカ!なんでこんな言い方しかできないの!?)

 もっと言い様はいくらでもあるはずなのに。

 でもこの日の永門君はいつになく真剣でカッコよかった。

「一年の頃からユリさん、ってか鳳条のことがずっと好きだったから。よければ俺と付き合ってほしい」

 まっすぐ私に向けられた言葉。まさか永門君が私と同じ気持ちだったなんて。

 嬉しくて嬉しくて涙が出てきた。それを誤魔化すようにして私は自分から永門君に抱きついた。

「百合愛、って呼んで。でなきゃやだ」

「わかった。じゃあ百合愛もこれからは佑丞って呼んで?」

 私はこくんと頷く。

 こうして私達は付き合うことになった。


 この日は、お店に戻った後、永門君が―――佑丞くんが買ってきてくれたブッシュドノエルを佑丞くんと私、おじさん、おばさんの四人で食べた。それから佑丞くんが私を家まで送ってくれて、ずっとフワフワした気持ちで、こんなクリスマスは初めてだった。

 でもフワフワした気持ちはまだまだ続きそうだ。

 一週間もしないうちに、佑丞くんとの初デートが待っている。




 ―――――あとがき――――――

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鳳条さんの秘密を俺だけが知っている 柚希乃愁 @yukinosyu

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